オーガニック・アフロ・ポップの走り?(1)〜 サリフ篇
どっちも2002年に発表されたサリフの『Moffou』とユッスーの『ナッシングズ・イン・ヴェイン』が、はたして21世紀型オーガニック・アフロ・ポップ路線を切り拓いたさきがけだったのかどうかは、ぼくにはわからない。とにかく聴いていて疲れない、緊張感を強いられない、リラックスできて、じっくりゆっくりとその音の世界にひたって快適にときを過ごすことができるということだけは、間違いない実感だ。
サリフの『Moffou』の前作が『Folon: The Past』。ソロ・デビューの『Soro』以来そこまで、ドラム・セットや電気・電子楽器も派手に使ったにぎやかなサウンドで、サリフのヴォーカルの突き刺すような鋭さ・強靭さを際立たせるいうようなプロデュースになっていたよね。そういうのが2002年の『Moffou』できれいに消えた。
一番耳をひくのが、サリフたったひとりでのアクースティック・ギター弾き語りトラックが三つ(2「Iniagige」、5「Souvent」。8「Ana Na Ming」) もあるということだ。このアルバムを手にする二年前にブルーノート東京でサリフのライヴに接していたが、一夜の2セットとも一曲だけサリフひとりでの弾き語りがあって、あのときすこし驚いて、あぁでもこういうのもそりゃあやれるひとだよな、当然か、でもバンドのハード・グルーヴに乗った歌のほうがもっと好きだなと、その日の青山ではそう感じていた。
『Moffou』が出てみると、同様のものが三曲もあるわけで、2000年ブルーノート東京公演のときに新作準備が…云々とかいうことではなくて、サリフも若い時分からアクスースティック・ギター一本抱えてさまよっていたひとなんだそうだし、アンバサデュール時代にバンドのヴォーカリストとして名を成したものの、ふだんからギターを弾いて歌うなんてのはあたりまえの日常なんだろうと、いまでは思う。
素顔とほんのすこしのナチュラル・メイクで、天然コットン100%の薄衣をまとって、ふわりとそこに自然体で座っている 〜 こういった飾りすぎない普段着姿ってことがサリフの『Moffou』の音楽ってことかなあ。それでもやはりハードなグルーヴ・ナンバーで、女声バック・コーラスがにぎやかで、サリフがかつてのようなメタリックな声で咆哮する曲もある。3曲目「Madan」、4「Katolon」がそうだね。
落ち着いているからハードとはいえなくとも、やや派手めのビートが効いたバンド合奏による、6曲目「Moussolou」、7「Baba」、9「Koukou」だって、似たような傾向のグルーヴ・ナンバーと言えるかも。しかしそれら、3、4、6、7、9、そして10曲目でも、さらに1曲目の「Yamore」でも、有機的でアクースティックなサウンド・テクスチャーをこそ聴いてほしい。
響きの中心に複数台のンゴニとアクースティック・ギターがあるんだけど、そういった、良くも悪しくも「人工的」でないサウンド創りが、20世紀と21世紀の変わり目あたりにサリフが強く意識したことだったのかも。そういうのがアフリカ音楽の<本来の>ありようだと言えるのかどうかはぼくにはわからない。というか、たぶん違うんだよね。エレキ・ギターや電気・電子鍵盤楽器やコンピューターの使用は全世界でごく自然なことだ。オーガニック・サウンドがアフリカ的だと言うのは、ヨーロッパ人がアフリカに対し身勝手に抱くイメージにもとづくものかもしれない。
さらに、サリフ(やユッスーや、その後に続いている音楽家たち)のやるオーガニック・サウンドは、単純なルーツ回帰ということでもないような気がする。前からぼくも繰り返しているが、ある時期にエレクトロニクスで表現するしかなかったスタイルの音楽を、21世紀に入ってからは生楽器演奏でやるひとたちが増えてきているじゃないか。新時代の音楽表現だ。
彼らのやるオーガニック・ミュージックは、だからいったん最先端のサウンド・メイク手法を吸収しているからこそ可能となっているものなのだ。サリフやユッスーは1980年代後半から90年代にかけて世界で活躍した時期がピークだったから事情がすこし違うのかもしれないが、『Moffou』なんかを聴いていると、一種の<予見>めいた音楽ではあったのかなあ?とも思う。セザリア・エヴォーラ(カーボ・ヴェルデ)のゲスト参加(1曲目)は、なんでもないことかも。
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