むかしサニアデいまはフェミ
ジャケットには Femi Oorun Solar and His Sunshine Jasa Band と書かれているフェミ・オルン・ソーラー(ナイジェリア)の2016年作『Mercy Beyond...Aanu To Tayo』。この後も快調にリリースがあって、今2018年もこないだエル・スールに新作が(二度)入っていたが人気で、ぼくはたちまち買い逃して再入荷待ち。
いまフェミは絶好調なんじゃないだろうか。その快進撃ぶりといい、同国だし、音楽の中身も、かつてのキング・サニー・アデを彷彿とさせるものがあるように思う。ぼくのワールド・ミュージック体験は、修士課程在籍二年目(23歳)のときに深夜の寮の一室の FM ラジオから流れてきたサニー・アデの「シンクロ・フィーリングズ ー イラコ」で背筋に電流が走ったことではじまったのだが…、と思って、フェミの『Mercy Beyond』に続けてサニー・アデの『シンクロ・システム』を聴いてみたら、やっぱりフィーリングが似ているよねえ。
みなさんがどうなのかわからないけれど、すくなくともぼくは1985年にキング・サニー・アデを聴き、アフリカン・ポリリズムの真髄とはこういうものなのか!と衝撃的に思い知ったのだった。とか言っているのはおおげさで、いまだになにひとつわかっていないけれど、新鮮すぎる体験で世界が一変したことは間違いない。
近年のフェミ・オルン・ソーラーのアルバムを聴いていると、そんな気分が蘇ってくる。あのフィーリングをもう一回味わえるとはね。『Mercy Beyond』の話しか今日はしないけれど、これ一枚でも、未聴のかたは耳を傾ける価値があるものだし、個人的に感想を記しておく必要があると信じて、雑にちょこっとだけ走り書きしておく。
『Mercy Beyond』は全4トラックだけど、1と3が長尺、2と4がどっちも五分もない短さで、やっぱり1「Mercy Beyond」(13:08)と3「Oorun N'tana」(20:01)が聴きどころなのかなあ。といっても短尺な2と4にはゲスト・ヴォーカリストがいて、リズムもカラフルだし、アルバム全体でいい緩急の付け具合になっているのもたしかだ。
全4トラック、すべて複数のトーキング・ドラムを中心に組み立てられている。聴こえてくる音しか判断できる材料がないが、かなりの人数が参加していそうだ。しかもその大編成トーキング・ドラム・アンサンブルは、それだけでじゅうぶん色彩感豊かで、っていうかカラフルすぎるだろうと思うほどのサウンドを構成していて、しかも分厚い。実際、トーキング・ドラム奏者は何人くらいいるんだろう?と思うと、bunboni さんによれば八人とのこと。それはバンドの写真をご覧になってとのことだけど、アルバム『Mercy Beyond』にそのまま参加しているのだろうか?
曲によっては、いわゆるドラム・セットが使われている時間もあるみたいだけど、それは一部で、あくまでフェミの『Mercy Beyond』も大編成トーキング・ドラム・アンサンブルだけ(?)が、リズム&サウンドの中核を形成し、まるでめまいがしそうなほどクラクラして気持ちいい。1トラック目「Mercy Beyond」ではバンバン決まるブレイクも最高だ。
エレキ・ギター(スティール・ギター含む)もあり、またホーン・アンサンブルもリフを決めているがシンセサイザーらしい。しかしソプラノ・サックスのサウンドなんかは生演奏じゃないだろうか。打ち込みのドラムス・サウンドも混じっている。あとは主役フェミのヴォーカルと、バック・コーラスかな。バック・コーラスは混声。3トラック目ではゴスペルのマス・クワイアのよう。フェミの歌い口はソフトで洗練されている。声そのものがやわらかい。このへんもちょっとサニー・アデっぽいなあ。薄くてなめらかな布地をまとっているかのような気分で、上々。
このアルバムを2016年の新作ベスト10第六位に選出した際、そのコメントで「激しくダンサブルで豪快なように聴こえて、その実かなり繊細なパーカッション・アンサンブルに乗り、フェミの軽快なヴォーカルが舞う」とぼくは書いている。今日こうやって文章にしていて、それにつけくわえることがないんだなあ〜と思うと、我ながら進歩がないのか、買ったときにちゃんと聴けていたのか、どっちなのかわからないが、後者なんだと勝手に思い込んでおこう。
とにかく、パーカッション群を中心とするフェミのこのリズム!これがいいんだ。カラフルで分厚くて、しかし軽快で、しなやかに跳ねていて、襲いかかるかのようでいてフワリと舞い降りそっと触れ、自在に動いて折り重なっているよね。
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