これの8ビートもビリー・ヒギンズだよ 〜 ハンク・モブリーの #BlueNoteBoogaloo (4)
ハンク・モブリーの1965年録音66年発表作『ディッピン』。プロ・ライターですらみんなふつう2曲目の「リカード・ボサ・ノーヴァ」のことしか言わないが、うん、たしかにそれもいいんだけど、1曲目の「ザ・ディップ」がもっといいんじゃないの〜。これ、最高じゃん。いままでモブリーのことをあまり褒めないで来て、ゴメンなさい。心から謝ります。
「ザ・ディップ」。8ビートのブーガルー・ジャズ、っていうかまあジャズ・ロックなんだけど、カッコイイよなあ。これを書いたのがモブリーだっていうことで、う〜ん、ホントいままで気づかずにいたなんて、ダメだなあ、ぼくは。ブロック・コード・リフをピアノで叩くのがハロルド・メイバーン。そして、これまたビリー・ヒギンズのブーガルー・ドラミング!
むろんビリー・ヒギンズはボサ・ノーヴァふうなものだってうまいんで、だから「リカード・ボサ・ノーヴァ」みたいな演奏が仕上がったわけだけど、これはジャルマ・フェレイラの書いた有名ソングだ。モブリーのこの録音前年にイーディー・ゴーメが歌ったレコードが出ていて(曲題は「ザ・ギフト」)、これは日本でもいまだにファンが多い。モブリーもそれがきっかけでとりあげようと思ったんじゃないかな。
たしかにモブリーの「リカード・ボサ・ノーヴァ」もチャーミングだ。しかしいまのぼくには1曲目「ザ・ディップ」がこのアルバム『ディッピン』のすべてだとしても過言ではない。それほど今年五月初旬来、ブルー・ノート・ブーガルーにハマりこんでいる。だぁ〜って、楽しいもん〜〜。
アルバム3曲目「ザ・ブレイク・スルー」はふつうの12小節定型ブルーズ。こういった感じのジャズ・ブルーズは、ハード・バップ界にはほんと〜っにた〜っくさ〜んあるので、だからこの演奏について、まあカッコイイけれど、特に書いておかないといけないことなんてないな。6曲目「ボーリン」はワルツ・ナンバー。
4曲目「ザ・ヴァンプ」は、あれっ?これはモーダル・ナンバーだなあ。曲の作者はモブリーとなっている。1965年の録音だから珍しがることもないけれど、モブリーはかつてのボス、マイルズ・デイヴィスから学んだのがきっかけでこういうのをやるようになったのかなあ?
マイルズといえば、このアルバム『ディッピン』には興味深い一曲がある。五つ目のチャーミングなラヴ・バラード「アイ・シー・ユア・フェイス・ビフォー・ミー」だ。アーサー・シュウォーツの書いたスタンダードなんだけど、まずモブリーがきれいにそのメロディを吹きはじめ淡々とやっているところはふつうの感じだ。ふつうだけど、でもきれいでいいなあ、これは。
おもしろいのは二番手で出るリー・モーガンのトランペット・ソロだ。ハーマン・ミュートを使ってあるよね。ハーマン・ミュートはべつにマイルズの専売特許なんかじゃないけれど、それでもイメージが強いのもたしか。さらにマイルズは、プレスティジ盤『ザ・ミュージング・オヴ・マイルズ』(1955年録音56年発売)で、このラヴ・バラード「アイ・シー・ユア・フェイス・ビフォー・ミー」をやっているんだよね。
おわかりのようにこのマイルズはハーマン・ミュートを使っているよね。これを踏まえた上でモブリー・ヴァージョンでのリー・モーガンの演奏を聴いてほしい。間違いなく先輩を意識しているように聴こえる。ハーマン・ミュートを付けてトランペットを吹くとみんな似た感じのサウンドになるだとかいう次元を超えたオマージュ意識を、ぼくは感じるけれどね。
それにしてもアルバム1曲目の「ザ・ディップ」。こんなカッコイイ曲だったなんてなあ。「ウォーターメロン・マン」「ザ・サイドワインダー」をやったビリー・ヒギンズがここでもいい仕事をしている。後者の主役だったリー・モーガンも活躍。ハロルド・メイバーンはもとからこんな叩きかたをするファンキー・ピアニストではあるけれど、やっぱりハービー・ハンコック流儀のブーガルー・ブロック・コードを踏まえて叩いているよなあ。
ソロ内容だっていい。リー・モーガンとハロルド・メイバーンはこういったスタイルのジャズ・ロックならお得意でみなさんご存知のものだけど、あんがいモブリーがすごい。あんがいとか言っちゃあ失礼か、ぼくの認識が足りなかったというだけだ。いやあ、ファンキー・テナーだ。曲もいいが、テナー・サックス演奏もいい。ホーン二管のテーマ・アンサンブルもリズムもいい。これ、ぜんぶモブリーの仕事でしょ。いやあ、いままで本当にゴメンナサイ。素直にカッコイイと心から認めます。
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