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2018/04/09

岩佐美咲「佐渡の鬼太鼓」を聴く

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こういった文章では、有名人や偉人などスターは呼び捨てにするのが僕のふつうの基準なので、今日も美咲でいく。

去る2月27日にリリースされた岩佐美咲のニュー・シングル「佐渡の鬼太鼓」。いつもどおり通常盤と初回限定盤の二種類で、カラオケ・トラックを外すと、二枚あわせて計四曲。もちろん書き下ろしオリジナルの新曲「佐渡の鬼太鼓」。そしてカヴァーが三曲。通常盤に「夢芝居」(梅沢富美男)「空港」(テレサ・テン)、限定盤に「下町の太陽」(倍賞千恵子)。

オリジナルの新楽曲「佐渡の鬼太鼓」は、僕も生体験した2月4日の恵比寿でのコンサートで披露されていた。たぶん熱心な美咲マニアでも、そのときがフル・コーラスで「佐渡の鬼太鼓」を聴いた最初だったと思う。そのしばらく前の1月30日に徳間ジャパンが短いティーザーのようなものを公開していた。
生でも CD でも美咲の「佐渡の鬼太鼓」を聴いていらっしゃらないみなさんには、以下のようなものもあるので。あれっ?でも美咲、ここでは赤の着物だなあ。この曲を歌うときは青色が決まりになっているんだけど、それはソロ・ステージでやるときは、っていうことなのかな。とにかくフル・コーラス聴けるので、ぜひどうぞ。
お聴きになっておわかりのように、はっきり言ってこれはド演歌だよね。愛する男を私が守るという、女の強く激しい情念をフルに表出したような、濃厚な演歌。演歌歌手というのが看板になっている美咲なんだけど、ここまでの荒々しい曲は、いままでになかった。演歌とライト・ポップスの中間あたりで最も真価を発揮する歌手だったんだよね。

そんな真ん中的なというか、折衷的というのはちょっと違うけれど、濃厚演歌でも軽歌謡でも歌いこなせる美咲の技巧の根底のところは、どんなばあいでも声を張りすぎず、コブシをまわさずヴィブラートも効かせず、なんというか従来的な演歌ファンが「これぞ演歌!」とアイデンディティを見出しやすいような、まあ言葉はあれだけど「ヘンな」声の出しかた、歌いかたをしないというところにある。

だからオリジナル楽曲でもカヴァー・ソングでも、どの曲がそうだとは今日は指摘しないが、中間的なレパートリーを歌うときに美咲はいちばん輝いてきた。この僕の見解は、おそらく多くの美咲ファンも、美咲を聴かない一般の音楽ファンも、共有していただけるんじゃないかと思う。

2月4日の恵比寿でのコンサートは、そんな中間路線からの脱皮と本格演歌への移行を、はっきりと示していた。パッケージ商品でこの移行を明確に打ち出したのが、2月27日リリースの新曲「佐渡の鬼太鼓」なんだよね。だから、美咲は歌いかたもすこし変えている。

上で書いたように、いままで美咲はコブシなしヴィブラートなしの、スムースでナチュラルな歌唱法でやってきた。新曲「佐渡の鬼太鼓」では、コブシはやはりまわしていないと思うけれど、ヴィブラートを、軽くだけど効かせるようになっている。随所で聴けるというほどではない。ワン・フレーズの終わりで一音程をサステインしながら強めに声を張るところで、軽く、震わせている。

発声じたいも強さが増しているよね。いままでのキュートでポップな可愛らしいヴォーカル・トーンを控え、ややドスの効いた迫力を表現するようになっているじゃないか。中低音域を強調したような「佐渡の鬼太鼓」のメロディ・ライン(作曲は後藤康二)の、その動きにあわせ、それを効果的に聴かせるべく声の出しかたも変えて、工夫している。

そんな美咲のヴォーカル表現の変化を「大人」への脱皮と言えるかどうか、僕にはわからない。アイドル歌手から本格演歌歌手への「成長」と呼ぶのもすこし違うかもしれない。美咲は提供された楽曲に合わせて、変幻自在に自己の姿をチェンジさせられる柔軟性を備えているのだ、と見るのがふさわしいように僕は思う。

だから「佐渡の鬼太鼓」という本格情念演歌がいちばんリスナーに伝わりやすい表現法を美咲はとっているんだろうね。女の強い決意を示した歌だけど、ヴィブラートで声を震わせているのは、演歌的歌唱法云々という部分もあるだろうが、同時に、歌のなかの女の決心にまだ100%の自信がないという、愛心の揺らぎを表現しているものだとも解釈できる。揺らぎながら、しかし声じたいは非常に強く、確信に満ちて伸ばしているけれどね。

カップリング曲。「夢芝居」は梅沢富美男との舞台での共演がきっかけで歌うことになったのだろうか。梅沢には思い入れがない僕だけど、曲「夢芝居」は、実はわりと好きなのだ。レコード発売時にテレビの歌番組(含む『紅白歌合戦』)に梅沢がどんどん出演していたのを鮮明に憶えている。

「夢芝居」で僕がいちばん好きなのは、あのストリングスを中心とする伴奏陣が見得を切るように演奏するキメのリフの反復なんだけどね。舞台で大向こうを相手にキメてみせるかのようなあの颯爽としたリフは、いかにも梅沢の本業を地で行くものだ。美咲ヴァージョンでもそれはそのまま使われている。あれを消したら「夢芝居」という曲の魅力半減だから、当然だね。

しかしそんな見得というか啖呵を切るような曲でも、美咲の声と歌いかたはあんがい素直でナチュラル。梅沢みたいに格好をつけすぎていないのが、僕なんかには好感度大。伴奏アレンジ(今回の四曲のアレンジャーはすべて野中”まさ”雄一)があんなふうに大舞台でキメてみせるようなものなので、美咲のキュートな発声とのギャップがぶつかりあってキラキラし、曲「夢芝居」にスケール感が増している。言っちゃあ悪いが、美咲ヴァージョンは梅沢ヴァージョンよりだいぶ上をいっている。

オリジナルの上をいくといえば、これもそうだと思うテレサ・テンの「空港」。今回のニュー・シングル二枚に収録の四曲のなかでの白眉がこれだ。えっ?テレサの上?ウソ言え!と、みなさんに突っ込まれそうだけど、テレサの1974年オリジナル・シングル・ヴァージョンと美咲のと両方を、なんどもなんども連続リピート再生し、これは間違いないと確信するに至った。

テレサの「空港」。オリジナル・シングル・リリースの1974年には、テレサはまだ日本の歌謡界でのキャリアが浅かった。たしか二枚目のシングル。日本のプロ・ライターが書く曲にも慣れていなかったかもしれないし、日本語で歌うことには明らかにまだ不慣れなところが聴ける。たぶんその言葉の壁が最大のハードルだったんだろう、「空港」におけるテレサの歌には(日本語歌手としては)未熟さが散見する。

それに対し美咲の「空港」。2月27日発売のシングルをいつごろ録音したのかわからないが、もっと前からレパートリーに入っていて、歌い込んできている。2月4日の恵比寿でも歌われたが素晴らしい出来栄えだった。もはや完璧に美咲のオリジナル・レパートリーと化しているのを、「佐渡の鬼太鼓」カップリング・ヴァージョンでも確認できる。

「空港」では、「佐渡の鬼太鼓」「夢芝居」で聴ける、ややドスの効いた迫力や、見得を切るような歌唱ポーズや、ヴィブラートなどはいっさいなしだ。つまり、やっぱり美咲はなんの曲を歌うときでも、その曲の持ち味にあわせ、その歌そのものが持つ本来の魅力を最大限にまで発揮できるべく、歌唱法をカメレオンのように変貌させることができるヴァーサタイルさを持っている。

ナチュラルでスムースでストレート、ナイーヴな歌いかたで「空港」を歌いこなすことで、この別れ歌が持つ、そっと男のそばから黙って離れていきたいというひそやかな情緒を、実にうまく表現できていると僕には聴こえるけれどね。こんな素直な声と歌いかたで「私はひとり、去っていく」とそっと置くようにささやくのが、も〜う、沁みて沁みすぎて…。

今回のカヴァー曲三つのうち、唯一オリジナルを超えていないと言わざるをえないのが「下町の太陽」。初演は倍賞千恵子。倍賞ヴァージョンには、あの声の色そのものが持つ独特の憂い、翳りがあるんだ。う〜んと、うまく言えないが倍賞の声には陽と陰とをあわせ持つような、なんというかアンビヴァレンスがあって、それでもって「下町の太陽」みたいな内容の歌を、特別の感情も込めず淡々とやるもんだから、この動画付きヴァージョンを観聴きして、僕は泣いちゃった。
ところでこの倍賞ヴァージョンでも美咲ヴァージョンでも、アクースティックな弦楽器が聴こえ、それは明らかにギターじゃない。マンドリンじゃないかなあ。ブズーキ(ギリシアの楽器)かもしれない?ような音色だ。でもホントになんだろう?美咲ヴァージョンをアレンジした野中”まさ”雄一は、倍賞ヴァージョンのそれをそのまま使っていると思うんだけど、あの弦楽器がなにかお聞きしてみたい。まあたぶんマンドリンなんだろうね。

もう一点。美咲ヴァージョンの「下町の太陽」では、左チャンネルでエレキ・ギターが裏拍で(ン)ジャ(ン)ジャと刻んでいる。まるでレゲエのビート感。以前、八代亜紀の「舟歌」オリジナルでもレゲエ・カッティングが聴こえると指摘したけれど、アバネーラなど汎ラテン・ビートだけじゃなくレゲエも、演歌や歌謡曲にあって不思議じゃないのだろう。

しかも美咲ヴァージョンの「下町の太陽」で聴けるそのエレキ・ギターのレゲエ・カッティングは、グチョグチョっていうつぶれた音色で、まるでちょっぴりホット・ワックス/インヴィクタス系(って、これ、通じる言葉なのか ^_^;?)。だから美咲の「下町の太陽」は、歌そのものの魅力では倍賞におよばないものの、また違った、美咲ヴァージョンでしか聴けない独自のおもしろさを湛えている。

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