君のともだち
マイケル・ジャクスンがモータウン時代に歌ったヴァージョンがいちばん好きな「君のともだち」(You’ve Got A Friend)。キャロル・キングのこの曲は、ジェイムズ・テイラーが歌ったものがヒットしたというのは周知の事実だが、そもそもこの曲の誕生の経緯がテイラーに関係するものだったとは、つい最近知ったばかり。
そのあたり、この「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」という曲誕生のいきさつや由来、キャロルがいったいどういうわけでこれを書いたのかなどは、ネットで調べればわかるので、英語だけど簡単なものだから読めるはず。ご存知なかったかたはぜひご一読いただきたい。要はキャロル・キングとジェイムズ・テイラーの両ヴァージョンは不可分一体だってことみたいだ。
それにしてもオリジナルであるはずのキャロル・キング『タペストリー』の録音も1971年、ジェイムズ・テイラーのアルバム『マッド・スライド・スリム・アンド・ザ・ブルー・ホライズン』も同年録音で、どっちも1〜2月のスタジオ・ワーク。発売は前者のほうが一ヶ月ほど早いけれど(二月)、製作時期はほぼ同時進行みたいなものだったよなあ。もっと細かいデータがないかネットで探してみたけれど、僕は見つけられなかった。
キャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド 」もシングル発売されたものの、なんといってもビッグ・ヒットになったのは1971年4月発売のジェイムズ・テイラーのシングルのほうだ。ビルボードのポップ・チャート首位。そのおかげで、キャロルもグラミーのソング・オヴ・ジ・イヤーを受賞できた。
ジェイムズ・テイラー・ヴァージョンは、キャロル・キングのものとはかなり雰囲気が違っている。後者はもちろんピアノ中心、前者はアクースティック・ギター中心というのはあたりまえだが、テイラー・ヴァージョンは歌詞もすこし変えている。ドラマーは控えめで、打楽器はコンガの音のほうが目立つ(同じラス・カンケルの演奏)。そのコンガ・サウンドがかなりおもしろいよね。
コンガと、ジェイムズ・テイラー&ダニー・クーチマー二名のアクースティック・ギターと、このトリオ・アンサンブルのサウンドに、僕は、僕だけでしょうけれども、ちょっとしたほんのりラテン・タッチを感じる…、んですけど、ホント、僕だけですかぁ〜?特にコンガだ。コンガだからラテンだとか言っているんじゃない。リズムがシンコペイトして、やや跳ねている、ような気がする。
ジェイムズ・テイラーの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」にラテン・タッチがある、そしてほんわかファンキーだとか、こんなこと言うやつは世間で僕だけかもしれない。ラテン・ミュージックが好きで聴きすぎで、耳がおかしくなっているんだろう。でもさぁ、ラテン好きの音楽ファンのみなさん、一度じっくりジェイムズ・テイラー・ヴァージョンの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」を聴きなおしていただけませんか。
そんなおもしろい部分を個人的には感じるジェイムズ・テイラーの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」。もちろん直接的にはテイラーの私生活に即した曲をキャロル・キングが書き、自分にはだれもいないと落ち込む彼の孤独感を少しでも癒そうとしてできあがった曲みたいだから、淡々と静かに心情を綴り、優しく寄り添うような曲に違いない。たしかにそんな曲調だし、メロディも伴奏サウンドもそう。
そんなキャロル・キングとジェイムズ・テイラーが、1971年当時ライヴで共演してこの曲をやったものがあるよね。以前も触れたキャロルのカーネギー・ライヴである『ザ・カーネギー・ホール・コンサート - ジューン、18、1971』。発売は1996年だった。六月というと、テイラー・ヴァージョンのシングル盤が大ヒットのさなかだったはず。
音楽的には、そのカーネギー・ライヴでの二名の共演による「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」が、そんなにすごくおもしろいとは思えない。この曲にかかわって密接だったこの二人の、しかも1971年6月というホットな時点でのライヴ共演ヴァージョンで、心の交流がサウンドにも出ているなと感じるのが素晴らしいけれど、サウンドやリズム・ニュアンスのおもしろさは薄いよなあ。
その後のいろんな歌手のカヴァーによる「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、僕はそんなにたくさん聴いてなくて、いちばん上で書いたマイケル・ジャクスンのと、二種類のダニー・ハサウェイ・ヴァージョンと、アリーサ・フランクリンがゴスペル・ライヴで宗教曲化して歌っているのと、それらだけだ。
そんななかでは、ロバータ・フラックとの共演でのスタジオ録音と単独でのライヴ録音の二種類があるダニー・ハサウェイのヴァージョンは、きわめてキャロル・キングのオリジナルに近い。同じ鍵盤楽器奏者だから、ピアノとフェンダー・ローズの違いはあっても、似たようなサウンドになるという面もあるんだろう。
でもそれだけじゃない。それ以上に、キャロル・キングとダニー・ハサウェイはかなり似た資質の音楽家なんだろうと思える、聴こえるんだよね。二人ともプライヴェイトやそれにまつわる諸事を淡々と綴る1970年代初期のシンガー・ソングライターだという点で共通している。ダニーはいわゆるニュー・ソウル・ムーヴメントのなかに位置付けられるけれど、でもたとえばあのころのマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーなどとはちょっと印象が違うよね。
ダニー・ハサウェイは、むろん社会派な面も音楽的にあるけれど、もっとこう、グッと卑近な日常に接して寄り添っているような気がする。ダニー自身がどんな人だったのか知らないが、少なくとも音楽的には、聴き手の私生活にソフト・タッチでそっと近づきやさしく語りかけるような、そんなニュアンスをあのサウンドやヴォーカル・トーン、歌いかた、フェンダー・ローズの弾きかたに僕は感じる。
そんな資質だからこそダニーは、キャロル・キングの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」やジョン・レノンの「ジェラス・ガイ」などをあんなにいい感じで弾き語ることができたんだと思うんだけどね。「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」は、スタジオ録音ヴァージョンだとロバータ・フラックと二人での男女の友情を綴ったようなフィーリングだけど、『ライヴ』ヴァージョンでは後半部が観客のマス・クワイアになって、大きな連帯を表明しているかのようになっている。
ジェイムズ・テイラー・ヴァージョンはリズムがシンコペイト気味でラテンふうだと書いたけれど、それを引き継いでいるのがマイケル・ジャクスンのヴァージョンだ。1972年1月発売のモータウン盤アルバム『ガット・トゥ・ビー・ゼア』収録。意外なことにシングル・カットされていない。正確な録音時期もわからない。
このマイケルの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のサウンドとリズムがかなりいいよね。チャーミングだ。もちろんピュアな天使が、困って、弱っているのなら僕の名前を呼んで、すぐに行くから、と歌うあの声がいちばん素晴らしいものなんだけど、サウンド面では特にリズム、なかでもエレベがいいなあ。かなり跳ねてシンコペイトしている。
マイケルだけじゃなくてモータウン音源のばあいよくあるけれど、演奏パーソネルがわからない。だからマイケルの「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」の、あの強力に跳ねるエレベをだれが弾いているのか不明なのが悔しい。カッコイイのになあ。さらにかなりいいサウンドだと思うストリングス・アンサンブルをだれが書いたのかもわからないよなあ。知りた〜い!ストリングス・リフ反復がこんなにファンキーに聴こえるなんて、P ファンクを除き、ほかにあるのだろうか?
僕の持つ「ユーヴ・ガット・ア・フレンド」のうち、残すは強烈なゴスペル・ソングと化しているアリーサ・フランクリンの1972年1月の教会でのライヴ『アメイジング・グレイス』ヴァージョン。これについては以前、僕なりにちゃんと書いたつもりなので、以下をお読みいただきたい。感動的です。
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