昨日からの流れで、これもアジアの洗練だ(3)〜 ノナリア
サローマを書いた(1)と美空ひばりを書いた(2)は探してみてください。
約24分で実際短いのと、楽しいのとで、あっという間に聴き終わってしまいリピートする、インドネシアの女性三人組ノナリアの2017年作『ノナリア』。教えてくださったのは bunboni さんだ。これでこのバンド(?ユニット?)の存在じたいはじめて知った。
いやあ、こりゃ完璧に僕好みの音楽だ。ところで CD アルバム『ノナリア』は、届いたパッケージのなかにポスト・カード四枚と、これは歌詞カードかな?(読めないから自信はない)が封入されている。それがちょっとした愛好心をくすぐるものなのだ。切手収集とか小さな絵葉書とかを愛でる、あの感じがここにある。ジャケットは上に開く仕組み。
中身の音楽だけなら Spotify で聴けるので、まだご存知ないかたはぜひちょっと耳にしていただきたい。そうすれば、ふだんの文章から、完璧ぼく好みだというのを理解していただけるはず。要はレトロな(アメリカにおける)1930年代ふうのスウィング・ジャズが基本になっていると思う。そこにワルツとちょっぴりのラテン風味。聴感上はインドネシア要素みたいなものを、ぼくは感じない。国際的に普遍の洗練がここにはある。しかも、キュートでミニチュア的。
『ノナリア』のなかにはよく知っているおなじみ要素も散りばめられているのだが、ファミリアーすぎてあたりまえになっているせいか、それがなんだったのか思い出せない。たとえば5曲目「Sebusur Pelangi Featuring Junior Soemantri」で使われいるラテン・リズム。たぶんエレキ・ギターがそれを刻んでいるけれど、これなんだっけ?よ〜く知っているおなじみのパターンなんだけどなぁ〜。あぁ〜、思い出せない。もどかしい。
また続く6曲目「Maling Jemuran」で、イントロとエンディングでファンファーレのようにヴァイオリンが演奏するメロディ。これなんだっけ?日本人もみんなよ〜く知っているスタンダードなものなんだけど、う〜ん、あぁ、思い出せないなあ。もどかしいぞ。マジでこれはみんな知っているやつだよ。こんな仕掛けが随所にあるのもニンマリ要素。隔靴掻痒だけどね。
ところで5曲目「Sebusur Pelangi Featuring Junior Soemantri」だけ男性ヴォーカリストが主旋律でハモっているけれど、これはたぶんゲスト参加ってこと?フィーチャリングだれそれとなっているし。ほかの部分や曲は、たぶんノナリアの三人だけでの演唱だろう。オーヴァー・ダブしてあるところもいくつかあるみたい。三人は、基本、ドラムス+アコーディオン(or ピアノ)+ヴァイオリンかな。あれっ?ギターはどのひとが弾いているの?
ヴォーカルもだれが取っているのかの判断は僕にはできないが、メインはずっと同じ声だから、そのひとがだれなのか知りたいなあ。インナー含めパッケージはアルファベット文字表記だけど、(たぶん)インドネシアの言葉なんだろうから、う〜ん、じっくり眺めてみたが、だれがなんの楽器担当で歌はだれ?みたいなそれらしきことは書かれていないよねえ?
そのヴォーカリストが出す味はキュートでコケッティシュ。ときどきしゃべるように、笑うように、語りかけるように、軽妙にシンギング。こんな歌いかたは、アメリカのジャズ界だとビ・バップ以前にはふつうにたくさんあった。そういうのを完璧に再現しているんだよね。ジャカルタは国際都市だから、さすがにこんなスウィング・ジャズは現地でもレトロなんでしょう??
全曲、基本、2/4拍子が基本になっているけれど、2曲目「Senandung」と7曲目「Santai」はワルツ。ヨーロッパのサロン・ミュージックふうなところも感じる仕上がりで、あ、そういえばほかの曲もだいたいぜんぶ小さなサロンでやっているのを聴いているような雰囲気だよね。上で書いたように5曲目だけがラテン・リズムだけど、それにも野趣はない。あくまでこじんまりと品良く。
なんだかぼくは忘れちゃったスタンダード・メロディを引用してある6曲目では、途中リズム・スタイルが6/8拍子に変化するパートもある。そこはなんだかエキゾティックなムードだね。曲のなかで二回かな。それ以外はこの曲も小洒落た2ビート・スウィングだ。エンディングで歌手が「ふわぁ」とか漏らす声もイイネ。
『ノナリア』。なんだか音質まで極上ハイ・ファイじゃなくてわざとすこし落としてある感じで、アナログ・レコードを再生する針音までかすかに混じっているような気がするし、中身の音楽は完璧レトロでポップな少人数のこじんまりサロン・スウィング・ジャズ。でも、2017年の新録なんだよなあ。
ジャカルタでもこんな洗練されたジャジーなポップ・ミュージックが、かつては大流行だったはず。シンガポールでも日本でもそうだし、いや、世界にある大都会はほとんどそうだったはず。『ノナリア』みたいな音楽は、もはや時代の現在進行形からは消えてしまったけれど、こんな、世界の音楽洗練が、ひょっこり顔を出すことだってあるんだろうね。
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