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2018/06/22

スラッシュ・メタル・ギタリストが選ぶマイルズ10選

 

 

スラッシュ・メタル・バンド、テスタメントのギタリスト、アレックス・スコルニック。彼が選んだマイルズ・デイヴィスの曲10選がこれだ。英国の音楽サイト『ラウダー』の企画で、2016年5月3日付。気づいたのはついこないだなので。これに沿って Spotify でプレイリストを作成したのが上のもの。

 

 

 

アレックスの選曲とコメントは、やはりいかにもロック・ギタリスト的な視点だなというのを強く感じさせるもの。1「ソーラー」〜 4「ジョシュア」まではマイルズ・クラシックスとして敬意を払って…、という意味でセレクトしたんじゃないかと思う。コメントを読んでも、特に自分のギター・プレイや音楽構築にどうかかわっているか、具体的なことは述べられていない。

 

 

それでも「ソーラー」(『ウォーキン』)なんかはどうしてこれを選んだのかな?と思っていると、パット・マシーニー(メセニー)がやっていたのを聴いてはじめて知ったとあるし、また「アランフエス協奏曲」(『スケッチズ・オヴ・スペイン』)はおなじみクラシック音楽界におけるギター・スタンダードで、やはりアレックスもそのことに言及しているし、ギター弾きはみんな知っている曲なんだから、マイルズのヴァージョンも、最初聴いたときはアプローチに若干驚いても、アレックスが聴いてみるのに不思議はない。

 

 

「ソー・ワット」(『カインド・オヴ・ブルー)、「ジョシュア」(『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」)は、やはり完全にマイルズ・クラシックスとみなしてチョイスしただけだと思ったりしたが、コメントをじっくり読むと、それだけじゃないのがわかる。前者のモーダルなアプローチはロック・ミュージックにも大きな影響を及ぼしているし、後者はヴィクター・フェルドマンの曲だ。

 

 

ところで「ジョシュア」にかんするアレックスのコメントのなかに、ジョージ・コールマンとヴィクター・フェルドマンが在籍した短命バンドとあるのは、たぶんちょっとした勘違いなんだろう。 実際アルバム『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』の半分はロス・アンジェルスでセッション・マンとしてフェルドマンを起用して録音されたバラード三曲だし、だからややこしいのだ。

 

 

さらにめんどくさいのは「ジョシュア」も、それから「ソー・ニア、ソー・ファー」も「セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン」も、ぜんぶフェルドマンの書いた曲でロスで録音もされたのが、いまはコンプリート・ボックスに収録されて発売されているんだよね。そのロス録音のなかから、現行の通常盤一枚物『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』には、「ソー・ニア、ソー・ファー」だけが追加されている。

 

 

このへん、その後はロック界ともかかわりあいを持つようになるヴィクター・フェルドマンを起用して曲を書かせ共演録音もしておきながらボツにして、ハービー・ハンコック+ロン・カーター+トニー・ウィリアムズの新リズム・セクションをともなってニュー・ヨークで再録したというこの事実、おもしろい考察材料になるかもしれないので、また機会でもあれば。

 

 

アレックスのセレクション10の5曲目「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」からは、もっとストレートにロック・ミュージックとの関係が語られている。アレックスの選んでいるのは当然1964年のフィルハーモニック・ホール公演ヴァージョンだけど、アレックス言うところのトラディショナル・ピリオド最終期の演奏にして、かつ、古典曲を斬新なアプローチでやっている、すなわちロックンロールの影響を感じると、そういうコメントがついているのが目をひく。

 

 

察するにリズム・パターンの変化のことだと思うんだけど、1964年の「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」におけるああいったアプローチ、リズム・チェンジのことをロックに言及しながら説明したコメントは、ぼくはほかに知らない。さすがだね。言われてみればそのとおりとぼくも共感するものがある。1964年とは、振り返ればアメリカでちょうどブリティッシュ・インヴェイジョンのさなかだったんだし。だからマイルズにも影響がすこしはあってしかるべきだ。

 

 

しかしながら、べつにアレックスの意見に異を唱えるとかいうんじゃなくて、マイルズのやる「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」は、1956年10月26日の初演(プレスティジ盤『クッキン』)から、ロックではないけれども、ちょっと似たようなリズム・ニュアンスの変化があるのだ。以下にご紹介しておく。マイルズのソロのあいだでもサビ部分で、それから二番手レッド・ガーランドのソロのあいだなら全体的に、リズムが変貌し快活に跳ねているよね。

 

 

 

マイルズ自身による1964年ヴァージョンは、こういった初演のアレンジを拡大・深化したというのがまず第一のモチベイションだったと思うんだけどね。でも書いたように時代を考えれば、アレックスの言うようにロック・リズムの影響と見るのも妥当だ。実際、8ビートなんだし、1964年ヴァージョンのあの部分は。全編テンポ・ルパートなハービーのソロ部ではそれは聴けない。

 

 

アレックスのセレクション10で、その次の6曲目以後は、ロック・ギタリストが選ぶのになんの不思議もないものばかりで、だから今日いまさら説明しておく必要などないだろう。せっかくアレックスも(ジミ・)ヘンドリクス /サイケデリック・ピリオドとか呼んでいるくらいなんだから、1972〜75年録音からも選んでくれたらよかったのに…、とかって思わないでもない。

 

 

だけど選びにくいのも事実だ。あのへんのマイルズ・ミュージックに、ふつうの意味でのいわゆる「曲」はないからだ。あったとみなしてもあまりにも長尺だし、ライヴ・アルバムでは一体のメドレーとなってポプリ化しているしで、まあ選びにくいよなあ。スラッシュ・メタル・バンドのギタリストなんだから、ピート・コージーが弾きまくっているのなんか、好きなんじゃないかと思うんだが、あえて外したのかも。

 

 

なお、『ラウダー』のこのアレックスの記事の最後に、サイト公式作成と思われる Spotify プレイリストのリンクが掲載されているのだが、アレックスが言っているのと違うヴァージョンを選んでいるものが含まれていてオカシイのでご注意あれ。それを聴いたのでは、アレックスの発言内容もマイルズ・ミュージックのおもしろさもわからない。amass さんもご留意のほどを。

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