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2018/08/01

#notBlueNotebutBoogaloo 〜 エディ・ハリス

 

 

ジャズ・テナー・サックス奏者エディ・ハリスの『ジ・イン・サウンド』。1965年8月録音66年発売のアトランティック盤で、だから当然、レーベル公式プレイリスト『ブルー・ノート・ブーガルー』には入らない。がしかし、まったく同傾向の一曲がある。そう、言うまでもない、アルバム・ラストの「フリーダム・ジャズ・ダンス」。アルバム全体を通すと、まあふつうのモダン・ジャズ作品かなと思うんだけど、この一曲の魅力は絶大だ。

 

 

 

エディ・ハリスの『ジ・イン・サウンド』も、ドラマーがこれまたビリー・ヒギンズなんだよね。エディ・ハリス自身は、たぶんなんでもない、って言うと語弊があるのか、ふつうのメインストリーマーだろうと思う。黒人ジャズ・サックス奏者にしては音色が軽く薄くてクールなのが特色だけど、それゆえにファンからは軽視もされてきた。しかし今日話題にするアトランティック盤『ジ・イン・サウンド』はやや感じが違う。ブラック・グルーヴィだよね。

 

 

全六曲のこのアルバムでおもしろいのは、多く見て四曲。でも『ブルー・ノート・ブーガルー』的視点に立って絞ると二曲だ。アルバムのおしりにある5曲目「ス・ワンダフル」と6曲目「フリーダム・ジャズ・ダンス」。やっぱり特にマイルズ・デイヴィスもカヴァーした後者だけど、前者はボサ・ノーヴァ・アレンジで、これもいいぞ。楽しいよ。ほか、3曲目「ラヴ・フォー・セール」、4曲目「クライン・ブルーズ」(後者はエディ・ハリス自作)もグルーヴィだ。

 

 

コール・ポーター作のスタンダードにおけるエディ・ハリスの吹きっぷりはかなりすごい。クールとのイメージとは正反対のゲキアツなサックス・ソロを聴かせてくれていて、伴奏のビリー・ヒギンズも猛プッシュ。ソロのあいだ、だれか(ビリー?)がウン!ウン!とうなり声をあげているのがまあまあ音量大きめに入っているが、うん、たしかにこれは気持ちが入っているなあ。

 

 

次のノリのいいオリジナル・ブルーズとあわせ、それら二曲こそがふつう一般のモダン・ジャズ・ファンにとっては美味しいものってことになるはずだ。あ、そうそう、エディ・ハリスの『ジ・イン・サウンド』は、基本、カルテット編成なんだけど、3、4、6曲目にだけトランペッターが参加している。レイ・コドリントン。どんなひとか、ぼくはよく知らない。当時の新人じゃないかなあ?

 

 

ベースを弾くロン・カーター(当時マイルス・デイヴィス・バンド在籍中)もいいが、ピアノのシダー・ウォルトン(大好き!)のブルーズ・ピアノはやっぱりうまいな、と思っていると、次の5曲目で軽いタッチのボサ・ノーヴァにアレンジしたガーシュウィン・スタンダードが来る。こんなふうな「ス・ワンダフル」はほかでは聴けないよねえ。

 

 

前から言っているが、ビリー・ヒギンズはこういうのを叩かせると本当に上手いんだ。ブルー・ノート作品ならデクスター・ゴードンの「カーニヴァルの朝」(『ゲティン・アラウンド』)とかもあったよね。カルテット編成でやるエディ・ハリスの「ス・ワンダフル」では、やはりリム・ショットを効果的に入れている。と同時にスネアをブラシでなでなでしているのが、まるでシェイカーみたいに聴こえたりも。

 

 

音色がクールなエディ・ハリスのばあい、こういったやりかたの「ス・ワンダフル」みたいに(フェイク?・)ボサ・ノーヴァでちょうどいい適切なノリを表現しやすいと思うんだよね。ブラジルの、たとえばショーロのサックス奏者って、ピシンギーニャもそうだけど、みんな音色が薄いでしょ、スカスカで。あれでちょうどいい。エディ・ハリスも、だから、ここではいいんだ。

 

 

しかしその次、アルバム・ラストの「フリーダム・ジャズ・ダンス」は、どうしたんだこれ?突然こんな、それまでこの音楽家のなかになかったような、ブラック・ラテン・グルーヴが、つまりブーガルー・ジャズが誕生しているじゃないか。突然変異みたいなもん?しかも、モダン・ジャズ界でならディジー・ガレスピー、ホレス・シルヴァー、セロニアス・モンクらの持つあのユーモア感覚、旋律がひょこひょこと上下する滑稽味でもってファンキーさとするあの感覚がこの「フリーダム・ジャズ・ダンス」オリジナルにはある。

 

 

これをエディ・ハリスが書いたっていうんだから、マジで降って湧いたような天才の発揮だよなあ。しかもこの曲はワン・コードのモーダル・ナンバーだ。テーマ演奏部では旋律の上下が大きいのでわかりにくいかもしれないが、三人のソロ部でならずっとコードが変わっていないと気付きやすいはず。

 

 

コード・チェンジをシンプリファイしてモーダルなアプローチにし、さらにそれを活用してエディ・ハリスもレイ・コドリントンも、ところどころアラブ音楽ふうにソロ・ラインをくねくねと展開するパートがあったりもして、そんでもってそのボトムスを支えるリズムはラテンな8ビート・ブーガルーで、ブーガルー・ジャズ・ドラマー、ビリー・ヒギンズが大活躍。

 

 

カヴァーしたマイルズ・ヴァージョンではそれらがすこし消えているものなんだけど、エディ・ハリス・オリジナルの「フリーダム・ジャズ・ダンス」、これほど楽しいモダン・ジャズ・ナンバーもなかなかないよね。愉快でカッチョエエ〜〜。だ〜いすき!

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