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2018/06/12

日本のニュー・オーリンズ牛深のダンス・グルーヴ

 

 


今2018年3月にリリースされた『牛深ハイヤ節』(Alchemy、アオラ配給)が楽しくてたまらない。踊れる。これ聴いて膝や腰が動かないひとはいないんじゃないかと思う。実際、これに収録されているのはダンス・ミュージックだ。熊本県牛深(牛深市だったが、市町村合併でいまは天草市の一部)で伝えられてきている、船乗りたちの酒盛り踊り。

 

 

CD アルバム『牛深ハイヤ節』は二枚組で、一枚目6トラックが新録の牛深ハイヤ節。二枚目の4トラックは、ラストが1970年代録音のカセットテープ音源らしく、当時のハイヤ節を徳島県鳴門市の民俗音楽愛好家が録音したもの。それ以前の3トラックは、4トラック目の音源を久保田麻琴がリミックスしたものだ。

 

 

ぼくの興味はレア・グルーヴ的扱いのリミックス3トラックにはない。CD2のトラック4は、録音は悪いけれど当時のディープ・グルーヴの生々しさが伝わってくるもので、港町の息遣いまで感じるかのよう。貴重だ。ジックリ聴き比べると、CD1の新録6トラックもまったく同一パターンなので、今日は話題を CD1に絞りたい。音質も極上。

 

 

まったく同一といっても CD1には二種類が収録されている。アップ・ビートのダンス・チューンである「牛深ハイヤ節」と、ダンサブルではありながらゆったりとスローで漂うさざなみのごとき「牛深磯節」。トラック1、3、4、6がハイヤ節で、5が磯節。2はその合体で前半が磯節、後半がハイヤ節。

 

 

その2トラック目「元ハイヤ(加世裏磯節〜牛深ハイヤ節)」は15分以上もあって、曲がチェンジする瞬間の劇的なスリルも刺激的だし、ある意味、アルバム『牛深ハイヤ節』のハイライトなんじゃないかと思っている。しかもどうやら港町である牛深の船乗りたちの宴の様子をよく再現したものらしい。

 

 

これに限らずアルバム『牛深ハイヤ節』収録のものがそのままネットにあるわけないが、しかし民俗伝統のダンス・ミュージックで姿もさほど変えずに継がれてきているもののようなので、YouTube で検索するとほぼ同様のものがいくつも出てくる。『牛深ハイヤ節』収録の「元ハイヤ(加世裏磯節〜牛深ハイヤ節)」は、たとえばこういうのによく似ている。

 

 

 

おわかりのように途中 3:44 で掛け声が入る。「ハイヤ、ハイヤはどこにもあるが、牛深ハイヤが我がハイヤ、さぁ、牛深ハイヤ節、ボチボチいこかい!」と威勢よくやったあとアップ・ビートに変貌し、激しくグルーヴしはじめる。この掛け声の前が磯節で、後がハイヤ節だ。

 

 

この掛け声といい、前後の音楽の様子といい、アルバム『牛深ハイヤ節』収録の「元ハイヤ(加世裏磯節〜牛深ハイヤ節)」も同じなのだ。そっちでの掛け声は  6:35 で入っている。いやあ、しかしこのチェンジする瞬間のスリルには背筋がゾクゾクするよねえ。

 

 

アルバム『牛深ハイヤ節』一枚目収録の5トラック目「牛深磯節」は、そんな前半と同じものだ。下の音源では男性が歌っているが、CD 収録のものは女性の唄い手がメイン。そもそもこの CD はぜんぶそうだ。レスポンス的コーラスも女声メインで、声に華と艶があって、かなり好き。いちおう附属ブックレットにその名前が記されているが、個人名にあまり意味はないと思う。

 

 

 

単独の「牛深ハイヤ節」だと、アルバム『牛深ハイヤ節』一枚目収録の4トラックはぜんぶ同じだから…、と思うけれど、しかし続けて聴くとそのシビれるようなダンス・グルーヴが延々と持続して快感で、トラックの切れ目がどこなのかわからないほどだけど、ただただ楽しい。

 

 

そんなわけでこっちも YouTube に同じような「牛深ハイヤ節」があるので、いくつかご紹介しておく。

 

 

まずこれ。トラディショナル・スタイル。やっているのは高校生だけど、音楽のディープさは同じ。むしろ伝統の姿をしっかり生なままで引き継いでいるんだろう。

 

 

 

これは男性だけど、同じもの。こういうのは「現場」の姿に近いものなのだろうか?

 

 

 

ステージ・エンターテイメント化したものだと、こういう感じ。

 

 

 

さらに、披露された場所は東京だけど、こういうお祭り現場での披露もある。長めの説明が本編前に入っているので、それを聞いてから踊りと音楽に入るのがわかりやすいかも。いやあ、楽しいですね。

 

 

 

ところで突拍子もない話になるけれど、牛深のこういったダンス・ミュージックの伴奏も三味線と太鼓で、「ハイヤ節」でも「磯節」でも、それらが表現するシンコペイションがあるよね。三味線は一定パターンを延々とリピートし、太鼓は裏拍でもよく入る。特に太鼓低音部がそうだけど、そうじゃない部分でもアフター・ビートを強調し、また高音域では(アメリカの)ファンク・ドラミングでいうゴースト・ノーツを入れている。

 

 

その上でリード・ヴォーカルが引っ張って(コール)、後ろが合いの手を入れたりレスポンス的にコーラスで返したりしているよね。んで、日本のダンス・ミュージックやアメリカのやだけでなく、世界の「南部」発祥グルーヴ・ミュージックって、かなり多くがそんな創りになっていると思うんだけど。ボンヤリとそう感じているのだが、ぼくだけの勘違いかなあ。

 

 

牛深ハイヤ節、阿波踊り、佐渡おけさ、ファンク(アメリカ)、ダブケ(レバノンなど中東)、ルンバ、マンボ(キューバ)、サンバ(ブラジル)、コラデイラ(カーボ・ヴェルデ)、センバ(アンゴラ)…、などなど、世界のストレートなダンス・ミュージックを貫く共通項を、はたして見出すことができるのだろうか?それは歌謡系音楽とはどこがどう違っているのか?そんなスケールの大きな話をする能力は、少なくともぼくにはなさそうだ。

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