あらさがしをするな 〜 エリック・クラプトン篇
ノートーリアスなエリック・クラプトンの『アンプラグド』(1992)。でも悪いものばっかりじゃない。僕はいつもいつもこのアルバムのことをボロカスに貶してばかりなので、たまにはいいことを書こう。実際、収録の14曲ぜんぶがぜんぶダメってわけじゃない。小綺麗でこざっぱりしたようなブルーズ弾き語りや、あんな感じの「レイラ」なんかは聴きようがないと思うけれど、いいものだってあるぞ。
そんなものだけ選り出してみると、下のようになる。数字はアルバムでの曲番号。
1 Signe
4 Tears In Heaven
5 Lonely Stranger
6 Nobody Knows You When You're Down & Out
8 Running On Faith
10 Alberta
11 San Francisco Bay Blues
これだったらクラプトン『アンプラグド』のなかでもそんなに悪くない。けっこう楽しめると僕は感じている。1のインストルメンタル・ナンバー「シーニュ」は、なんでもないアクースティック・ギター・フュージョンで、聴きどころなんかないかもしれないが、ジャズ/フュージョン好きにはいけるものだと思うよ。軽〜くて薄〜い感じだけどね。スティーヴ・フェローンのウッドブロックとレイ・クーパーのトライアングルもちょうどいいスパイス。
まあでもこの「シーニュ」は、完全に僕の個人的な選り好みだから、みなさんにはオススメできない。本当にいいなと思うのはこれ以外の六曲だ。おわかりのとおり、二傾向に分かれている。スウィートでメロウでセンティメンタルなポップ・バラード(「ティアーズ・イン・ヘヴン」「ロンリー・ストレインジャー」「ラニング・オン・フェイス」)と、古い伝承フォーク・ブルーズ(「ノーバディ・ノウズ・ウェン・ユア・ダウン・アンド・アウト」「アルバータ」「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」)。
クラプトンの真価、持ち味の根底のところは、ハードでエッジの立ったブルーズ・ロックというより、甘くて感傷的なポップ・バラードにあるんじゃないかとは、以前、詳述した。『アンプラグド』で聴ける「ティアーズ・イン・ヘヴン」「ロンリー・ストレインジャー」「ラニング・オン・フェイス」もその路線だ。
「ティアーズ・イン・ヘヴン」は、たしか映画の挿入歌だったんだっけ?子供を亡くした歌だよね。シングル CD でリリースされたのが、僕の部屋のどこかにいまでもあるはずだ。『アンプラグド』がリリースされた当時、そ〜りゃもう大人気で、しかも DVD もあって、ギター初心者にとってはちょうどいい教則にもなるものだし、しかもアルバムの全曲が楽譜化(タブ譜付き)されて出版されてもいた。
僕は DVD と楽譜本も買って、このアルバムのクラプトンのコピーをしていたのだが、いちばんよくやったのが「ティアーズ・イン・ヘヴン」と「ノーバディ・ノウズ」。後者は自分が好きなブルーズ・ナンバーだったから。前者は(元)妻に聴きたいからやってくれとせがまれたから。この『アンプラグド』ヴァージョンの「レイラ」もお願いされていたが、それはやらなかった。
リゾネイター・ギターをスライド・バーで弾く「ラニング・オン・フェイス」は、スタジオ作『ジャーニーマン』(1992)からの曲。いい曲だよなあ。僕は僕の信じるところにもとづいて自分の道をゆくよという歌詞もいい。「僕たち」になっているけれどね。曲調もスライド・ギターのサウンドも、そんな歌詞によく似合っている。
「ロンリー・ストレインジャー」は、この『アンプラグド』で初お披露目の新曲だったはず。というかその後もやっていないのでは?セコンド・ギタリスト役のアンディ・フェアウェザローがマンドリンを弾くのがとってもイイ。ケイティ・カスーン、テッサ・ナイルズ二名の女性バック・コーラスもキレイ。こっちは僕だけってこと?ひとり?そこがイイ。
フォーク・ブルーズ篇。「ノーバディ・ノウズ」。1971年のアルバム『レイラ』に収録されているヴァージョンと違い、この『アンプラグド』ヴァージョンでは、歌の内容とは裏腹に、贅沢三昧で美味しい料理やお酒を飲みまくって騒いでいるような太っちょなありようが聴こえるよね。音って正直だなあ。でもそんなふうに変貌しちゃったこの「落ちぶれ文無しブルーズ」も、なぜだか僕は嫌いじゃない。たぶん、曲そのものが好きだってことなんだろう。ソロ部以外のクラプトンは、指で弦をはじく。
しかしもっとおもしろいのは「アルバータ」と「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」だ。前者は「コリーン、コリーナ」のタイトルのほうで知られている古い伝承フォーク・ブルーズ。おまえ、昨夜はどこで寝たんだ?どこ行ってたんだ?と嘆くもので、レッドベリーのとか、ジャクスン・ブルー・ボーイズのとか、ボ・カーター&チャーリー・マッコイのとか。
クラプトンはレッドベリー同様に12弦のアクースティック・ギターを弾いて歌う。それのカッティングではじまって、ピアノとバンドが入ってきた瞬間にパッと聴界風景がひろがる感覚が僕は大好き。ソロはピアノのチャック・レヴェルだけ。サウンドのひろがりは12弦ギターだからってだけじゃない気がする。
次の「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」が、クラプトンのアルバム『アンプラグド』でいちばんいいものなんじゃないかと僕は思う。なぜかって、ノヴェルティ風味があって、第二次世界大戦前のジャグ・バンドふうになっているからだ。むろん直接的にはクラプトン本人も体験したに違いない1960年代のリヴァイヴァルで知ったサウンドだろうけれど、古いジャグ・バンドっぽい愉快さがあるじゃないか。いつもシリアスすぎるこの音楽家にしては、そこがかなりおもしろいんだ。
同じ MTV アンプラグド・ライヴで同じ古参ロッカーのポール・マッカートニーもやっている「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」は、ジェシ・フラーが1954年に初演した曲。だからそんな戦前だとか古いブルーズじゃないんだよね。それをクラプトンはとりあげて、ノヴェルティ風味で愉快な感じにして、バンド全員にカズーを吹かせ、自分も吹くという妙味なアレンジ。アンディ・フェアウェザローだけがカズーじゃなくハーモニカでソロをとる。
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