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2018/05/01

ショーロの夕べ

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1987年と88年にリオ・デ・ジャネイロの市民劇場で開催されたコンサートから収録したライヴ・アルバム『ショーロの夕べ』(Noites Cariocas)。この原題は、ジャコー・ド・バンドリンのかの名曲からそのまま持ってきているのだろう。実際、アルバムの1曲目だし、とか思うんだけど、もっとこう、リオで開催されたショーロのコンサートという、その様子を的確に表現しているものだよねえ。だからこういう邦題になっている。

そんなジャコーの1「リオの夜」、12「ココのお菓子」(Doce De Coco)だけでなく、ベストセラー盤『ショーロの夕べ』ではショーロ名曲がどんどん演奏され、しかも1980年代末あたりの時期の名手が揃っている。しかも活き活きとしたフィーリングを出しやすいライヴ・コンサートからの収録で、観客のレスポンスも聴こえる臨場感もあるっていう、だからこの一枚もショーロ入門にもってこいなんじゃないかな。

ピシンギーニャの曲も、2「まだ覚えているよ」(Ainda Me Recordo)、3「カリニョーゾ」、5「インジェヌオ」、16「1×0」(Um A Zero)とあって、また6「シキーニャ・ゴンザーガ」、15「レメジェンド」はラダメース・ニャッタリの曲で、だから前者はもちろんシキーニャに捧げた曲だけど、このアルバムで彼女の曲はとりあげられていない。

13「金婚式」(Jubileu)はアナクレット・ジ・メデイロス作、アンコール的なアルバム・ラスト17「ウルブー・マランドロ」がロウロの作と、有名スタンダードが多い。またクラシック界の存在だけど、このアルバムの演奏曲作者のなかでは世間一般にならたぶん最も知名度がありそうなヴィラ・ロボスが書いた8「バシアーナス第5番」(Bachianas no.5)もある。

ヴィラ・ロボスも、クラシック界の作曲家とはいえ、ショーロやサンバの世界にかかわっていたし、またこれ以外にも、ショーロ名曲をクラシック界のピアニスト(9「ヴァイブレーション」のジョアン・カルロス・アシス・ブラジル)が伴奏したり、またクラシック界のクラリネット奏者(7「たらの骨」のパウロ・セルジオ)が演奏したりする。パウロ・セルジオはヴィラ・ロボスの8「バシアーナス第5番」でも吹いているし、7「たらの骨」では、主旋律に入る前にジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」を吹いている。あの冒頭のクラリネットせり上がりをそのままね。

しかしバンドが入ってきてからの演奏となんらの違和感なくつながっているのは、ほかの人やほかの演奏でも同じで、またショーロ楽曲をショーロ演奏家がやるのでも、ときおりバロック音楽ふうな掛け合いになったりするパートもあって…、そんなこんなでやっぱりブラジルでは古典/大衆の音楽差は小さいんだね。

『ショーロの夕べ』に参加している演奏者のなかでは、バンドリンのジョエール・ナシメントがいちばん目立っているように思う。ジャコー亡きあとの最高の名手だった。また僕でもかなり馴染み深いベト(パーカッション)とエンリッキ(カヴァキーニョ)とのカゼス兄弟もいて、ギターのマウリーシオ・カリーリョもいるし、だからカメラータ・カリオカの元メンバーが中心になっているみたい。カメラータじゃないと思うけど、やはり有名人のシキーニョ(アコーディオン)もいる。

バンドリンのジョエールはホントほぼ全編で活躍しているけれど、特に1「リオの夜」、5「インジェヌオ」、6「シキーニャ・ゴンザーガ」、9「ヴァイブレーション」での演奏なんかはかなりの聴きものだ。ベテランのフルート奏者アルタミーロ・カリーリョは、4「ハレルヤ!」でのアド・リブが楽しくおもしろいとか、アンコールの17「ウルブー」で主導権をとっていたりとか。

アルバム中、たぶん1987年のコンサート収録分だと思うんだけど、ステージ上の全員が参加して次々とソロをとるというか、入り乱れているものが四曲。1「リオの夜」、15「レジェメンド」、16「1×0」、17「ウルブー」。入り乱れてといってもカオスにはなっていない。まるで即興演奏ではないかのように整然とからみあっているのが驚異的だけど、ショーロ名手の実力ってことなんだろうね。あるいはショーロという音楽の持つ高次元のスポンティニアスさということか。

もう一点。古典ショーロ楽曲のカヴァーが多い『ショーロの夕べ』なんだけど、決して懐古趣味なスタイルではない。1987/88年時点でのモダンさがある。以前書いたショーロ・アルバム『カフェ・ブラジル』なんかもそうだったけれど、なんというかボサ・ノーヴァとか MPB を通過して以後の新感覚ショーロとでも言ったらいいのか、時代に即したスピーディーでフレッシュな演奏になっているよね。サッカーに題材をとったピシンギーニャの「1×0」なんか、1919年の曲なのに、このアルバム・ヴァージョンは、攻守めまぐるしく入れ替わる、いまの世界で主流な速攻モダン・サッカーだ。

そんなところも聴いてほしい。

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