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2018/03/04

プリンスのブルー(Brew)

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プリンスのライヴ・アルバム『インディゴ・ナイツ / ライヴ・セッションズ』(2008)。以前も書いたようにこれは音楽アルバムの CD 単体では販売されていない。かなりサイズの大きい写真集みたいな本『21ナイツ』の付録品であって、本のバック・フリップにディスクだけが貼り付いているから、ジャケットなんかも当然なし。

まあでもジャケットなしというか、そもそもその写真集が絢爛豪華なジャケットみたいなもんなのだ。しかしプリンスの写真とか、ライヴの模様を文字で書いてあったりとか、印刷された歌詞とか、そういうたぐいのものにはほぼ興味のない僕で、この人の生み出す音だけをこそ心から強く愛しているわけなんだから、CD だけをどうして売ってくれないのか?とちょっと恨みに感じつつ、しぶしぶその写真集を買い、届いたら速攻でディスクだけ剥がして、本のほうはめくりもせず部屋の片隅に。

音楽アルバム『インディゴ・ナイツ』はかなりいい内容だから、う〜ん、じゃあちょっと…、と写真集『21ナイツ』のほうもなにが載っているか知らないままめくってみたら、これがあんがい楽しかったね。音楽を楽しむのに必須かどうかわからないが、そのへんはあまりくどくど言わないことにする。ただ、このライヴ音楽 CD『インディゴ・ナイツ』についての各種データが巻末にしっかり記されているのにはじめて気が付いて、大いにありがたかった。ここだけはもっと早く見るべきだったと反省。

写真集『21ナイツ』は、2007年8&9月にロンドンの O2アリーナで、文字通り21夜連続で公演を行った際に撮影されたもので構成されている。そのあいだ、というかずっと前からそうらしいんだけど、プリンスは派手なメイン・アクト終了後、小さめのクラブみたいなところで、それも濃く長いアフター・ショウをやっていたらしい。

アフター・ショウといえば、2002年のライヴ・アルバム『ワン・ナイト・アローン...ライヴ!』の三枚目も「アフター・ショウ」だったよね。長時間のメイン・アクトであれだけのパフォーマンスを見せたあと、アフター・ショウも濃厚なので、プリンスの精力にみんなビックリするんだそうだ。

プリンスの公式ライヴ CD としては『ワン・ナイト・アローン...ライヴ!』に続く二作目で、これら二つしかない(ほかにも DVD とネット配信オンリーで一個つずつあるが)。 音楽アルバム『インディゴ・ナイツ』は、O2アリーナ附属のクラブ The IndigO2 での2007年9月17日と22日のアフター・ショウから抜粋されて編集されている模様。この日付は零時を回ってからのもの。

音楽アルバム『インディゴ・ナイツ』は巧妙な編集で、一夜の一回性のアフター・ショウを聴いているような気分にひたることができる。全体的にプリンスの音楽としても相当にリラックスしているような演唱で、いつも漂っている強い(強すぎる)緊張感がないのは、かえって美点になっている。だからふだん聴きにはかなりいいムードを部屋のなかでつくってくれるライヴ・アルバムなんだよね。

いつものプリンスと違っている点がもう二つある。一つは曲じたいとしても自作曲のなかへの挿入素材としても、カヴァー・ソングが多いこと。たぶんプリンスの全音楽アルバム中、最もカヴァー(曲、素材)が多いのが『インディゴ・ナイツ』だ。もう一つは女性ヴォーカリストが三曲フィーチャーされている。

フィーチャーされている女性ヴォーカリストは、8曲目「ロック・ステディ」のビヴァリー・ナイト。12「ミスティ・ブルー」、13「ベイビー・ラヴ」のシェルビー・J。シェルビー・J のほうはこの当時のプリンス・バンドのレギュラー・サイド・ヴォーカリストだった。ビヴァリーは英国の黒人ソウル歌手。アリーサ・フランクリンなどからの影響が濃いので、アリーサの「ロック・ステディ」を歌うのは当然の成り行きだ。プリンスというよりビヴァリーの選曲だった可能性もある。

12、13曲目とアルバム終盤で登場するシェルビー・J は、このライヴ CD 終盤の目玉みたいな感じで歌っている。プリンスも大きな声で、「シェルビー・J!スター誕生!スター誕生!」と繰り返し叫び、観客に拍手をうながしている。歌っている「ミスティ・ブルー」も「ベイビー・ラヴ」もカヴァー・ソングで、プリンスの曲ではない。前者はスウィート・ソウル・バラード、後者はアップ・テンポのファンク・ジャンパー。

これら女性歌手がフィーチャーされプリンス本人はまったく歌わない三曲では、いつものプリンスの音楽とはやや趣が異なっているのか?と思うと、そんなこともない。まさしくプリンス印が押されているようなナイト・ショウの一部で、ギターの音すらあまり聴こえないものだが、そこにプリンスが立っているという強い存在感があるよなあ。カリスマティックな支配とはそういったものなんだろう。

もう一曲の鮮明なカヴァーは9曲目のレッド・ツェッペリン「胸いっぱいの愛を」(Whole Lotta Love)。しかしここではギター・インストルメンタルになっていて、ヴォーカルはなし。ギター・ソロもさほど聴きごたえがあるような内容じゃないような…。大のツェッペリン・ファンの僕としてはあの超有名リフをプリンスが弾いているんだと思うだけで気分はいい。がまあ、これはちょっとなあ。

またアルバム『インディゴ・ナイツ』には未発表曲というか新曲(?)があって、7曲目の「ベギン・ウーマン・ブルーズ」、11曲目の「インディゴ・ナイツ」。しかしそれらだって新曲といえるかどうか?まず後者はインストルメンタルなラテン(サルサ)・ジャムだから、曲というより即興演奏だ。

前者「ベギン・ウーマン・ブルーズ」は、カズン・ジョーの「ベギン・ウーマン」とルイ・ジョーダンの「スリー・ハンディッド・ウーマン」を合体させたもので、原曲どおりブルーズ・ナンバー。プリンスが珍しくかなりレイド・バックして歌っているのが、いかにもアフター・ショウでのブルーズといった雰囲気満点で、聴いていると心地いい。

ブルーズといえば、その前の6曲目「サティスファイド」もそうじゃないか。アルバム『3121』にオリジナルが収録されているが、そのころブルーズ・ナンバーだと気が付いていなかった僕。『インディゴ・ナイツ』ヴァージョンは、しかしかなり雰囲気が違う。これも強烈にレイジーでセクシー。「ベギン・ウーマン・ブルーズ」同様、強くジャジーでもあって、1940〜50年代のジャンプ〜リズム&ブルーズのスロー・ナンバーに似ている。

そのほかそこかしこにいろんな古い曲の引用があるので、CD(というか本というか) をお持ちのみなさんは探してみてほしい。たとえば1曲目「3121」には、スコット・ジョップリンの「ジ・エンターテイナー」が使われていて、そのメロディをホーン・セクションが演奏するのがイントロになっている。アフター・ショウからの抜粋だけど、ライヴ・アルバムの幕開けにこのラグタイム・ナンバーを持ってきたのはかなり意図的だよね。

プリンスの『インディゴ・ナイツ』。1曲目からラスト15曲目まで、まるで煮込みに煮込んだトロトロの濃厚スープみたいなファンク・ミュージック(&かなりジャジー)で、だから素材は溶けて原型をとどめていない。本の巻末に記されている曲名を眺めながら聴いていて、あっ、そうだその曲だねとわかる断片的なモチーフみたいなものとしてしか原曲は機能しないんだが、そんな醸成(brew)された状態が、この『インディゴ・ナイツ』では美味になっていると思うんだよね。

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