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2018/07/31

スペインとアラブ(2)〜 リズムもね

 

 

 

 

在仏カビールの三人組バンド、アムジーク(Amzik)の2016年盤『Asuyu N Temzi』がすごくいい。一聴しただけで好きになっちゃった。ぼく的にはこれもスペインとアラブ(圏にあるもの)との共通性を感じさせるアラブ・アンダルースの音楽だ。そんでもって、20世紀末からずっと大好きでありつづけているアマジーグ・カテブ(グナーワ・ディフュジオン)の音楽にかなり近いようにも感じる。在仏カビールだから?

 

 

そのへんのことは今度また考えてみるとして、アムジーク(ってのは音楽 muzique にひっかけてある?)の『Asuyu N Temzi』は、カビール・フラメンコ作品だ。というのがぼくのとらえかた。旋律はもちろんよくて、そうなんだけど、なによりリズムのこのグルグルまわるダンサブルさ。それがスペインのフラメンコだなって思うわけ。おかしな聴きかたかなあ?

 

 

いやいや、もちろんフラメンコじゃなくてカビール・シャアビの持つリズムなんだけど、でもさあこのアムジークの『Asuyu N Temzi』では、そのリズム回転ぶりが、ふつうのシャアビとかカビール歌謡とか、アルジェリアとかマグレブの音楽よりも、いっそう強いように思うんだよね。気のせいかなあ?とにかくぼくにはスペインのフラメンコっぽく聴こえるし、もっと言えばこのアムジークの音楽は汎スパニッシュ(or 汎アラブ・アンダルース)音楽のひとつの結実でもあるかもしれない。

 

 

だからぼく的に3曲目「Ilemzi」からあとがずいぶんすばらしく聴こえる。1曲目、2曲目は、なんだかこう、あれっ、清廉な爽やかネオ・アコースティック系みたいにはじまったぞって思っちゃう。それがよくないっていうことじゃなくて、3曲目以後は、あのイベリア半島にある独特の翳りとか憂いが「表面的にわかりやすく」表出されているのがぼく好み。その哀感は強いダンス・リズムをともなっているからこそ、強調されている。だからつまり、フラメンコのパッションに近いじゃないか。

 

 

3曲目「Ilemzi」、4曲目「yenna-d w ul」、5曲目「Amek ara-3icagh」とカビール・フラメンコが続くけれど、リズム・アレンジはずいぶんと凝っている。生演奏ドラマーが参加しているけれど、パーカッショニストも複数名いて、ベンディールやデルブッカのような典型的なものだけでなく、(あまり聴こえないが)カホンやタールやシェイカーも演奏しているとのクレジット。

 

 

そしてこのアルバムのリズムはそんな打楽器系のものばかりでなく、というよりもむしろ弦楽器のめくるめくフレイジングでこそ表現されているというのも、スパニッシュ・フラメンコのやりかただ。アムジークのばあい、ギター奏者もいるがそれはゲストで、バンド・メンバーとしてはバンジョー/マンドールをヒルディーン・カティが弾いているのが、最高にリズミカルなんだよね。

 

 

バンジョーかマンドール&打楽器群の織りなすこのリズムこそ、ぼくにとってのアムジーク『Asuyu N Temzi』におけるいちばんの聴きどころで、最初に書いた「一聴で好きになっちゃった」っていうのはここなのだ。5曲目「Amek ara-3icagh」では、しかし同時にディスコっぽくもあるよね。

 

 

ちょっとした驚きは6曲目「Ifen」だ。これはタンゴなんだよね。一曲全体ではないものの、まず出だしでタンゴを演奏するし、その後カビール・シャアビにチェンジしてからもまたふたたびタンゴのリズムが出てきたりして、混交折衷しているようなフィーリング。うまく溶け合っておらずかみあっていないのかもしれないが、おもしろい実験だと思うなあ。

 

 

タンゴはアルゼンチン発祥だけど、キューバのアバネーラにルーツがあって、それはセバスチャン・イラディエールの手によってスペインでも花咲いた。アラブ・アンダルース音楽がイベリア半島で花咲いたのはその数百年も前の話だが、ちょっとワクワクしない?

 

 

7曲目「à tin hemlagh」は、1曲目同様アクースティック・ピアノの音ではじまるけれど、ストリングス(はシンセサイザーだろう、演奏者明記がない)のあと、マンドールが入ってきて以後は、やはり強いダンス・ビート・ナンバーに変貌。そこからが大好き。まあ、有り体に言っちゃってシャアビなんだけど、でもちょっぴりフラメンコふうじゃない?

 

 

シャアビといえば、8曲目「Azaglu」と10「Ibabur」は典型的なそれ。トラディショナル・マナーにのっとって、アムジークの三人とゲスト・ミュージシャンたちもやっている。そこらへんのふつうのシャアビ古典アンソロジーを手にとればいくらでも聴けそうなものだけど、オジサンであるぼくちんはこういうのがホ〜ント大好きなんですよ。この二曲に確たるフラメンコっぽさは聴きとれない。でもこの旋律の動きがマジでいいんだよ、シャアビはね。美しい。

 

 

ベンディールのサウンドで幕開けする9曲目「ger layas d usirem」が、このアムジークのアルバム『Asuyu N Temzi』での個人的クライマックス。一箇所でグルグル回転しながらすこしずつ前に進むみたいなリズム・フィールと、兄弟デュオがユニゾンで歌うアラブ・アンダルースのメロディ展開と、このふたつが溶け合った最高の一曲だ。泣けちゃうなあ。なおかつ同時に、ロック・ミュージック的な推進力と快感もぼくは感じるよ。

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