チック・コリアのスパニッシュ 〜 個人的履歴書
どうして好きなのか自分でもわからないジャズ・メンのやるスパニッシュ・スケール・ナンバー。イタリア系とスペイン系のあいだに生まれたチック・コリアのばあい、デビュー期にウィリー・ボボやモンゴ・サンタマリアと仕事をしていたのでスパニッシュ・ナンバーがあるのかも。ぼくがはじめて聴いたのは「ラ・フィエスタ」でも「スペイン」でもなく、「セニョール・マウス」だ。それもスタジオ録音オリジナル(『クリスタル・サイレンス』)じゃなくて、1979年のチューリッヒ・ライヴのもの。
その「セニョール・マウス」は本当にすばらしい。こっちを先に聴いたのは、間違いなくこれがリアルタイムでの最新盤として大評判だったからで、『スイングジャーナル』誌の、え〜っとなんだっけ、金賞?だったか年間大賞?だっけか、そんな名前のトップの名誉を、たしかギル・エヴァンズの『ライヴ・アット・ザ・パブリック・シアター』と分けあった。だから、それら二枚組と一枚は発売年(1980年だったかな)に買って聴いた。
そのチック・コリア&ゲイリー・バートン『イン・コンサート、チューリッヒ、オクトーバー、28、1979』がすごくよかったんだ(ギルのも最高)。アルバム全体もいいが、ぼくのばあい、オープニングの「セニョール・マウス」でぶっ飛んでしまって、なにこれ!?!こんなすごいピアノとヴァイブラフォンのデュオ演奏があるの!?と、ブッタマゲちゃった。ゲイリー・バートンのことは、たぶんこのときはじめて知った。
あまりの感動の大きさにひたりきるあまり、このデュオには ECM レーベルに過去作があるのだと知りもせず、そんなことを調べるなどもまったく頭に浮かばず、ただただチューリッヒ・ライヴの「セニョール・マウス」を聴き狂うばかりだった大学生のころ。チックのマイルズ・デイヴィス・バンドでの活躍は聴いていたが、リターン・トゥ・フォーエヴァーとかのことは、意外かもしれないが CD リイシューがあるまで耳にしていない。ジャズ喫茶でもぼくは出会わなかった。
ってなわけで、マイルズ・バンドじゃない、チックのリーダー(シップ)作品は、わりと長いあいだ、ゲイリー・バートンとのチューリッヒ・ライヴしか知らなかったんだよなあ。あぁ、恥ずかしい。でも正直に告白することにしたのだ。ぼくはこんなもんです。いやあ、でもねえ、あのチューリッヒ・ライヴ冒頭の「セニョール・マウス」は、マジでそれくらいの、もうこのピアニストの音楽なら人生でこれだけでいい!って思えるほどの最高度の充実演奏だよ。ぼくだけ?
しかしながら「スペイン」という曲の知名度がかなり高かったがゆえ、そんな曲があるらしいぞという、目で見る知識だけ持っていた。そんなチックの「スペイン」をぼくがはじめて耳にしたのが1991年のマウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァルでのゴンサロ・ルバルカバとのピアノ・デュオ演奏↓
これもすごいねえ。冒頭のチックとゴンサロの会話でおわかりのように、これは当夜のこのデュオの余興というかアンコール的なものだった。「"スペイン"?」と言い出したのはゴンサロのほうだよね。自身、キューバのピアニストだからちょっとこれを、というのとチックの超有名代表曲だから、というこのふたつが理由だったのかな?事前に予定していなかったものみたいだよね。
これの前を含むこのデュオのフル・コンサートも YouTube に上がっているので、もし気が向いたらご覧ください。ゴンサロは最初からドラム・スティックを持ち出してピアノのところまで来て脇に置いている。「スペイン」最終盤でこんなふうにスティックを使うだなんて、あるいは想定していたのかなあ?ともかく、これですばらしい曲だと知ったものの、リターン・トゥ・フォーエヴァーの第二作『ライト・アズ・ア・フェザー』CD を買ってオリジナル・ヴァージョンを聴いたらツマンナイの!ってガッカリしちゃった。
「セニョール・マウス」にしろ「スペイン」にしろ、ぼくにとっては最初の出会いの感動が大きすぎた。あまりにもすばらしかった。だからふりかえってスタジオ録音のオリジナルも聴こうと、年月が経過することがあってもそうなるのは自然なことだ思うけれど、結果、残念に思えてしまうのもやむをえないことだったのか?
そんなわけでチックのスパニッシュ・ナンバーのうち「セニョール・マウス」「スペイン」は、(ぼくにとっては)決定的ライヴ・ヴァージョンが最初にできちゃって、その後2018年現在でもこれがまったく変わっていないんだよね。ゲイリー・バートンとのチューリッヒ・ライヴを聴き、ゴンサロ・ルバルカバとやったマウント・フジ・ライヴの、当時(たしか日テレで)テレビ地上波放送されたのを VHS に録画したのを観聴きし、近年は YouTube にあるから音源だけダウンロードして iTunes に取り込んでいる。
そんなぼくにとって、スタジオ録音(オリジナル)で聴くチックのスパニッシュ・ナンバーは「ラ・フィエスタ」しかないということになってしまうが、それで充分だ。その前に、今日のプレイリスト冒頭にも入れた『ナウ・ヒー・シングズ、ナウ・ヒー・ソブズ』一曲目「ステップスーワット・ワズ」後半部分もあるけれど(これがチック初のスパニッシュ?)、まぁ半分だしね。
半分といえば、その後のチックが一曲フルのスパニッシュ・ナンバーを書いて演奏するようになってからでも、「ラ・フィエスタ」とか「スペイン」とかは、サビなどでストレート・ジャズ・パートも持っているのだった。そこでは4/4拍子になって、キーもスパニッシュじゃなくなるねえ。「セニョール・マウス」もそうだなあ。う〜ん…。これはチックのスパニッシュ楽曲の特色なの?
まあいい。「ラ・フィエスタ」のことは、以前、スタン・ゲッツの話をしたときに書いたつもり。録音はリターン・トゥ・フォーエヴァーでやったものがほんの一ヶ月だけ先(ってことはほぼ同時)で、レコード発売も数ヶ月先だけど、どう聴いてもゲッツの『キャプテン・マーヴェル』ヴァージョンのほうがいいよなあ。ぼくにはそう聴こえる。
ただし、アルバム『リターン・トゥ・フォーエヴァー』で聴く「ラ・フィエスタ」は、フローラ・プリムの歌う「サムタイム・アゴー」とメドレー状態になっているのはポイント高し。レコードでは B 面がこのメドレーのワン・トラックだけだったらしいが、CD(かネット配信)でしか聴いていないので。
で、CD(かネット配信)なら、「サムタイム・アゴー〜ラ・フィエスタ」は、やはりフローラ・プリムの歌う「ワット・ゲーム・シャル・ウィー・プレイ」と連続して流れてくる。ほら〜、レコードもいいけれど、CD やネット配信で聴くメリットだってあるじゃないか。この2トラックでひとつの流れになるもんね。いい感じだ。
三作目以後のリターン・トゥ・フォーエヴァーはちゃんと聴いているわけじゃないので、なにも言えません。
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