楽しいルイ・プリマのエンターテイメント
ベニー・グッドマン楽団がヒットさせた「シング、シング、シング」を、その一年前の1936年に書いて初演したのがルイ・プリマ。だけどルイ・プリマ自身の音楽キャリアでは、キーリー・スミスと結婚していて音楽的にもパートナーで、すなわちラス・ヴェガスでのショーが成功しキャピトルに録音するようになっていた時期が最も充実していたよね。そんな1956〜62年の同レーベルのレコードからのセレクション CD が、1991年の『キャピトル・コレクターズ・シリーズ』。
この CD (と Spotify)アルバムに収録されている26曲(アルバム曲もシングル・ナンバーもある)は、すべてがヴォイル・ギルモアのプロデュース。たとえば3曲目「ボナ・セーラ」のようにイタリア系の出自を活かしての曲もあるけれど、ルイ・プリマの本領はブギ・ウギ・ベースのポップで楽しいジャンプ・ジャズ・エンターテイメントにある。1956年以後という時期を考えたらアレッと思っちゃうけれど、ラス・ヴェガスのショーにはちょうどよかったんだろう。ルイ・ジョーダンを手本にしているが、10年くらい遅れていたものでも、いま聴いて楽しいよ。
『キャピトル・コレクターズ・シリーズ』にあるルイ・プリマ最大の代表曲は、間違いなく4曲目の「ジャンプ、ジャイヴ、アン’・ウェイル」だ。ブライアン・セッツァーらもとりあげた。多言無用。ルイ自身は、たとえば11曲目「ウェン・ユア・スマイリング〜ザ・シーク・オヴ・アラビイ」や、14曲目「ペニーズ・フロム・ヘヴン」みたいなスタンダード・ソングでもピアニストにブギ・ウギのパターンを弾かせ、ジャンプ・ナンバー化している。
アルバム18曲目には「シング、シング、シング」もある。イントロでドラマーがタムを叩くやりかたが、かのベニー・グッドマン楽団も踏襲したルイ・プリマ初演のあの感じではじまって、このハリー・ジェイムズみたいなトランペットがルイ・プリマかな。しかし本編の歌に入ってからは BG 楽団ヴァージョンのよりもずっと軽い。キャブ・キャロウェイみたいなお笑いジャイヴ・スキャットも混じっている。というか、そっちのほうが聴きもので、ルイのヴォーカル本来の持ち味なんだよね、軽妙洒脱滑稽なのがね。その後のトランペット・ソロは真面目に良質だ。
19曲目「ザット・オールド・ブラック・マジック」と23曲目「アイヴ・ガット・ユー・アンダー・マイ・スキン」は、同様にラテン系アレンジ。といってもイタリアンでなくアフロ・キューバンなリズムになっている。同時期のモダン・ジャズ・メンが「チュニジアの夜」をやっているのを聴いているような気分に、ちょっとだけなる。こういうのもいい。いかにもなふつうのジャズだけど。
興味深いのはアルバムのラスト二曲「トウィスト・オール・ナイト」「セント・ルイス・ブルーズ」が、ロックンロール調に近づいていることだ。どっちも1962年録音。ニュー・オーリンズ出身のイタリア系アメリカ人でジャズ界の音楽家でも、この時期になればロックっぽいポップさを出すのがあたりまえになっていたんだろうね。
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