スウィングするのに歳はない 〜 キャッツ&ザ・フィドル
キャッツ&ザ・フィドルの録音集は二種類ある。原盤はぜんぶブルーバード(ヴィクター系)。リリース年の早い順に、ドイツの DEE-Jay 盤三枚(1999)と、英国 Acrobat 盤三枚(2007〜2015)。多くのみなさんがディー・ジェイ盤で親しんできたと思うんだけど、Spotify にあるものはアクロバット盤を使っている。メリットはクロノロジカルに並んでいること。そんなこともあるので、両方持っている僕も、今日はアクロバット盤に沿って話を進めたい。ディー・ジェイ盤のルックスはこんな感じ。
1930年代には本当にたくさんあったジャイヴ・ヴォーカル・グループ(楽器はストリング・バンド編成のことも多い)。きっかけはたぶんミルズ・ブラザーズとインク・スポッツがヒットを出したからじゃないかと思うんだけど、いままでこのブログでもなんどか触れてきた。ホ〜ント楽しいもんね。
キャッツ&ザ・フィドルのばあいは最初四人編成で、ギター二本(オースティン・パウエル、ジミー・ヘンダスン)+ティプレ(アーニー・プライス)+ベース(チャック・バークスデイル)。それぞれもちろんヴォーカルも担当している。このカルテットでの初録音は1939年6月27日で、同年12月7日にも録音し、その二回の計16曲がアクロバット盤の一枚目だ。上のプレイリストで「ジャスト・ア・ローマー」まで。
1940年になってギターの一名が交代しても音楽性に変化はなかったが、1941年1月20日録音からタイニー・グライムズが参加。ピアノ奏者が弾く曲も出るようになって、サウンドがすこし変化した。それが「アイル・オールウィズ・ラヴ・ユー・ジャスト・ザ・セイム」からで、1941年10月10日の「ストンプ、ストンプ」までがアクロバット盤の CD2。
はっきり言ってキャッツ&ザ・フィドルはここまででいいのかもしれない。CD3も上のプレイリストにくわえておいたが、スウィング感もすこし弱くなりかけているんじゃないかなあ。同じ曲の再演もあったりして、どうもあまり聴きごたえがないと僕は感じる。
さらに言えば、タイニー・グライムズが有名なおかげでキャッツ&ザ・フィドルも彼が在籍したことで知られているのかな?という面もあって、そこに注目が集まっているのかもしれないが、あまり関係ないのだ。お聴きになっておわかりのようにタイニーの参加前から同じフィーリングのジャイヴィ・スウィングをやっているし、どっちかというとタイニーが参加してイマイチになったということがあるかもよ。エレキ・ギターを弾いているから印象も違っている。
しかしそれでもジャイヴ・ヴォーカルの味は変化していない。楽器サウンドよりもそっちのほうが聴きものである音楽なので、それが失われていないあいだは文句なしに楽しい。いちおう意味のある歌詞のついた主旋律があるけれど、ナンセンス・シラブルも乱発するし、メイン・ヴォーカリストの背後でどぅーわっ、ぶわぶわ、しゅわ〜しゅわ〜っとか、スキャット的にコーラスを入れているのが最大の妙味なのだ。楽しい、おもしろい、最高に。
楽器ではなくそのスキャット的バック・コーラスこそがバンドのリズムを創っていると言ってもさしつかえない。アップ・テンポの陽気な曲では跳ねまわり、ミドル・テンポのスウィンガーでは軽妙愉快に、バラードやトーチ・ソングではしっとりと情感をたたえるように、ジャイヴ・コーラスがリズムとサウンドの中核をかたちづくっている。
「ナッツ・トゥ・ユー」「キリング・ジャイヴ」「ギャングバスターズ」「ウィ・キャッツ・ウィル・スウィング・フォー・ユー」「ミスター・リズム・マン」みたいなものは言うことなき楽しさで愉快でいいよね。
だけど、「プリーズ・ドント・リーヴ・ミー・ナウ」「ティル・ザ・デイ・アイ・ダイ」「アイド・ラザー・ドリンク・マディ・ウォーター」「アイ・ミス・ユー・ソー」「レフト・ウィズ・ザ・ソート・オヴ・ユー」なんかはもっと印象深いと思うなあ。
特に「アイ・ミス・ユー・ソー」だね。しんみり沁みてきて哀しく切ない。しかも暖かい。キャッツ&ザ・フィドルにとっても最大のヒットになったこの曲の味がすばらしいよね。この歌は、ジャズ〜ジャイヴ〜リズム&ブルーズ〜ドゥー・ワップをつなぎ一線上に置く重要な一曲だ。実際、この曲も後年のドゥー・ワップ・グループがカヴァーしたのだった。クリス・コナーみたいなジャズ歌手や、またポール・アンカだってカヴァーしたよ。ダイアナ・クラールだってやっているんだ。
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