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2018/04/01

こ〜りゃカッコいいミックのソロ・アルバム No.1

 

 

1曲目「ワイアード・オール・ナイト」。冒頭でドラマーがスティックを鳴らしながらカウントし、派手で大きな音のエレキ・ギターといっしょにロックンロール・リフが鳴りはじめた瞬間に、1993年の僕は完全 KO されちゃった。な〜んてカッコイイんだぁ!ミック・ジャガーのソロ・アルバム『ワンダリング・スピリット』。

 

 

ローリング・ストーンズのどのアルバム周辺のソロ・プロジェクトだったのか、いっぽうの雄キース・リチャーズはそのころどんなソロ作を?なんてことはネットで調べればすぐわかるから省略。とにかく1曲目「ワイアード・オール・ナイト」のこのビートにシビレるしかないって〜の。なっかなかないよ、こんなすごいの、ストーンズでも。この一曲目の出だしを聴いただけで、『ワンダリング・スピリット』は傑作だと、1993年の僕は信じたんだった。

 

 

聴き進むにつれ、信じたとおりの素晴らしい内容だとわかってきた。いくらいいからと言っても、やっぱりストーンズのあのまろやかさにはおよばないと思うんだけど、ミックのいままで四枚あるソロ・アルバムではいちばんいいのは間違いないと思う。一作目の『シーズ・ザ・ボス』(1985)がリリース当時 MTV なんかでバンバン PV が流れて話題になっただけで、それ以外のソロ・アルバムなんて相手にしてもらえてない気がするけれども。

 

 

1曲目「ワイアード・オール・ナイト」は、ギターがブギ・ウギのパターンを弾く時間もあるというストレートなロックンロール・ナンバーで、ミックもむかし取った杵柄みたいなもんだけど、1993年らしい音圧と分厚さがあって、そこがだいたいいつもスカスカなストーンズのロックンロールとはかなり違うのだ。

 

 

しかも「ワイアード・オール・ナイト」が終わるや否や、曲間の無音なしで2曲目「スウィート・シング」になだれこむ。曲間のポーズをなくしどんどんつなげちゃうっていうのは、このアルバムのほかの部分でもそうで、つまり1990年代初期の UK クラブ・ミュージックのやりかただよね。そこいらへんはミックも時代の潮流を意識していたんだろう。

 

 

それに2曲目「スウィート・シング」じたいがクラブ・ミュージックだもんね。CD などでお持ちでないかたは上の Spotify にあるので聴いていただきたい。コンピューターで創ったデジタル・ビートはミドル・テンポのいかにもなクラブ・ダンサー。それにアクースティックなパーカッションがからみ、テナー・サックス(コートニー・パイン)が間奏ソロを吹く。ジャジーなフィーリング(アシッド・ジャズふう?)もある。

 

 

クラブ・ビートはこのアルバムにはほかにもある。6曲目の「ユーズ・ミー」。もちろんビル・ウィザーズのカヴァーで、ビルのオリジナル(1972)からして、デジタルなサウンドじゃもちろんないが、クラブ・ミュージック的なニュアンスのグルーヴがあった。クラヴィネットなんかも効果的だよね。

 

 

 

この粘っこいクラヴィネットの使いかたはミックもそのまま継承している。弾いているのはクレジットされているビリー・プレストンかなあ。しかもここでは当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったレニー・クラヴィッツがゲスト参加で、ミックとデュオで歌っている。これもカッコいいリズム&ブルーズ・フィールだなあ。

 

 

しかもこのベースはフリー(Flea、レッド・ホット・チリ・ペパーズ)なんだよね。フリーはほかにもアルバム中数曲で弾いている。『ワンダリング・スピリット』で特に目立つゲストは、これらレニー・クラヴッツとフリーくらいかな。それ以外はストーンズでもおなじみの人脈が堅実に脇を固めている。

 

 

9曲目の「シンク」は、ジェイムズ・ブラウンで有名なあのリズム&ブルーズ楽曲。ミックはしかしストレートなブラック・ビートではなく、突っかかるように進んだり一時停止したりする妙なノリのロック・ナンバーにアレンジしている。ここでも「ユーズ・ミー」同様、コートニー・パインがテナー・サックス・ソロを吹くあいだは1990年代アシッド・ジャズの香り。

 

 

10曲目のアルバム・タイトル・ナンバーはロカビリー・ミュージックとしてはじまる。出だしのギターがちょっぴりチェット・アトキンスっぽいナッシュヴィル・スタイルだけど、途中からエレキ・ギターとドラムスが炸裂してハード・ロックになって、女声バック・コーラスも入る。それでもやはりロカビリー・テイストは薄く残しているのがミックらしいところ。

 

 

ナッシュヴィルと書いたけれど、かの地のカントリー・ミュージックっぽいものだってあるんだ。11曲目の「ハング・オン・トゥ・ミー・トゥナイト」。ドラマーの叩きかたがカントリーじゃなくてロック・ミュージックのスタイルだけど、ミックの書いた曲や全体の構成、アレンジなどはやっぱりすこしカントリーっぽいよね。ペダル・スティール・ギターも入っているよ。

 

 

関係あるのかないのか、アルバム・ラストの「ハンサム・モリー」。この曲題だけでご存知のかたはみなさんご存知のトラッド・ナンバー。アメリカではブルーグラス界でよくとりあげられるものだけど、ボブ・ディランなんかも1960年代初期に録音している。探せばいっぱいあるので、ぜひ YouTube にて "Handsome Molly" で検索してみてほしい。

 

 

ミックはそんな伝承曲「ハンサム・モリー」を、フィドラーひとりだけをしたがえて歌っている。トラッド・フォークみたいで、なおかつケルト伝承曲、アイリッシュ・トラッドのようでもある。フィドルはオーヴァー・ダブしてあるのかないのか?わからないが、クレジットは一名だけど、同時に複数台鳴っているような?

 

 

ここまで書いた曲以外は、まあふつうのロック・ナンバーやバラードだけれど(13曲目の「エンジェル・イン・マイ・ハート」はマット・クリフォードの弾くハープシコードの伴奏で歌うクラシカル・ナンバー)、ミックのアルバム『ワンダリング・スピリット』、オールド・スタイルな従来型と、1990年代前半という時代の潮流を強く意識したものとのバランスが取れていて、2018年においても全体的にじっくり聴きこんで味のある傑作じゃないかなあ。

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