ポップで軽やかなオーネット&プライム・タイム 〜『ヴァージン・ビューティ』
素直にわかりやすく、ただたんに生理的に気持ちよく、ポップで聴きやすいオーネット・コールマン・アンド・プライム・タイムの『ヴァージン・ビューティ』(1988)。これ、かなりいいよね。すくなくとも僕は大好きだ。グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが三曲で参加しギターを弾いているのは、あまり関係ないんじゃないかな。ロック・ファンのみなさんはここから入ってくる可能性もあるけれど、その三曲とそれ以外を聴いても特別どうという違いはないなあ。
僕にとってのオーネット『ヴァージン・ビューティ』の魅力は、リズムのタイトなファンクネス、メロディのちょっと童謡っぽいというか、軽く口ずさめそうなフォーキーなポップさ、短いパッセージというかわかりやすいリフの反復、そして主役のアルト・サックスが本当に美しいなあっていう 〜 こういうことだ。
どの曲でも美しいオーネットのアルト・サウンドだけど、1988年に最初に聴いたときに大いに感激したのがアルバム・ラストの「アンノウン・アーティスト」。無伴奏アルト・ソロだと記憶していたが、その後聴きかえすと、後半部でバンドがフワ〜とヴェールのような伴奏をしている。アテにならない僕の記憶力。それくらい前半部のアルト独奏の美しさが印象深かったんだよ。
ほ〜んと「アンノウン・アーティスト」前半部におけるオーネットのアルト独奏を聴いたら、みんな降参しちゃうと思うよ。フリー・ジャズだ、ハーモロディックだ、なんだかんだとむずかしそうだからと、オーネットもちょっとだけ敬遠されている気がするけれど、ただただシンプルに綺麗だ。
それにオーネットのアルトの音色って、暖かみがあって丸くて、親しみやすいよね。僕はそう思っているんだけど。それが『ヴァージン・ビューティ』みたいなポップなアフロ・ジャズ・ファンク・フュージョンとでもいうべき作品だと、かなりわかりやすい美点になっていると、僕は感じている。この明快さはロックのわかりやすさにも通じている。ジェリー・ガルシアの参加云々は関係なく。
「アンノウン・アーティスト」に通じる曲がもう一つあって、アルバム4曲目の「ヴァージン・ビューティ」。ここでは最初からバンドの伴奏が入っているけれど、ほぼ同系のキレイ目バラードだね。曲題どおりのアルト演奏をオーネットが聴かせてくれて、バック・バンドの演奏には、はっきり言って僕の耳はあまり行かない。
これら二曲以外はファンキーなエレクトリック・フュージョンみたい。えっ、フュージョンですよ、このオーネットのアルバムも、ええ。ちょうどこのころか、このすこしまえあたりの渡辺香津美の作品にとてもよく似ているものがあると、僕は聴いている。香津美のどれ?っていうのをいますぐ思い出せないが、1980年代のあの時代のジャズ系フュージョン/ファンクって、こんな感じだったよね。
オーネットの『ヴァージン・ビューティ』だと、たとえば7曲目の「デザート・プレイヤーズ」なんかも僕は超好き。オーネットのアルトが出るまえのイントロがカッチョエエ〜。その15秒間にシビれちゃうなあ。エレベ(クリス・ウォーカー?)がブンとやったあと、うんそれが爽快だし、デナードが叩きはじめ、ジェリー・ガルシアが弾くフレーズもたまらなく快感だ。
そのギター・フレーズがうまくまとめてオーネットを導いている。オーネットは、このアルバムだとほかの曲でもそうなんだけど、いつもどおりそんなに逸脱しない。シンプルな短いパッセージとかリフとかを反復するようにヴァリエイションを演奏しているだけで、とてもわかりやすい。アルバム『ヴァージン・ビューティ』だとバンド・サウンドもリズムもきれいにに整理されているから、一層オーネットの明快さがフロントに出ている。
3曲目「ハッピー・アワー」がポップなカントリー・ソングみたいだったり、10曲目「スペリング・ジ・アフファベット」が、曲題どおり、数え歌の童謡ふうな親しみやすさで、ちょっとディズニーの「ビビディ・バビディ・ブー」みたいだったり。ポップなリフ反復は、1曲目「3・ウィッシズ」でも2曲目「ブルジョワ・ブギ」でも6曲目「シンギング・イン・ザ・シャワー」(「雨に唄えば」へのオマージュ曲題?)でも使われている手法。「3・ウィッシズ」のモチーフなんか、かなりキャッチーだよね。
そんなわけで、どこもまったくむずかしくないオーネットの『ヴァージン・ビューティ』。オーネット・コールマンという看板と、わかりにくさをふりまいて一見さんお断りみたいなフリー・ジャズの敷居の高さにおそれをなして敬遠している音楽リスナー、特にロック/ポップス愛好家のかたがたは、まずこのアルバムを聴いてみたらどうでしょうか。
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