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2018/08/24

マイルズ『ライヴ・イーヴル』の盆踊りはいつどこでやった?

 

 

『ザ・セラー・ドア・セッションズ 1970』(2005年発売):1970.12.16〜19録音

 

『ライヴ・イーヴル』1971.11.17 発売

 

 

CD かネット配信で聴くメリットのひとつは、スキップしやすいというところだ。アナログ・レコード(やそれをダビングしたカセットテープ)でもできるけれど、ややメンドくさい。だから、ふつうはいいことなんだけどアルバムぜんぶを通して(最低、片面)じっくり聴くことになるが、ものによってはこれでおもしろみや評価が落ちるばあいもある。

 

 

ぼくにとってのマイルズ・デイヴィス『ライヴ・イーヴル』もこのパターンで、長年イマイチだった。スタジオ音源のせいだ。あれら小品をどうこう言うのはよしておく。お好きなかたもたくさんいらっしゃるみたい。とにかく飛ばし聴きはふつうはよくないことかもしれないが、イージーでカジュアルにスキップできたほうが、かえって音楽作品のおもしろさに気付きやすいこともある。アルバムのトータリティを考えすぎて嫌いなものまでぜんぶひっくるめて我慢して聴くことはない。

 

 

だからはっきり言っちゃいますが、マイルズの『ライヴ・イーヴル』とは、<ライヴ>部分がぼくにとってのすべて。すなわち1970年12月19日、ワシントン D.C. にあるセラー・ドアで収録した当時のマイルズ・バンドのライヴ演奏記録だ。『ライヴ・イーヴル』にはライヴ音源が全4トラックあるが、すべてこの1970.12.19 セラー・ドア 2nd、3rd セットがソース。作品化にあたり、やっぱり細かく編集されている。いちばん上で書いたように、このときのセラー・ドアでのマイルズ・バンドは12月16日分から録音され、19日で出演が終了した。

 

 

『ライヴ・イーヴル』の<ライヴ>はどれもおもしろいが(唯一の例外が、1トラックめ「シヴァッド」3:17 以後の「ホンキー・トンク」部、でもそこまでの「ディレクションズ」部はかなりカッチョイイ)、特にすごいなと思うのがディスク2 最後の二曲(は3rd セット音源)。それで、今日の問題を先に書いておくが、それら二つは、1970.12.19 の現場ではひとつながりの演奏なんだけど、二つめ「イナモラータ・アンド・ナレイション」のおしり約3分21秒間は、セラー・ドア音源じゃないぞ。23:09 からのこと。

 

 

『ライヴ・イーヴル』に収録するにあたり、1970.12.19 の音源はもちろんかなり編集されて、どのトラックもできあがっている。「ワット・アイ・セイ」だけがほぼそのままかなと思う程度で、ほかのトラックは細かく切ったり貼ったりしていると、2005年に『ザ・セラー・ドア・セッションズ 1970』が公式発売され聴き比べ、世界のマイルズ・ファンは理解した。

 

 

がしかし、どれもソースはセラー・ドア 1970.12.19 なのであって、ほかのなにかから持ってきているなんてことはない。ところが『ライヴ・イーヴル』ラスト「イナモラータ・アンド・ナレイション」の最後の約三分間は、セラー・ドア音源には存在しないのだ。Spotify でプレイリストを作成しておいたので、みなさんも検証してみてほしい。ありえる可能性は、テオ・マセロが別の日のなにかのマイルズ・バンドのライヴ・テープをくっつけたということだ。

 

 

『ライヴ・イーヴル』の「イナモラータ・アンド・ナレイション」(その前のトラック「ファンキー・トンク」部から「イナモラータ」の演奏がはじまっているが、ソース音源でも「ディレクションズ」最終盤で、そのモチーフが出てきていて、そのままキース・ジャレットのフェンダー・ローズ・ソロになる)では、マイルズ、ゲイリー・バーツとソロをとり、バーツはその終盤で「イナモラータ」のモチーフを吹く。

 

 

続いて、バンド・メンバーではなかったがこの日の飛び入りゲスト、ジョン・マクラフリンのソロ。その途中でジャック・ディジョネットの叩き出すリズムの感じがやや変化して、日本の盆踊りグルーヴみたいなかたちになっているよね。ベースのマイクル・ヘンダスンもそれに合わせている。ちょっぴりだけエレベ・ソロっぽいものがあるが、すぐにキース・ジャレットのエレピ・ソロになる。そこは定常的ではないフリー・リズムだ。14:21 まで。

 

 

14:22 でふたたびマイルズが登場し「イナモラータ」のモチーフを吹き、トランペット・ソロになる。15:13 から約30秒間同じショート・パッセージを反復しバンドもそれに合わせてグイグイ高揚し、15:37 でバ〜ン!と来るエクスタシー。「ファンキー・トンク」部でのキースの無伴奏ソロが終わって、リズム・セクションの合奏でドッカ〜ン!と爆発する 22:07 〜 22:32 の絶頂的快感に続く二回目だ。その直後にマイルズが「イナモラータ」のモチーフを吹いているんだよね。

 

 

話を戻して「イナモラータ・アンド・ナレイション」部。15:37 でピークに達した直後の16:35 で、「イッツ・アバウト・ザット・タイム」にパッと(テープ編集で)つないである。この曲の例のベース・ヴァンプをマイルズが吹いているよね。『ザ・セラー・ドア・セッションズ 1970』では、そこは「サンクチュアリ」部のなかにある。

 

 

そこからはノリが大きく変化し、かなり重たくズッシリ来るものになっているよね。テンポも違う。ソース音源における「イッツ・アバウト・ザット・タイム」部から細かくテープの切り貼りをして編集し、つないであるが、詳しいことは煩雑なだけなので省略。気になるかたは、上のプレイリストでじっくり聴いていただきたい。

 

 

しかし、ここまでぜんぶ、間違いなくセラー・ドア 1970.12.19 サード・セット音源だ。マイルズのソロ、ゲイリー・バーツのソロと続き、アルト・サックスのそれが 23:08 で終わった瞬間に、コンラッド・ロバーツのナレイションが入ってくるのだが、そこからが問題だ。

 

 

ナレイションは、アルト・サックス・ソロ(は最後までセラー・ドア音源にある)が終わった直後に入ってくる。語りの背後でキース・ジャレットのエレピ・ソロが聴こえるよね。コンラッド・ロバーツが最後に "I love tomorrow" と言ってしばらくすると、マイルズのソロになっている。そのままアルバム『ライヴ・イーヴル』が終了。

 

 

そのナレイションからはじまる 23:09 からエンディング(でマイルズが「サンクチュアリ」を吹くが、このころはこの曲のメロディの断片をライヴ・セットのクロージング・テーマ代わりに使っていた)までのマイルズ・バンドの音楽は、『ザ・セラー・ドア・セッションズ 1970』全六枚のどこにもないんだよね。どうでしょうか、この事実。

 

 

上でも触れたが、可能性としては、セラー・ドア・ライヴ収録の約一年後の『ライヴ・イーヴル』発売に際し、テオ・マセロが、いつかのどこかのマイルズ・バンドのライヴ・テープの、「イッツ・アバウト・ザット・タイム」〜「サンクチュアリ」部を、キース・ジャレットのソロ部から切り取ってくっつけた 〜〜 これしかありえないと思う。そこが、1970年暮れ前後の「イッツ・アバウト・ザット・タイム」〜「サンクチュアリ」であるのは間違いない。が、それ以上のことは、まったくわからない。

 

 

その約三分間のライヴ・テープが、何年何月何日どこで収録されたものなのか、2018年現在でも特定されていないんだよね。専門的研究家のかたがたでも "has not been identified" とおっしゃるので、ぼくなんかにわかるわけがない。ただ、セラー・ドア音源じゃないっていうことと、音質的にかなり劣るものが貼り付いているなということしか言えない。

 

 

しかしその、セラー・ドアのものではない、『ライヴ・イーヴル』の最後約三分間のバンドのノリ、リズムの感じが、ぼくはかなり好き。音質がモコモコしていて悪いせいなのかもしれないが、ちょっとこう、上でもチラッと書いた盆踊りグルーヴにいっそう近づいている。河内音頭的と言ってもいい。ジャック・ディジョネットの叩きかたも(シンバルを除けば)お囃子太鼓みたい。は、言いすぎか、でもおもしろいよね。

 

 

本当に、このマイルズ・バンドの盆踊り、どこでやったものだったんだろうなあ?

 

 

もう一つ、今日言えることは、音質の良し悪しはともかく、コロンビアが権利を持っていていまだ発表されていないマイルズ・バンドのライヴ・マテリアルがわりとあるんだなということ。1967年の欧州ツアーのころから録りだめてあるとは噂に聞いているのだが、たぶんそれは1991年にマイルズが亡くなるまで、ワーナー所有のものも含め、続いたはずだ。

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