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2018/06/03

美咲の色艶(2)

情報量がメチャメチャ多い『岩佐美咲コンサート2018 〜演歌で伝える未来のカタチ〜』だから、一度では書ききれなかったのだ。それで(1)では書けなかったことをすこし補足しておきたい。続編だけど、もちろん岩佐美咲の歌声の色艶という部分にもっと分け入って、細部を顕微鏡で見るように拡大するだけなんだけど。したがって言いたいことの本質は変わっていない。自分自身のためのメモだ。

ところで美咲のオリジナル楽曲七つ(2018年6月現在)って、最新の「佐渡の鬼太鼓」が強く激しい女の決意みたいなものを示した内容で、曲調は濃厚演歌だ。それ以前の六つはすべてしっとりした別れ歌ばかり。男との別離を忘れるためにはどうしたらいいか、こうして忘れよう、旅に出よう、これに入れ込めば忘れられるか?みたいな内容ばかりだなあ。これは、演歌とはこういった世界だというだけのことだろうか?

でも唯一例外がある。「初酒」だ。この曲だけはズンドコ調に乗せて、前向きの人生肯定感を強く打ち出した内容。だからなのか、美咲のためのオリジナル曲のなかでは余計に一層際立っている。ほかの五曲はすべて孤独と寂寥をテーマにしたものだから、「だれかがそばにいる、やさしさ身に沁みる」(二番)と歌う美咲の声がいっそう心に響いてくるよね。

そんな「初酒」で幕開けする『岩佐美咲コンサート2018 』。思い出してほしい、2016年1月30日のファースト・コンサートを収録した一枚目の DVD(or Blu-ray)『岩佐美咲ファーストコンサート〜無人駅から新たなる出発の刻』でも「初酒」がオープニングだったことを。比較すれば、美咲の著しい成長がとてもよくわかる。

『岩佐美咲ファーストコンサート』出だしの「初酒」では、まず幕開けでせり上がってくるところであきらかに強く緊張しているのと不安が見てとれた。そのせいで半泣き状態だしね。歌いはじめてからも、いま聴きかえすと、やや不安定だった、歌唱の幼さがあったと言ったほうがいいのかもしれない。すべて、おそらくは人生初のソロ・コンサート幕開けだったためだろう。

それから約二年が経過。二年あればこの世界では急激な成長を成し遂げうるとは思うけれど、それにしても、2018年2月4日を収録した『岩佐美咲コンサート2018』幕開けでの「初酒」はものすごい変貌ぶりだ。もはや別の曲に生まれ変わったとさえ言いたいくらい。

『岩佐美咲コンサート2018』での美咲は、登場した瞬間から余裕たっぷり。立ち姿、顔の表情など、なにもかもが大人の女性になっている。ファースト・コンサートの幕開けでは、目に涙を浮かべながら体を細かく震わせて落ち着かない様子の美咲だったが(数曲歌ってそれは消えているのだが)、四回目のコンサートで、そんな部分は完全に消滅した。脱皮・成長を遂げた。

白地ベースの和服の着こなしも見事に、顔に余裕の明るい笑みを浮かべ観客に手を振って、さぁ、「初酒」を歌い出したら、微塵も揺るがないその声の安定感、伸び、艶にノック・アウトされるしかない。なんだこれは?!なんなんだこの違いは!これがあの美咲なのか?!これがあの「初酒」なのか?!こんな「初酒」、聴いたことないぞ!

しかも「初酒」での美咲は、声を自在に操って、豊かな色彩感を持たせ、三種類くらいの異なる声の色を使い分けて歌いこなしているんだよね。これは「初酒」でだけのことじゃない。『岩佐美咲コンサート2018』では、最重要曲と僕が位置付けている一つを除くすべての抒情歌謡曲で同じ歌い分けを、一曲のなかで、やっているんだよね。

「初酒」に限定すると、(1)スッと伸びるナチュラルでスムースで可愛い声、(2)強く張り、ややドスを効かせ気味の(世間でのいわゆる "演歌調”)発声、(3)この二つとも違う、フワッとやさしくそっと言葉をそこに、聴き手の心に置いてくれるようなフェザー・タッチ、(4)フレーズ末尾で消え入りつつ軽くヴィブラートを効かせて伸ばす声。だから、三つじゃなくて四種類か、それを歌詞とメロディと曲調の変化するその箇所箇所で使い分け、歌唱表現に深みと広がりを持たせているんだよね。

出だしの「生きてりゃいろいろとつらいこともあるさ、心の荷をおろし、ここらでひとやすみ」までは可愛らしいチャーミングな声で、しかしそれもいままでとは違う深みと丸み、セクシーさをそこに混ぜながら、ストレートに歌っている。その次の「我慢しなくていいんだよ」ではちょっぴりだけ演歌調のドスを効かせるように声を変えている。しかし、その最後の「よ」だけ違っているんだぞ。そこだけ声を変え、軽く抜いている。

「我慢しなくていいんだ」までは、まるで言い聞かせるように強い演歌調の声で歌っているのだが、その次の「よ」。ちょうどあれだあれ、親や教師が子供に説教するときに強い語調でしゃべったあと、最後の最後にやさしくそっと抜くようなやさしい声で一つささやきかけて、相手の心を溶かす瞬間があるでしょ、それとこの日の「初酒」の「よ」は同じ。声を抜いて、フワっと僕の心に触れてきた。「我慢しなくていいんだ、よ」。

1コーラスめ最後の「酔って、酔ってみようかぁ〜」部分では軽くヴィブラートを効かせつつ、しかしスムースにスッと声を弱くしていって自然に消え入るんだよね。その部分はまた声の種類が違うんだ。2コーラスめの歌い出し「だれかがそばにいる、やさしさ身に沁みる」では、声の色艶が一層グンと増していて、この歌詞の持つ意味をクッキリと描き出している。「しわわせ、ふしあわせ」の最後の「せ」だけまた色が違う。しかも「しわわせ、ふしあわせ」部分の声の深み、凄みがハンパじゃない。

「かっこ悪くていいんだ、よ」の歌いかたは、上で書いた「我慢しなくていいんだ、よ」部分と同じ。曲最終盤の「やるぅ〜か〜」は、その直前の「二人、二人で〜」からいったん間をおいて音が止まってから歌うんだけど、やはり声の色と質を変えて、それでコーダのようにして歌っているんだよね。そのまま軽くナチュラルなヴィブラート付きで伸ばし、消え入っている。

いやあ、すごいね、こんな「初酒」。しかもこの曲は、上で書いたが<明日>へ向けての希望を歌う肯定歌だ。絶望と孤独を歌ったものじゃない。美咲のオリジナル楽曲のなかでは異質なものかもしれないし、「初酒」にここまで入れ込む美咲ファンは少ないのかもしれないが、『岩佐美咲コンサート2018』のオープニングに持ってきているのは、個人的には大正解。

『岩佐美咲コンサート2018』。こんな調子でほかの六つの美咲オリジナルや、いろんなカヴァー曲のことを書いていくとキリがない。同様の多彩な変化を美咲の声と歌に聴きとることができるので、Blu-ray、DVD で再確認していただきたい。「佐渡の鬼太鼓」以前の六曲でも、美咲の大きな成長を間違いなく聴きとれるはず。それで過去のヴァージョンを聴きかえし比較すると、物足りなく感じるんだよね。僕はそうだった。最新ヴァージョンでは、特に声の張りや伸びに艶があり、節まわしも大人びている。フレーズ終わりや曲終わりで消え入るあたりでの様子が特にすばらしい。

新作 DVD 4曲目の「風の盆恋歌」(石川さゆり)。これこそこの映像作品で個人的最重要曲と位置付けているものだ。演歌など抒情歌謡レパートリのなかでは、これを歌うときでだけ、美咲は声をいっさい変えず、一曲を一種類の声で通している。なかにし礼の書いた歌詞内容は相当パッショネイトだけど、三木たかしの書いたメロディが淡々としているためだろうか。大人の情緒というべきか。それに合わせるため、美咲は声を変えていないんだと思う。

そして強調したいことは、『岩佐美咲コンサート2018』ぜんぶのなかで、「風の盆恋歌」における声質がいちばん色っぽい。セクシーだ。むろんそんな歌詞だからそれを表現せんとしてそうなっているんだろうけれど、こんな声でこんな内容を歌える歌手にまで美咲がなった、成長した、大人になったということがとってもよくわかり、絶賛したい気分だ。

昨日書いたばかりでくどくなるけれど、新録のはずだからもっと上達している美咲の「風の盆恋歌」が、来たる8月8日リリース予定のシングル CD「佐渡の鬼太鼓」特別盤タイプCに収録されるんですよ!これはぜひみなさんに聴いていただきたいと思います。

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