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2018/04/17

大胆にしてエレガントな3ピース・ショーロ 〜 ファビオ・ペロン

たしかにこのジャケットのルックスは新世代ジャズみたいだよなあ。でも中身は正真正銘のトラディショナルな王道ストレート・ショーロ。といってもコンボ編成や、またビッグ・バンド編成(のショーロはとっくに失われたのか?)とかじゃない。バンドリン&ギター&7弦ギターと、たった三人だけでアルバム全編をやっている。

主役のファビオ・ペロンはサン・パウロの若手バンドリン奏者で、キャリアは浅い。しかし脇を固める二人のうち、7弦ギターのゼ・バルベイロはショーロ・パウリスタのなかでも大きな存在で、シーンの重鎮。シーンの、というだけでなく、ゼの演奏で作品がピリリと締まるという、脇役をやらせても当代随一。

もうひとり、6弦のギターがダニーロ・シルヴァ。よく知らないんだけど彼の Facebook ページによれば、やはりサン・パウロ出身でいまでも同地で活動するギタリストのようだ。写真にはエレキ・ギターを弾く姿があるので、古典ショーロだけでなく、もっと幅広く活動しているのかも。

今日話題にしている『アフィニダージス』の中身は、ファビオ・ペロンのバンドリンとゼ・バルベイロの7弦ギターが中心になって進んでいる。基本、ファビオのバンドリン演奏をフィーチャーしているが、ときおりギター・ソロも聴こえ、それはゼなのかダニーロなのか、僕の耳では判断できない。

7弦ギターは通常の6弦の最低音弦にもうひとつ低い音の弦を追加しているものだから、やはりベース的な弾きかたでボトムスを支える部分にも聴きどころがあるんじゃないだろうか。ファビオの『アフィニダージス』でも随所で七弦の低音が聴け、それがファビオの弾く硬質なバンドリン・サウンドをよく際立たせている。

ぜんぶが弦楽器のトリオ編成で作品とするわけだから、三人ともが相当な実力を持っていないと成り立たないはず。そんな技巧は、ゼ・バルベイロのものは折り紙つきだけど、ファビオ・ペロンのバンドリンだって素晴らしく上手い。早弾き的な部分だけじゃない。それもたくさん聴けるけれど、もっとこう、メロディを歌わせる技術に長けているというのが最大の美点だ。

だいたいショーロってそんな音楽だよね。きらびやかさとか派手さとは、ふつう縁遠い。しかしこないだ書いたメシアス・ブリットのカヴァキーニョ独奏作とかもそうだったけれど、地味きわまりない滋味さにこそ、ショーロの深み、愛すべき輝きがあると僕も思う。丁寧に弾き込む三人のからみには、やはり真のきらびやかさがあると見ることもできる。

と書いてきたけれど、これ、たった三人でやっているわけだから、やはり冒険的、野心的で、かなり大胆なアルバムでもあるよねえ。流麗だから、聴いているあいだはそれを忘れているんだけど、そこまでスムースな音楽に仕上げることができるのが、三人の腕前の素晴らしさってことなんだろうなあ。

『アフィニダージス』全九曲の中で、僕のいちばんのお気に入りは、いかにもショーロ(泣く)という8曲目「カンソーン・ド・リベルタール」。も〜う、こういうのが、僕はだ〜いすきなんですよ。アルバムの曲はすべてファビオか参加しているほかの二名か共作か、とにかくぜんぶオリジナルだけど、8曲目「カンソーン・ド・リベルタール」はファビオ作。

こういった曲が書けるというのが王道ショローンたるゆえんなんだけど、こんな切なく哀しそうなメロディを表現するファビオのバンドリンは音の粒立ちが良く、アタック音も強い。ストレートに弾いたり、オルタネイト・ピッキングのトレモロで音を反復しながら装飾したり(つまり、同系楽器であるマンドリンと同じ)。それにゼ・バルベイロの7弦ギターがコントラ・ポント的に入り、メロディのサウダージを際立たせる。あぁ、最高だ。素晴らしいギター・ソロが二名のうちどっちかのか、どなたか教えてください。

また、これだけどうしてだか英語題の5曲目「ワルツ・フォー・ペロン」。というくらいだからファビオ作ではなくギターのダニーロ・シルヴァが書いた曲。タイトルどおり、導入部が終わると三拍子になる。そのワルツ・タイムを刻むギター・カッティングがダニーロかなあ?三拍子部分はそうでもないんだけど、後半部でスリーサムでの複雑なからみあいになってからが、かなりの聴きもの。すごいんだ。淡々と来ていたのに、そこだけかなりパッショネイト。特に七分すぎあたりから、とんでもない。

アルバム『アフィニダージス』には、そのほか快活に躍動するものや、ミドル・テンポでゆったり進む乾いて無垢で愉快な調子のもの、バラード系のゆったりしっとりしたものなど、曲や演奏のヴァラエティはふつうに豊富だ。たった44分間だけど、ショーロ・アルバムはいまどきの新作でもこの程度が標準なんだろうね。

あっちは二人だけど、北米合衆国のジャズがお好きなファンのみなさん向けには、ビル・エヴァンスとジム・ホールのデュオ作を想像していただければ理解していただきやすいかもしれない、ファビオ・ペロンら三人の『アフィニダージス』。複雑で緊密な連携、高度な楽器技巧、それらを聴感上ゼロにする旋律美の際立たせかたなど、共通点は多い。

でもジャズとの最大の違いは、ショーロだけが持っているこの雰囲気だ。ぬくもった(湿り気のある)情緒を、カラリとした乾きかたで表現するそのサウダージ。世界でショーロしか持っていない。

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