『ザ・テディ・ウィルソン』拡大版
1930年代後半、テディ・ウィルスン名義でブランズウィック・レーベル(当時コロンビア傘下)がレコード発売したスウィング・コンボ・セッションのこと。それをぼくがどれほど好きか、いまさら繰り返す必要などないはず。
しかしそれにしても『ザ・テディ・ウィルソン』というかつての二枚組レコード(CBSソニー)の選曲と並び順は実によく考え抜かれていた。昨日ディスコグラフィを書いたテディ・ウィルスンのブランズウィック・セッション全曲集から、自分でもセレクションをつくってみようとしたら、すぐれた曲はことごとく『ザ・テディ・ウィルソン』が選んでいる。録音順から変更して並べた曲順の流れも美しく楽しく、気持ちいい。外れた曲に秀逸なものはほぼなし。
その編纂者は油井正一さん、粟村政昭さん、大和明さんの三名。おこがましいけれど、やはり慧眼だったと言うしかない。ただし、意図的に外すしかなかったビリー・ホリデイもののなかにはやはりすごくいい歌がある。一連のテディ・ウィルスン on ブランズウィックのセッションでビリー・ホリデイが歌ったものをぜんぶオミットしてあるわけじゃないけれど、たぶんこれは当時の日本盤レコードでビリー・ホリデイ名義のアルバムに入っていないものから選んだということだったんだろう。でも「ウェン・ユア・スマイリング」とかは、両方にあったけどなあ。
CBSソニー盤の二枚組レコード『ザ・テディ・ウィルソン』の収録全33トラック32曲は、登場順に以下のとおり。
Blues in C Sharp Minor
Mary Had a Little Lamb
Too Good to Be True
Warmin' Up
Sweet Lorraine
Sugar Plum
Christopher Columbus
All My Life
Rhythm in My Nursery Rhymes
Why Do I Lie to Myself about You
Guess Who
Here's Love in Your Eyes
Sailin'
Right or Wrong
Tea for Two
I'll See You in My Dream
He Ain't Got Rhythm
Fine and Dandy
I'm Coming Virginia
Yours and Mine
I'll Get By
Mean to Me
I've Found a New Baby
Coquette
Ain't Misbehavin'
Honeysuckle Rose
Just a Mood (Blue Mood) Part I
Just a Mood (Blue Mood) Part II
You Can't Stop Me from Dreaming
When You're Smiling
Don't Be That Way
If I Were You
Jungle Love
このとおりにつくったプレイリストがこれ↓
あっ、いまではやっぱりちょっと説明しておかないといけないのかな、1930年代後半のテディ・ウィルスンのブランズウィック・セッションとはなんだったのかを。
テディ・ウィルスン名義でブランズウィック・レーベルが発売した1935〜1939年の一連の録音は、「ジューク・ボックスのために流行歌曲をパンチを効かせてジャズ化する、編成は七、八人、アレンジ料はなし」といった方針のもとにはじめられたもの。プロデューサーというかお目付け役がジョン・ハモンド(ここはジャズのファンや専門家が言わないところ)。
だから、1939年1月30日にビリー・ホリデイのヴォーカルで四曲を録音したセッションを最後にジョン・ハモンドが手を引くと、テディ・ウィルスンのこのブランズウィック・セッションもしりすぼみとなり、昨日のディスコグラフィをご覧になっておわかりのように、編成も大規模になってアレンジャーが参加。かなり雰囲気が違ってしまい、シリーズそのものが終了してしまった。
テディ・ウィルスン名義のこのスウィング・コンボ・セッション・シリーズが、いつごろどうしてはじまったのか?いつごろどうして消滅したのか?については、ぼくの知る限りいままで世界でだれひとりとして明言した記載をしていない。だから、今日ここに書いておく。すべては(コロンビア系レーベルと関係が深かった)ジョン・ハモンドの指揮下にあったということ。
ってことはつまり、あのビリー・ホリデイの録音集についてぼくも書いた際の記事で触れた内容と、かなり重なっている、というか同じものなのだ。まず最初2001年に、その後そのまま同じ内容で2009年に、コロンビア/レガシーがリリースしたビリー・ホリデイ CD10枚組ボックスの中身は、むろんテディ・ウィルスンがいないビリー・ホリデイのレコードもあるけれど、大半がテディ名義のブランズウィック録音。歌がビリーというだけ。
テディ・ウィルスンのこのブランズウィック・セッションでいちばん数多く歌ったのがビリー・ホリデイだけど、もちろんほかの歌手が参加したセッションもあり、なかには男性だっている。歌手のいないインストルメンタル・チューンも多いが、それらだって素材は当時のポップ・ソングがほとんど。結果、最高のスウィング・ジャズ・コンボ演奏が仕上がっているわけだから、「ジャズとはなんぞや?」「ジャズとポップスとの関係/境界線は?」という問いに、おのずと答えが出ているように思う。むかしも21世紀のいまも同じだ。
今日の記事のいちばん上でリンクをご紹介したプレイリストは、基本『ザ・テディ・ウィルソン』を尊重しそのまま活かして使い、そこにすこしだけぼくが追加すべきと判断したものを差し込んだだけのもの。追加品はすべてビリー・ホリデイの名唱でバンド演奏も極上品というもの。そうであるがゆえ、むかしもビリー名義のレコードに必ず収録されていた名演名唱だから、『ザ・テディ・ウィルソン』には選べなかった以下の五曲。
What A Little Moonlight Can Do
Miss Brown To You
It's Like Reaching For The Moon
Foolin' Myself
I Can't Believe That You're In Love With Me
この五曲は録音順に登場するように扱って、しかし録音順の曲収録じゃない『ザ・テディ・ウィルソン』プレイリストのどこに差し込むかは、やはり聴いて楽しい審美要素をぼくなりに最大限に考慮したつもり。その結果、いちばん上のリンクである自作プレイリスト "The Teddy Wilson expanded" ができあがったってわけ。
こういった傾向のジャズがお好きなみなさんの日常の楽しみのささやかな一助にでもなれば、これ以上の幸せはありません。
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