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2018/07/28

ラテンな『ポップ・スンダ』〜 ウピット・サリマナ

 

 

ディスコロヒアの『インドネシア音楽歴史物語』にも一曲収録されている、西ジャワの歌手、ウピット・サリマナ。エル・スールからこの『ポップ・スンダ』が発売されるまで、たぶん名前も聞いたことがなかった。エル・スール・レーベルや同系のものや、オフィス・サンビーニャもの(ライス、ディスコロヒアなど)は、なにか出たら即ぜんぶ買うと決めているからウピットの『ポップ・スンダ』もすぐ買っただけ。

 

 

めくら撃ちみたいなもんなんだけど、そうやって知らない領域に踏み込んでいかないと世界がひろがらないもんね。結果というか成果というか、ぼくなりにちゃんと得られたものがあると思っている。実際、クォリティは高い。マレイシア(?)のサローマにだって、そうじゃないとぼくは出会えなかったか、もっとずいぶん遅くなったはずだ。その他たくさんあるぞ。

 

 

それはいい。西ジャワのウピット・サリマナ『ポップ・スンダ』。この歌手のことや曲のこと、スンダ歌謡のことなど、ぼくはマジでまったく知らないのに、日本語か英語で読める情報があまりにもすくなくて、だから結局のところ、買ったエル・スールさんのサイトに書いてあること、CD-R をはさんである紙パッケージ裏に記載されてある短文、あとは検索したらこれまた bunboni さんのブログ記事が出てきたのでそれ、と、要はこれだけ。吉岡修さんはどこかでお書きじゃないのかな?

 

 

それらによれば『ポップ・スンダ』に収録されている26曲は1960〜70年代の LP レコードから抜粋したベスト・セレクションみたいな内容らしく、しかも日本でこれだけまとめてウピット・サリマナのポップ・スンダが聴けるのはこの CD 発売時が初だったらしい。その後も便りを聞かないので、ないんだよね、きっと。インドネシア本国にもこんなアルバムはないとのこと。

 

 

伴奏楽器には多くのばあい(たぶんアメリカ音楽から流入した)ポピュラーな楽器がメインで使われている。エレキ・ギター、ベース、ドラム・セット、電気鍵盤などなど。ところどころインドネシア現地の?民俗楽器かな?と思うようなサウンドも聴こえるが、例外的だと言っていいかも。音の重ね方もアメリカン・ポップス、から来た東南アジア・ポップス流儀?に近い。それにしても、ギタリストのこういった弾きかたは汎東南アジア的なのかなあ?

 

 

さらに楽器編成で特別ぼくの耳にとまったのはトランペットの使いかた。たくさんの曲でどんどん入っているが、ほとんどのばあいミュート器を使ってある。それがえもいわれぬ情緒をかもしだしているのがぼく好み。こういったミューティッド・トランペットのオブリガートは、あまり聴かないなあ、ぼくは(って、東アジア歌謡のこと、日本のもの以外、なにも知りませんが、でもアメリカン・ポップスにもあまりない流儀だ)。

 

 

ご存知のようにぼくはマイルズ・デイヴィスがこの世でいちばん好きな人間なので、だからトランペットの音が聴こえてくると、やはりどうなっているのか耳をそばだててしまう。ウピット・サリマナの『ポップ・スンダ』でこれだけどんどん同じようなミューティッド・トランペットが使われているということは、専属アレンジャーか、専属でなくとも同一アレンジャーが手がけたということがあるかもしれない。

 

 

この件でオッと思うのは2曲目「Gambang Karawang」。ここでのトランペットはソン(キューバ音楽)のスタイルだね。ミュートはつけておらずオープン・ホーンで吹いている。こころなしか曲全体もキューバン・ソングのよう。に聴こえるのはぼくがラテン・ミュージック好きで東アジア歌謡無知だからってだけ?

 

 

いやいや、そうとばかりも言えないよ。ウピット・サリマナの『ポップ・スンダ』にはラテン調のスンダ歌謡がかなりたくさんある。どの曲がそうか?などとお聞きになる必要すらない。それほど質量ともにしみ込んで増幅している。1960〜70年代なら西ジャワのスンダのなかにもラテン・ミュージックが入りこんでいて当然だ。遅く見ても1950年代あたりまでには、全世界にラテン音楽、特にキューバのそれが大拡散しまくっていたんだから。

 

 

そんなわけで日本の歌謡曲だってラテン・タッチばかりだと前から強調しているが(たぶん直接の起因は、日本の歌謡作曲家もジョルジュ・ビゼーの「カルメン」を聴きまくったことにあるんだろう、それは1864年の作品で、その起源がスペインの作曲家セバスチャン・イラディエールの「ラ・パローマ」で、だからやっぱりキューバ起源のアバネーラ)、同じくラテン音楽の影響が色濃いウピット・サリマナの『ポップ・スンダ』に、日本の歌謡曲、特にあの1960年代あたりのものと類似しているものが多いのも当然なのか?

 

 

『ポップ・スンダ』だと、特に13曲目「Orde Baru」以後が日本の歌謡曲に似て聴こえる。あのころの日本にもこんな歌、実にた〜くさんあったよなあ。あるいはインドネシアから日本に流入しているとか、その逆とか、相互方向の交差影響があっただとか、地理的にもさほど遠くないんだし、そんなことだって想定できるかも。

 

 

ちょっとビックリは『ポップ・スンダ』6曲目「Sampeu」がレゲエっぽいことだ。世界のいろんな音楽におけるレゲエ爪痕は、たいていのばあいエレキ・ギターで表現される裏拍の刻みだが、このウピット・サリマナのはオルガンが裏拍でビャッ、ビャッと入れているのがユニーク。こんなの、聴いたことないよ。楽しい。トランペットだって南洋ふう。

 

 

12曲目「Kongkorong Hajum」の途中ではアフリカン・リズム(っぽいもの)になっているのもおもしろい。アフリカンは言いすぎかもしれないが、それくらい打楽器ビートが中間部でものすごい。特にシンバルの叩きかたに着目してほしい。ポリリズムに近づいているのではないだろうか。

 

 

レゲエにしろアフリカン・ビートにしろ、全世界でそれが頻用され一般化するのはもっと時代が下ってのことじゃなかったっけ?ウピット・サリマナの歌う曲をだれがアレンジしていたのか、本当に知りたいぞ。15曲目「Dikantun Tugas」はキューバン・ボレーロっぽいしね。近年、ヴェトナムの女性歌手たちの多くが、こういうボレーロな抒情歌謡を得意とするようになっているけれども。

 

 

そんなレー・クエン(現在 No. 1 のヴェトナム歌手 in my 私見)の2018年新作も、ぼくだってそろそろ買えそうなのだが(エル・スール原田さんに送ってくださいと告げるだけ状態)、バラディアーだとかボレーロ歌いではないものの、インドネシアは西ジャワのウピット・サリマナの楽しさ、ほんわかする抒情味と暖かみ、庶民的(ある意味、農民的?)な親しみやすさなど、いま一度、再確認しておきたい。ラテン・テイストとともに。

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