これが JB のやり方だ
ジェイムズ・ブラウンの四枚組ボックス『スター・タイム』。リリースは1991年と存命時だが、1956年のファースト・シングル「プリーズ、プリーズ、プリーズ」から、アフリカ・バンバータと共演した1984年の「ユニティ、パート1」まで、全71曲。この箱一つあれば、かなりのことがわかる。ブックレット解説文のトップ・バッターは、なんと JB 自身。
シングルでしかリリースされていなかったものとか、シングルとアルバムでヴァージョン違いの曲とかもあるし、そもそもリズム&ブルーズ/ソウル/ファンク・ミュージックはシングル・リリースが中心の世界なので、(当時のオリジナル?・)アルバムのフォーマットにこだわって聴いてばかりでは、あまり意味がないのかもしれない。
ボックス『スター・タイム』じゃないと入手しにくい音源もあるし、しかしいまや CD を買わなくたって Spotify にそれがある。そこでこの四枚71曲からダンサブルなハード・ファンクだけを抜き出してリリース順に並べたのが上のプレイリスト。以下に曲名とリリース年一覧も書いておく。録音年は必ずしも判明しないばあいがあって、でもほぼ録音直後の同年リリースだったみたい。
1) Out Of Sight (1964)
2) I Got You (1964)
3) Papa's Got A Brand New Bag, Pts. 1, 2 & 3 (1965)
4) I Got You (I Feel Good) (1965)
5) Let Yourself Go (1967)
6) Cold Sweat (1967)
7) I Can't Stand Myself (When You Touch Me), Pt. 1 (1967)
8) I Got The Feelin' (1968)
9) Say It Loud, I'm Black And I'm Proud, Pt .1 (1968)
10) There Was A Time (1968)
11) Give It Up Or Turnit A Loose (1968)
12) Mother Popcorn (1969)
13) Get Up (I Feel Like Being A) Sex Machine (1970)
14) Talkin' Loud & Sayin' Nothing (1970)
15) Get Up, Get Into It And Get Involved (1970)
16) Hot Pants (1971)
17) Make It Funky (1971)
こんな具合なので、「プリーズ、プリーズ、プリーズ」「トライ・ミー」「イッツ・ア・マンズ・ワールド」といったバラード系は外した。オリジナルじゃなくたって JB はたとえば「ビウィルダード」みたいなものもチャーミングに歌っているし、「シンク」みたいな R&B ダンサーもあるけれど、今日はなしで。
JB のファンク・チューン第一号は、セレクション6曲目の1967年「コールド・スウェット」だと僕は考えていて、このプレイリスト全体のなかの一種のフックみたいなもんかな。そんで、曲「コールド・スウェット」には、コードが変わるサビ(=フック)がある。まだ旧来のスタイルを残しているってことかな。それにしてもメイシオのサックス・ソロ、かっこええなあ〜。
「コールド・スウェット」までの五曲は、JB ファンクの祖型を示し、どういう道程でファンク誕生に至ったかを示したかったというもの。リズムもタイトでファンキーで、すでにファンクっぽいけれど、やっぱりなんか違うような気がしないでもない。まだちょっとゆるい。コード・チェンジもふつうの定型ブルーズだったりなど従来的。それらの曲も1968年ごろ以後のライヴでは完璧にファンク・チューン化しているけれど。
それでも3曲目の「パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ、パーツ1、2&3」なんかはほぼファンクと呼んでさしつかえないようなものだ。ここでもメイシオがワン・コードでソロを吹くが、それよりもホーン・セクションのリフがかたちづくるリズム・パターンがいいなあ。ブレイク部でギターをジャカジャカジャカとやっているのがジミー・ノーラン。
ただしこの、楽曲形式としては定型12小節ブルーズである「パパズ・ガット・ア・ブランド・ニュー・バッグ、パーツ1、2&3」では、ホーン・リフがファンクではあるものの、リズム・セクションはまだまだ保守的なリズム&ブルーズ・フィールだ。特にドラムス(メルヴィン・パーカー)。
ドラマーがジョン・ジャボ・スタークスに代わる5曲目「レット・ユアセルフ・ゴー」でも、意外なことにそれがまだ続いているが、しかし変化しはじめているよね。さらに、ここからドラマーのほかにもう一名のパーカッショニストが加わるようになっている。コンガが聴こえるよね。ポリリズム化とファンク化は軌を一にしていた。有り体に言えば、アメリカン・ブラック・ミュージックのアフリカナイズ。
それでようやく「コールド・スウェット」になって、それ以後はもうお聴きのとおりどんどんハードでゴリゴリになっていく一方。それが1971年ごろまで続き、だから1967〜71年ごろが JB ファンクの絶頂期だったと見ていいんじゃないかな。僕はそう考えているんだけど。「コールド・スウェット」からいきなりドラミング・スタイルが大きく変貌しているが、それがクライド・スタブルフィールドだ。
セレクション8曲目の「アイ・ガット・ザ・フィーリン」とか、もう鳥肌立っちゃうなあ。「コールド・スウェト」らへんからツイン・ギターになって、ジミー・ノーランとアルフォンソ・’カントリー’・ケラムがからみあいながらファンキーに刻む。あいかわらずホーン・リフがカッコイイが、ツイン・ギター&ベース&ドラムスの生み出すビート感に徐々に比重が移っているよね。
9曲目「セイ・イット・ラウド、アイム・ブラック・アンド・アイム・プラウド、パート1」(のギターはジミー・ノーランひとりだが)、10曲目、ダラス・ライヴの「ゼア・ワズ・ア・タイム」で、かなり高度な沸点に達している。前者が社会派ソングであるのに対し後者はただダンス名を歌い込んだだけのものだが、ビートやグルーヴが主張しているじゃないか。
個人的にマジでもんのすごいと感じるのが、セレクション12曲目「マザー・ポップコーン」から15曲目「ゲット・アップ、ゲット・イントゥ・アンド・ゲット・インヴォルヴド」までの五曲。なんなのだ、このグルーヴの激しさは!?ちょっとすごすぎるんじゃないの!?13「セックス・マシン」から15まではベースがウィリアム・ブーツィ・コリンズ。このあたりの JB ファンクはバケモノだ。
それらではコンガも大活躍しているよね。コンガ+ドラムス+エレベ+ホーン群の四者が、ポリリムミックかつポリフォニック&タイトにからみあいながら進むこのグルーヴには抵抗できないなあ。汗が飛び散ってかかってきそうなリアルなホットさだけじゃない。13「セックス・マシン」では、JB みずから弾くピアノがクールだ。どこか醒めている。言い換えればバンドの一員でありながら同時に JB はファンク・ビートを客観視もしている。
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