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2018/04/05

メル・トーメのベスト作であろう成熟ライヴ

録音年月日が判然としないメル・トーメのライヴ・アルバム『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』。ニュー・ヨークのナイト・クラブでライヴ録音した二枚組レコードの発売は1981年だったと、ネット情報にある。大学生のころの愛聴盤だったから、それくらいだよね。なにを隠そう、これが初メル・トーメ。幸せな出会いだった。

あっ、録音時期については Allmusic のサイトに1980年6月12日〜81年8月27日と記載があるのが見つかった。これしかし、一年以上のタイム・スパンがあるじゃないか。じゃあその間ずっとメル・トーメはニュー・ヨークのマーティーズに出演していたってこと?レギュラー的に?う〜ん、でもこの Allmusic サイトの情報を信用するとしても、これじゃあ参考になりにくい。

いずれにせよ、『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』は、メルの生涯ベスト・アルバムだと思っている。それが僕の意見。そしてメルのファンもこの見解を共有しているばあいが多い。アルバム・タイトルにあるように、メルの友人たちを招いて共演したのが最大の聴きものというか看板だけど、それは CD だと全18トラックのうちの、CD だとたった4トラックにすぎない。

「CD だと」と繰り返しているのは、二枚組 LP のリイシュー CD だとときどきあることだけど、CD 一枚におさめるために数曲カットされているからだ。『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』だと、LP 一枚目 B 面にあったジェリー・マリガン・メドレー(三曲)と、二枚目 A 面にあった「チェイス・ミー・チャーリー」。この2トラックがリイシュー CD でオミットされている。残念無念。

特にフレンズのひとりジェリー・マリガンを迎えてやっているメドレーはかなりよかったという記憶がある。マイルズ・デイヴィスのあの『クールの誕生』にある「ミロのヴィーナス」もやっていたんだよね。う〜ん、もう一回聴きたかったが…。いちばん上でリンクを貼った Spotify にあるやつもリイシュー CD と同じ内容だ。残念。

しかもその CD リイシューはかなり遅かった。1998年まで待たなくちゃいけなかったんだよね。二枚組レコードで『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』の素晴らしさを体験していたファンで CD 派の人間は、そ〜りゃあ待ったなんてもんじゃない。待って待って、待ち焦がれての1998年だった。

ここまで音楽の中身とはあまり関係ない話だった。『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』は、全曲ピアノ・トリオが伴奏で、そのメンツは微妙に入れ替わる。メル自身がピアノを弾くパートもあるけれど、サウンド的にはアルバム全体が完璧に統一されている。いかにもナイト・クラブで心地いい時間を過ごしているようなリラックス・ムード横溢だ。

フレンズの中身は、上でも書いたジェリー・マリガン(バリトン・サックス、9「ザ・リアル・シング」)、ジャニス・イアン(ヴォーカル、5「シリー・ハビッツ」)、サイ・コールマン(ピアノ、14「ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム」)、ジョナサン・シュウォーツ(ヴォーカル、17「アイ・ゲス・アイル・ハフ・トゥ・チェインジ・マイ・プラン」)。

こう書いてみると、つまり参加しているフレンドが書いた曲をその当人を迎えてやっているわけだね。17曲目の「アイ・ゲス・アイル・ハフ・トゥ・チェインジ・マイ・プラン」は、ジョナサンの父、アーサー・シュウォーツが書いているものだし。それ以外は正真正銘参加しているフレンドが書いたオリジナルだ。

それらフレンド参加の四曲のなかでは、メル・トーメ・ファン、ジャズ・ヴォーカル・ファンのみなさんは、おそらくサイ・コールマンの「ザ・ベスト・イズ・イェット・トゥ・カム」とジョナサン・シュウォーツの「アイ・ゲス・アイル・ハフ・トゥ・チェインジ・マイ・プラン」が一番グッと来るものなんじゃないかな。実際、かなりいいと僕も思う。

個人的には、ずっと以前に書いたジャニス・イアンの「シリー・ハビッツ」があまりにも素晴らしすぎると、絶品だと、なんて哀しくて切ないんだと、も〜う、ため息しか出ないね。こんな歌詞、こんなメロディ、こんなピアノ・トリオの雰囲気、デュオで歌う男女二人が歌詞内容そのままを演じ分けるあたりの演出、も〜う、こんなの、ほかにない。
「シリー・ハビッツ」にとてもよく似ているなと感じるのが、アルバム2曲目の「ニュー・ヨーク・ステイト・オヴ・マインド」だ。ご存知ビリー・ジョエルの書いた歌。いい曲だからというのと、ビリーのシグネチャー・ソングにしてニュー・ヨーク・シティ(というかマンハッタンだが)賛歌みたいな歌だから、当地のナイト・クラブで歌うレパートリーに入れたんだね、きっと。

ジャニス・イアンにしろビリー・ジョエルにしろ、ジャズ界の(シンガー・)ソングライターじゃない。メル・トーメは、いちおうジャズ・ファンのなかでこそ最も名前が知られているシンガーだ。しかしアメリカン・ポップスの世界はそんな偏狭なもんじゃないって、みんな知っているよね。えっ?ジャズもロックも、アメリカの同じようなメインストリーム・ポップスなんですよ。

フレンドを迎えないレギュラー・セットでのパフォーマンスのなかでのクライマックスは、12トラック目の「ポーギー・アンド・ベス・メドレー」になるんじゃないかな。ここではメル・トーメ自身がピアノを弾いている。「サマータイム」ではじまり、「ベス、ユー・イズ・マイ・ウーマン、ナウ」まで、ぜんぶで八曲、ガーシュウィン兄弟の書いたものを速射砲のように次々と短めに織り込んでたたみかける。リズム隊は出たり入ったり。

おもしろいのは16曲目のアントニオ・カルロス・ジョビン「ウェイヴ」。メル・トーメは大げさに歌って聴衆を笑わせているが、背後のピアノ・トリオの動きに注目してほしい。ボサ・ノーヴァふうにやっているなと思って聴いていると、途中からノリが変化して、黒っぽいブラジリアン・ファンクみたいになっているよね。

4曲目のジェローム・カーン「ピック・ユアセルフ・アップ」では、ジェイ・レンハートのベース・ソロのあと、メル・トーメとピアノのマイク・レンジーがバロック音楽ふうの掛け合いをやる。ベースとドラムスは休んでいるそれが終わってリズムが再開すると激変し、ノリのいいグルーヴ・チューンになる。ちょっぴりリズム&ブルーズっぽい。

どうにも切なすぎる7曲目「カテージ・フォー・セール」、ワルツ・タイムにして超グルーヴィな8曲目「テイク・ア・レター・ミス・ジョーンズ」、曲題どおりスウィートさをフルに湛えてやっているロジャーズ/ハートの11曲目「イズント・イット・ロマンティック?」、これも甘いジェローム・カーンの13曲目「ザ・フォークス・フー・リヴ・オン・ザ・ヒル」、どれも絶品だ。

アルバム・ラストはコール・ポーターの「ラヴ・フォー・セール」。この曲はみんなよくそうやるけれど、メル・トーメもちょっぴりアフロ・キューバンなリズムを使ってあって、4ビート部分とを交互に往復する。ワン・コーラス歌い終わるとアド・リブ・スキャットが炸裂。その後、「素敵なあなた」(Bei Mir Bist Du Schoen)が挿入されるのでオッと思ったら、ベニー・グッドマン楽団の「シング・シング・シング」も出てくる。

「ラヴ・フォー・セール」では、そうかと思ったらカントリー&ウェスタンになったりもして、そのまま大きく声を張り大団円、『メル・トーメ・アンド・フレンズ、ライヴ・アット・マーティーズ』はお終い。全体的に主役歌手の声の張り、トーンと技巧の円熟味、特にバラード曲ですこしだけかすれ気味のハスキーさを混ぜてセクシーさを漂わせ、表現に深みを見せるところ 〜〜 などなど、メルのベスト作じゃないかと僕は思うんだよね。

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