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2018/06/15

ファンクの誕生

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Excuse me while I do the Boogaloo!







 

 

 

 

各曲の録音年月も記しておこう。その順に並べたプレイリストだ。

 

 

1) Herbie Hancock 'Watermelon Man' 1962.5

 

2) Lee Morgan 'The Sidewinder' 1963.12

 

3) Miles Davis 'Eighty-One' 65.1

 

4) Wayne Shorter 'Adam's Apple' 66.2

 

5) Miles Davis 'Footprints' 66.10

 

6) Lou Donaldson 'Alligator Bogaloo' 67.4

 

7) James Brown 'Cold Sweat' 67.5

 

8) Miles Davis 'Stuff' 68.5

 

9) Lonnie Smith 'Son of Ice Bag' 68.7

 

10) Miles Davis 'Frelon Brun' 68.9

 

 

もちろんこないだの『ブルー・ノート・ブーガルー』の続き。というかあれを聴いていてふくらんだ妄想の一部 をマイルズ・デイヴィスがらみで展開したいってこと。あの公式プレイリストによってほかにも何個かふくらんでいるので、そのうち書けたら書いてみようと思っている。

 

 

マイルズの「スタッフ」(『マイルズ・イン・ザ・スカイ』)や「フルロン・ブラン」(『キリマンジャロの娘』)あたりのブーガルー・ジャズのことはいままでほぼ無視されてきていて、いま2018年でもその状況に変わりはない。1969年夏録音のアルバム『ビッチズ・ブルー』が盛大に持ち上げられ、せいぜい前作『イン・ア・サイレント・ウェイ」B 面の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」どまりだけど、それだってマイルズによるファンクへの斬り込みとみなす人間は、日本語書きではいまだぼくだけ。

 

 

でもどうもここ最近、その前の「スタッフ」「フルロン・ブラン」なんかのほうがもっとおもしろいんじゃないかと感じるようになってきている。この二曲、英語の文章でなら boogaloo だ、boogaloo tango だとかいうのが出てくるので、実はいままでそういうものを参照させていただいてきた。主にレガシー盤コンプリート・ボックス解説文のボブ・ベルデンのだけど。

 

 

それで、個人的にルー・ドナルドスンの「アリゲイター・ブーガルー」なんかは近いものがあるなあ、特に「フルロン・ブラン」のほうはそうだと、ボブ・ベルデンとは関係なく前から感じていた。そしてこれも個人の実感として『キリマンジャロの娘』がどんどんすごいものだと最近聴こえるようになってきていて、そこへ今年五月発表の公式プレイリスト『ブルー・ノート・ブーガルー』が来たってわけ。

 

 

『ブルー・ノート・ブーガルー』をなんども聴いて、こりゃジャズ・サイドからのジェイムズ・ブラウン流ファンクへの序章が見えたなあという気分だった。以前書いたがぼくの見方では JB によるファンクの誕生は1967年5月録音の「コールド・スウェット」なんだけど、この曲のリズム・パターンがその前、1960年代前半〜半ばのブルー・ノート・ジャズにいくつもある。

 

 

それらはファンク誕生前夜として位置付けることもできるけれど、もちろん JB だってそういったファンキー・ジャズは間違いなく聴いていただろうけれど、しかしブルー・ノート・ブーガルーはブルー・ノート・ブーガルーとして自律して楽しいものだ。ビッグ・バンの予兆として意義深いということだけじゃないんだ。

 

 

ハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムズの三人をマイルズが雇ったことによる音楽的変化は、その結実として『ソーサラー』『ネフェルティティ』という、なんというかクラシカルなというか、個人的にはイマイチなんだけど、抽象的に美しいみたいな、やや難解でハイ・ブロウなジャズ・アートに至ったということばかりがいままで強調されてきた。

 

 

ぼくにとってはそうじゃない。そもそもハービーはマイルズ・バンド加入前に「ウォーターメロン・マン」を発表している。あんなファンキーなジャズ・ブーガルーは、「ザ・サイドワインダー」のリー・モーガンじゃなくて同じレーベルのハービーが先駆者だった。そのまんま1960年代末〜70年代の(ジャズ・)ファンクに直結していると思う。

 

 

マイルズだって、ハービーはそういう傾向のあるジャズ・ピアニストだと知っていて雇ったはずだ。そしてハービーが「ウォーターメロン・マン」で先鞭をつけたブルー・ノート・ブーガルーだって聴いていたと、これはぜんぜん疑えない。その後しばらくしてリズム&ブルーズ〜ソウル界で勃興したファンク革命も間違いなく肌で感じている。

 

 

ロン・カーターも中南米音楽好きでファンキーな8ビート・ナンバーを書いたりするし、トニーがロックやリズム&ブルーズ好きだったのは有名だ。つまりこの1963年に揃ったマイルズ・バンドのニュー・リズム・セクションには、実はそんな面だって強かった。ここはあんがい軽視、無視されてきているか、(まじめなジャズ聴きからは)軽蔑されてきた。

 

 

ファンク革命の主導者は JB だったかもしれない。しかし社会革命がたったひとりの突出者の手によって突然巻き起こったりなどしない、それに至るまでには社会のなかに、一般大衆のなかに、それを産むだけのものが醸成されてきているものだというのと同様、ファンクも JB ひとりが産んだものではなく、音楽社会でたかまりつつあったムーヴメントをすくいあげて明快で鮮烈なかたちに蒸留したってことじゃないかな。

 

 

そんなアメリカ音楽社会の変化を、その素地がどこにどうあったのか、ジャズ・サイドから見てみたときのキーが、今年五月から個人的に熱中している公式プレイリスト『ブルー・ノート・ブーガルー』なんだよね。ピアノの叩くリフ・パターン、ベースのオスティナート、ドラムスのブーガルーなどなど、聴いてほしい。

 

 

 

なんども言うようだがマイルズという音楽家は、かなり保守的というか警戒心が強い(ここも勘違いされていて、革新的人物だと思われている)。生まれた新しい潮流にすぐにはとびつかず、しばらく眺めるようにじっくり観察してのち、はじめてすこしずつ自分の音楽に取り込んでみるというタイプなんだよね。

 

 

だから1962年からあったジャズ・ブーガルーのファンキーさも、それもまたひとつの下敷きだったファンクの誕生も、興味を示しつつもすぐにマイルズは取り込まなかった。ソウル〜ファンク・ミュージックへの本格的接近は(1968年9月に結婚する)ベティ・メイブリーのすすめによるものとされているが、ベティと付き合いはじめる前のフランシスとの蜜月時代に録音した作品のなかに予兆があるので、ベティは大きなきっかけ、トリガーだっただろうが、マイルズ自身の内的音楽変化と見るのが本筋だと思う。

 

 

1968年5、9月録音の「スタッフ」「フルロン・ブラン」がいまのぼくには最高におもしろいんだけど、よく観察すると、どっちも定型12小節ブルーズのバリエイションじゃないか。ハービーの「ウォーターメロン・マン」、リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」がそうであるように。

 

 

マイルズのばあい、今日のプレイリストに入れておいた「エイティ・ワン」(『E.S.P』)と「フットプリンツ」(『マイルズ・スマイルズ』)は定型どおりの12小節ブルーズで、それを1965年、66年のマイルズなりにちょっとだけファンキーにし、したがってリズムを細分化して跳ねるようにアレンジしたというものだった。

 

 

どっちもマイルズの書いた曲じゃない。ロン・カーターとウェイン・ショーターのコンポジションをとりあげたという、いかにもマイルズらしいちょっとずつの変化だ。それらではハービーとトニーのファンキー気味な伴奏ぶりにも注意して聴いてほしい。

 

 

それがもっと鮮明なグルーヴ・チューンとなって、しかもボス自身の主導する作曲で明快なマイルズ・ファンクとなって出現したのが1968年の「スタッフ」と、それ以上になにより同年四ヶ月後の「フルロン・ブラン」だったんだよね。その際には、ブルー・ノート・ブーガルーや JB ファンクがそうであるように、ラテン・アメリカ〜アフリカへの視線があったことも間違いない。

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