Funky Granted!
(レーベル公式 YouTube、8:11 から)
グラント・グリーンの『スリック!ライヴ・アット・オイル・キャン・ハリーズ』。ついこないだ日の目を見たばかりの未発表ライヴ作品だから、まずデータのたぐいを書いておこう。
Grant Green "Slick! Live At Oil Can Harry's" (Resonance, 2018)
Recorded live at Oil Can Harry's, Vancouver, Canada on September 5, 1975
Grant Green - guitar
Emmanuel Riggins - electric keyboards
Ronnie Ware - bass
Greg 'Vibrations' Williams - drums
Gerald Izzard - percussions
1) Now's The Time (Charlie Parker)
2) How Insensitive [Insensatez] (Vinicius de Moraes, Antonio Carlos Jobim, Norman Gimbel)
3) Medley:
・Vulcan Princess - Stanley Clarke
・Skin Tight - Ohio Players (Marvin Pierce, Clarence Satchell, James Williams) 3:24 〜
(・Trouble Man - Marvin Gaye 12:48 〜)
・Woman's Gotta Have It - Bobby Womack 13:08 〜
・Boogie On Reggae Woman - Stevie Wonder 14:20 〜
・For the Love of Money - The O'Jays (Kenneth Gamble, Leon Huff, Anthony Jackson) 15:23 〜
オリジナル・ヴァージョン集プレイリストをつくろうと思ったらすでにあったので、シェアさせてもらう。
チャーリー・パーカーの「ナウズ・ザ・タイム」はなんでもないビ・バップ・ブルーズ演奏…、でもなくてラテン・パーカッションが入っていて風変わりで、1970年代テイストになっているかもしれないが、今回のこの新発掘ライヴ・アルバムでは飛ばして問題ないはず。
2曲目「ハウ・インセンシティヴ」(インセンサテス)はアントニオ・カルロス・ジョビンの曲。しかしこれ、グラント・グリーンがやるとボサ・ノーヴァふうなあの軽みが消え、かなり湿度の高いヘヴィでソウルフルなワン・トラックにしあがっているのがおもしろい。考えてみたらもともと(ブラジル本国の)ボサ・ノーヴァには、こんな濃い情緒だって込められているのだった。だけど、今日はこれの話もしない。
今回の発掘品『スリック!ライヴ・アット・オイル・キャン・ハリーズ』の目玉は、もう間違いなく3トラック目のソウル/ファンク・メドレーだ。CD パッケージには五曲の記載があるが、上で書いておいたように、鮮明なかたちではもう一個、マーヴィン・ゲイの「トラブル・マン」もやっている。ほかにあるかもだけど、そうだとしてもかなり断片的で、だからぼくでも鮮明に聴きとれるのは六曲。
これが約32分間も続く。ずっと絶え間なくハードにグルーヴし続けているというのではなく、いったんペースをゆるめてテンポを落としている時間もあるが、それらはすべてイントロとかブリッジみたいな橋渡し役なのだ。目玉はあくまでごりごりファンクだ。
六曲メドレーといっても、まず1曲目スタンリー・クラークの「ヴァルカン・プリンセス」はエレベのロニー・ウェアのショウケースになっていて、途中からリズムも入り、グラント・グリーンも弾くが、あくまで32分間のプレリュードだ。
本番はオハイオ・プレイヤーズの「スキン・タイト」がはじまってから。この32分の長尺メドレー、実は「スキン・タイト」と、オージェイズの「フォー・ザ・ラヴ・オヴ・マニー」だけでできあがっていると言ってもよくて、マーヴィン、ボビー・ウォマック、スティーヴィ・ワンダーはつなぎとして演奏されている。それぞれの尺もかなり短い。
「スキン・タイト」では、このどファンクなリズムに乗ってグラント・グリーンがおなじみのドス黒いピッキングとフレイジングで盛り上げる。お得意のワン・フレーズ延々反復もやっている。1960年代からずっとグラントはこんな真っ黒け路線のジャズをやってきた。ソウルフルというかゴスペルふうに、ときにスピリチュアルズなどもとりあげながら、まっしぐらだった(ばあいが多い)。
だから1970年代に入ってグラントがファンク路線に進むのはごくごく自然なことなんだよね。むしろこういうのこそアメリカ黒人音楽家としての<良識>と、ぼくなら呼びたい。72年のブルー・ノート盤『ライヴ・アット・ザ・ライトハウス』では、スタイリスティックスの「ベチャ・バイ・ゴーリー・ワウ」もやっていたし、ほかの曲でも、アルバム全体が同傾向のジャズ・ファンクだった。
『スリック!ライヴ・アット・オイル・キャン・ハリーズ』の「スキン・タイト」では、グラントがマイルズ・デイヴィスの「マイルストーンズ」(1958)のリフをコード・ワークで刻んでいるのもおもしろい。ソウルフルなファンクとメインストリーム・ジャズ・リックとのこんなフュージョンもオッ!と思わせる意外さ、楽しさがあるよね。
マーヴィンの「トラブル・マン」、ボビー・ウォマックの「ウーマンズ・ガッタ・ハヴ・イット」をかなり短くはさんで、スティーヴィの「ブギ・オン・レゲエ・ウーマン」に移行。ぼくも大好きな曲だけにもっと長く演奏してほしかった気分もある。ところでスティーヴィのこの曲は、ジャズやブルーズなど他ジャンルの音楽家もよくカヴァーしているって思わない?
でもスティーヴィのそんなチャーミングな曲もさらりと過ぎて、グランド・フィナーレであるオージェイズの「フォー・ザ・ラヴ・オヴ・マニー」に突入。このときのライヴをこなしたクインテット五人が一体化したタイトなビートがものすごい。真っ黒けで、怒涛の迫力と強靭なグルーヴ感。
グラントはいつもどおりの盛り上げかたで、同じ短いフレーズを延々と反復している箇所も多いが、こういうのは1940年代のブギ・ウギ・ベースなジャンプ・ミュージックからよくある常套なんだよね。「アフター・アワーズ」や「フライング・ホーム」以来のアメリカ黒人音楽の伝統なんだ。
「フォー・ザ・ラヴ・オヴ・マニー」でもほかの曲でも、ソロを取るのは、グラントのギター以外だと、二番手で出るエマヌエル・リギンズのキーボードだけ。それは電気ピアノかクラヴィネットか、ぼくには断定できないが、この音色はクラヴィネットかなあ?まるでエレキ・ギターみたいなサウンドに聴こえるよ。
そうそう、この発掘品アルバム『スリック!ライヴ・アット・オイル・キャン・ハリーズ』で聴けるこのファンク・メドレーでは、ときどきサイド・ギタリストでもいるんじゃないか?と思える時間がある。グラントが弾いている真っ只中に同じ音色でコード・ワークやシングル・トーンが聴こえるような気がしないでもないから。でもたぶん、エマヌエルの電気鍵盤なんだろうなあ。ちょっと疑念を払いきれないが。
ごりごりハードに攻めまくる「フォー・ザ・ラヴ・オヴ・マニー」だが、っていうかこのグランド・メドレーは全体的にそうだけど、最終盤では、まるでコトが終わったあとの余戯を楽しむかのごとくメロウでおだやかなムードに終着して、アルバムとしても幕を閉じる。いやあ、すごい!
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