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2018/09/18

原田知世、2007年の音楽と私

2004年の伊藤ゴローとの出会いによってシンガーとして蘇った原田知世。二名のタッグによるフル・アルバム第一作『music & me』(2007)は、しかしまだそれまでの知世ミュージックからいくつかを引き継いでいるし、曲によってゴローは参加していない。鈴木慶一が手がけているものだって一つある。

しかし全体的にはやはり伊藤ゴローのカラーというか、それまでテクノ・ポップみたいだったりエスノ・ロックみたいだったりした知世の音楽が、どっちかというとアクースティックな響きが中心のオーガニック・テクスチャーなものへと変貌しているよね。まだ過渡期の印象もあるけれど、間違いない変化を感じとれる。

たとえば高橋幸宏が手がけている4曲目「Are You There?」。これはバート・バカラック・ナンバー(歌ったのはディオンヌ・ワーウィック)だけど、この知世のヴァージョンではやはりほぼ全面的にコンピューターを使ったデジタル・サウンドが使われていて、アレンジもプログラミングも幸宏がやっている。

しかしかつてのようなテクノ・ポップ路線から離れつつあるように聴こえるんだよね。もちろん幸宏の手腕がそれだけすぐれているから、デジタル・サウンドに有機的な肉体性を宿らせることに成功しているから、なんだけど、もともとのバカラックのペンの抜きん出た資質とあわせ、知世の成熟したやわらかい声が、それこそが、この「(私じゃない)ほかの女の子といたの?」っていう曲にナマの息吹を吹き込んでいる。フリューゲル・ホーンも効果的だ。

それなもんだから、「Are You There?」に続けて5曲目にビートルズの「I Will」が来ても、なんらの違和感もないんだ。ポールのこじんまりしたアクースティック・ギター弾き語りだったビートルズのオリジナル(『ザ・ワイト・アルバム』)をなぞるかのように、知世の「I Will」も、伊藤ゴローの弾くギターとパーカッショニストだけという地味で落ち着いた演唱。これはしかしかなりビートルズ・ヴァージョンに近く、ゴロー&知世のタッグならでは、という独創性は薄いかも。

でも言いたいのはこういうことだ。知世の「I Wil」はまさしくオーガニック・ポップなんだけど(あっ、そういえばビートルズの『ザ・ワイト・アルバム』も1968年のオーガニック・サウンド・アルバムだねえ、いま気がついた)、表面的にはテクノ的なサウンド・メイクをしてある4曲目「Are You There?」と連続して流れがいいってこと。有機質感のサウンドが芯を貫いているなと感じるっていうことだ。

この視点でいけば、アルバム中唯一鈴木慶一が参加している7曲目「菩提樹の家」は、メロディ・ラインの特色なんかはいかにも慶一節だなと感じるんだけど、音創りは変化してきている。かつて『GARDEN』『Egg Shell』をやったときのような勢いのいいロック・テイストは消え、しっとり落ち着いたやわらかいポップス路線に転向したような雰囲気に仕立ててあるよね。アクースティック・ピアノやフルートも効果的。

そんな21世紀的なオーガニック・ポップス路線を、知世の『music & me』でいちばん象徴しているなと感じるのが、続く8曲目「シンシア」と、アルバム・ラストの必殺「時をかける少女」新ヴァージョンだ。このふたつは本当にすばらしい。伊藤ゴローの力を借りて、あ、いや、逆か、伊藤ゴローが自らの音世界を具現化するための最好適なベスト・シンガーとして原田知世を選び、二名コンビで新しい高みにあるような音楽を表現できているじゃないか。

「シンシア」も「時をかける少女」もボサ・ノーヴァにアレンジしてあって、伊藤ゴローの弾くナイロン弦ギターを中心に少人数のアクースティック楽器しか用いられておらず(ベースもコントラバス)、ふわりと暖かい空気のように漂うアンビエントふうな音像に乗って、知世のややハスキーになりつつある、声量の小さい、決して張らないヴォーカルが、やさしみを増している。

だいたいにおいてブラック・ミュージック(的なもの含む)の愛好家であるぼくで、ファンキーで強靭なガツンと来るリズムとサウンドが好きで、ヴォーカルなんかも、たとえばジェイムズ・ブラウン(アメリカ)や サリフ・ケイタ(マリ)やヌスラット・ファテ・アリ・ハーン(パキスタン)みたいな、あんな声の出しかたが好きなんだけど、いつもいつもそういうものばかりじゃない。

端的に言えば "TPO” ということだけど、あ、いや、ぼくも歳とったということか、気分や時間帯や季節や年齢などの変化によって聴きたいものの傾向と種類が大きく変貌することもある。最近の個人的メンタルに、こんな<伊藤ゴロー&原田知世>コンビの音楽が真に沁みるなぁ〜って、本心からそう思う。

どんな音楽を聴きたいか、実際どんなのを聴いているかは、やっぱりそのときさまざまなんだけど、 ま、いま当面は知世ちゃんで。

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