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2018/06/30

脱近代なネオ・トラディショナル 〜 スミルナ

 

 

 

(フル・アルバム)

 

 

ギリシアの女性五人組バンド(と言っていい?)、スミルナの実質デビュー作『Tha Tragoudiso Agalina』(2014)。スミルナっていうバンド名なくらいだから、スミルナ派レンベーティカ、やその起源ともなったオスマン帝国時代のアナトリア半島、イズミールの古典音楽が聴けるんだと思って買ったけれど、いい意味でそこから逸脱している。

 

 

もちろんアナトリアのイズミール/スミルナ音楽要素が最も濃い『Tha Tragoudiso Agalina』なんだけど、もっと別のもの、たとえばぼくが強く感じるのは東ヨーロッパの音楽だ。変拍子の使いかた、それをやすやすと乗りこなし、軽く舞っているところ、ヴォーカル・コーラスの重ねかたなど、東欧の伝統音楽(と一口に言うのも乱暴だけど)からかなりもらっていると感じる。ケルト音楽のニュアンスだってあるかも。

 

 

バンド、スミルナの女性五人は、カリア・カンポリ(カヌーン)、エレフセリア・コルリア(ギター)、ペニー・パパコンスタティーヌ(コンスタンティノープル・リュート、パーカッション)、エリーニ・シスカキ(ヴァイオリン)、ハラ・ツァルパラ(アコーディオン)。全員がヴォーカルもとっている。

 

 

フル・アルバムで上がっている YouTube 音源を、まだご存知ないかたは聴いていただきたいのだが、1曲目「Tha Tragoudiso Agalina」は、五人のア・カペラ・コーラスにはじまって、すぐに入る打楽器はまるでボドランの音に聴こえるよなあ。まあこんなサウンドの円形打楽器はどこにでもあるけれどさ。

 

 

しかも曲の前半を構成するヴォーカル・パートでの声の重ねかたは、ギリシア音楽でも聴けないものだし、アナトリア音楽にもないもので、う〜ん、こりゃなんだろう?東欧の、たとえばブルガリアの女性コーラス?は当たっていないかもしれないが、なんだかそんなようなものに近いよねえ。

 

 

1曲目後半はパッと場面転換してインストルメンタル・パートになって、しかもテンポがどんどん速くなるダンス・ミュージックを演奏している。ほら〜、ねっ、こういった速度を上げながらグルグル回転するダンス・ミュージックって、あるでしょ〜。

 

 

ボドランみたいな音を出す打楽器は2曲目「Milisso」以後でもどんどん使われている。そのボドラン(?)・ビートがケルト音楽っぽいが、しかし4/4拍子とか6/8拍子とかのストレートなリズムは、バンド、スミルナのアルバム『Tha Tragoudiso Agalina』にはない。ほぼぜんぶが変拍子か、テンポ・ルパートだ。テンポ・ルパート部分ではアナトリア音楽に最接近する。

 

 

またそんな五人の楽器演奏技巧も見事なものだよなあ。ヴォーカルの重ねかた、ひとりひとりの声の魅力も強い。しかしそこに、アナトリア(とその後ギリシア)のイズミール/スミルナ音楽に強く漂っている哀感とか諦観みたいな翳は、ぼくは感じない。もっとポジティヴで明るいトーンがあるように思うんだけどね。

 

 

結局のところ、バンド、スミルナのアルバム『Tha Tragoudiso Agalina』で聴ける音楽の正体を切り分けて考えることは、ぼくにはできないのだけど、しかし振り返ってみればオスマン帝国、イスラム帝国、とその前の古代ローマ帝国は、ひろく一帯を何百年間も同じ<一国の>領土内においていて、そのあいだは人的・文化的交流があったはずだ。いまのぼくらが認識している国家単位は、たかだか近代に登場したにすぎない。

 

 

だから、そんな広範なエリアで続いているフォークロア、トラッドなどは、(近代)国家の枠なんか無関係に流通し相互に流れ込み、いまでも共通性、相互適用性を保っているというような、そんな、すくなくとも妄想をぼくなんかにも抱かせてくれるに十分な『Tha Tragoudiso Agalina』のバンド、スミルナなのだった。

 

 

そんなトラディショナル志向は、しかし21世紀的というか、新時代のものであるというのも間違いないように思うんだ。近代西洋のフレームワークで音楽文化を考えていないという証拠だから。だから、ネオ・トラディショナルと記事題に入れた。

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