三日月形のドリーム・チーム
これも一種のカラオケ音楽かもしれない。インストルメンタル・ミュージックというのとはすこし違うよね。このばあいのカラオケとは決して否定的な意味ではなく、ナッシュヴィルのエリア・コード615とか、キング・カーティスやスタッフみたいなフュージョン・バンドがそうだといままで言ってきている、そういうのと同じだ。
と、ぼくが今日話題にしているのはクレスント・シティ・ゴールドという臨時編成プロジェクトの1994年リリース盤『ジ・アルティミット・セッション』。クレスント・シティとは言うまでもなくルイジアナ州ニュー・オーリンズの愛称で、このアルバムのメンツがすごいんだ。
アラン・トゥーサン、アール・パーマー、マック・レベナック(ドクター・ジョン)、エドワード・フランク、アルヴィン・レッド・タイラー、リー・アレンという、まったく説明不要の超有名人ばかり。この六人がクレスント・シティ・ゴールドのメンバーということで、そのほかサポート・ミュージシャンたちも参加して、当地のシー・サン・スタジオで1992年に録音されたもの。
よくもこんな錚々たるメンバーを集合させられたもんだと思うけれど、仕掛け人は顔写真も掲載されているキャシー・セバスチャン…、って、どなたなんでしょう?ぼくはいまだ知らないかたで、う〜ん、しかしホントすごいよ、これだけのセッションをプロデュースできるのって。マジで何者なんでしょう?どなたかご存知でしたら教えてください。
『ジ・アルティミット・セッション』の全15曲(ラスト16トラック目はリプリーズ)。なかには「ルシール」みたいなブルーズ・スタンダードや、「トリック・バッグ」「ドント・ユー・ジャスト・ノウ・イット」「ジャンコ・パートナー」のようなニュー・オーリンズ・クラシックスもありはするが、それ以外はたぶんこのときのセッション用の新曲だよね。
ぼくの耳にはそういった新曲のほうが出来がいいように響くのだった。なかでもいちばん感銘を受けるのが4曲目「カーリーマ」、12曲目「スモーキン・コーナー」、15曲目「スペシャル・リクエスト」。「スモーキン・コーナー」は用意された楽曲じゃなくて、たぶんだけど、三人のピアニストが順に弾いている即興なんじゃないかと思う。
頼りない耳判断で言うと、「スモーキン・コーナー」で弾く順番は、エドワード・フランク→ドクター・ジョン→アラン・トゥーサンなんじゃないかと思う。なんとなくね、そう感じるスタイルの違いがあるように聴こえるんだけど。鮮明なニュー・オーリンズ・スタイルは三人とも出していない。バラード調にしっとりと、三人が順に鍵盤で奏でているバラード。最終盤でちょろっとエキゾティックな(中国ふう?)雰囲気があるので、そこはアランなんだろう。
中国ふう?エキゾティズムといえば、『ジ・アルティミット・セッション』5曲目のやはりカラオケ「ミッド・シティ・バップ」にもそれがすこしだけあって、特にイントロ部。クレジットを見たら、やはりアランの書いた曲で、冒頭部のそのピアノ演奏も彼なんだろうね。しかしその後はやはりニュー・オーリンズ R&B になっていく。だから、アランの『サザン・ナイツ』とか、あのへんだよね。
アルバムの実質ラスト・ナンバーである15曲目「スペシャル・リクエスト」。これもカラオケだけど(ってか、このセッション用の新曲はぜんぶほぼカラオケで、歌入りは他作スタンダードだけ)、これなんかのムードはたまらない絶品。泣きのバラードで、サックス二名がこれでもかとすすりあげ、迫る。いいなあ、これ。アルバム・クローザーにはこれ以上ないっていうほどの雰囲気だ。
それなのに、それが終わるともう一回、4曲目「カーリーマ」がリプリーズでほんの30秒ほど鳴る。だから、このアフロ・キューバン・ナンバーはアルバム『ジ・アルティミット・セッション』のテーマ・ソング的な位置付けってことなのかなあ。本編のフル・ヴァージョン4曲目では、「か〜り〜ま〜」とヴォーカル・コーラスも入るが添え物でしかない。
メインはあくまでこのラテン・リズム(打楽器はアール・パーマーがパーカッションも多重録音している模様)と、その上に乗るホーン・アンサンブル、そしてサックス二名のソロだ。アンサンブル・アレンジは、この曲だけでなくアルバム全編でアランが手がけているはず。サックス二名のアド・リブ・ソロはさすがの熟した旨味。ピアノ・ソロはエドワード・フランク。
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