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2018/09/27

チック&ゲイリーのデュオ、チューリッヒ・ライヴ完全版

チック・コリアとゲイリー・バートンの『イン・コンサート、チューリッヒ、オクトーバー 28、1979』(ECM、1980)。二枚組 LP で全10曲なのに、1984年に初 CD リイシューされて以後、どんな単独リイシュー CD も、一枚におさめるため8曲にしてある。配信もそう。カットされたのは LP 二枚目 A 面だった「アイム・ユア・パル - ハロー・ボリナス」と「ラヴ・キャスル」。

この二曲はデュオ演奏ではなく、それぞれゲイリーとチックのソロ・パフォーマンスだからオミット理由になったのだろう。それらも含めこのチューリッヒ・ライヴのフル・コンサートが CD 復刻されたのは、2009年の四枚組『クリスタル・サイレンス:ジ ECM レコーディングズ 1972-79』でのこと。いまでもこれしかない。残念。ECM はどうしてオリジナルの LP 二枚組をそのままちゃんと再発しないのか?納得できない。以前も書いた。

『クリスタル・サイレンス:ジ ECM レコーディングズ 1972-79』でのチューリッヒ・ライヴ分は、だから当然二枚に分かれているが、それは二枚組だったレコードをそのまま再現したもの。フィジカルにこだわりを持つかたでコンプリート集四枚組はいらないというならばレコードを探していただくしかないが、ネット配信で OK というみなさん向けにぼくがちょちょっとやっておいたのがいちばん上でリンクを貼ったプレイリスト。お時間のあるときによろしかったら、どうぞ。

このチューリッヒ・ライヴ、オープニングの「セニョール・マウス」があまりにもすばらしすぎる、壮絶美だというのは以前から繰り返しているし、ついこないだも書いたばかり。この一曲はどっちかというと<動>のチック&ゲイリーだけど、アルバム全体ではどっちかというと<静>の音楽だよね。これ以前に二枚あるこのデュオの作品と同傾向。

正確に言えば、一聴<静>に思える音楽のなかにもダイナミズムがあって、劇的かつ緊密に動くふたりのやりとりがある。さらに、特別スパニッシュ・スケールを使っているわけではない曲の演奏のなかにでも、ことにチックのピアノ・フレーズのなかにスパニッシュ・タッチが散見される。このピアニストのばあいは珍しいことじゃない。

そんなところ、単独盤 CD や配信にはいまだ収録されないゲイリーの「アイム・ユア・パル - ハロー・ボリナス」とチックの「ラヴ・キャスル」のそれぞれのソロ・パフォーマンスにだって聴きとることができるはず。ソロなのに、まるでだれかと対話しているかのよう。自己との対話ということでもなく、自のなかにある他、異と向き合って音を交わしているかのようじゃないだろうか。特にチックの「ラヴ・キャスル」がさ。

「ラヴ・キャスル」では、ピアノの発音でもチックは遊んでいる。部分的に、これは弦を直接指ではじいているのか?あるいは打鍵を工夫しているのか?ピアノのことをなにも知らないぼくにはわからないが、ちょっとギターみたいなおもしろい音色を出しているよね。その部分ではフレイジングも楽しい。

リターン・トゥ・フォーエヴァーでもやった超有名曲「クリスタル・サイレンス」は、このデュオでの初演スタジオ録音ヴァージョンに比べグッと長尺になりカラフルな展開を見せるのが聴きどころ。タイトルどおり、静寂の氷結みたいなのが持ち味の曲想だけど、このチューリッヒ・ライヴでは途中ドラマティックに開いたりするのがいいね。

ところでところで、チックが「クリスタル・サイレンス」みたいな曲を書き、その曲題に「サイレンス」という言葉を使ったりしたのは、やはりマイルズ・デイヴィス・バンド時代の1969年2月のジョー・ザヴィヌル・ナンバー録音がきっかけだったりしたんだよねえ。うん、初期リターン・トゥ・フォーエヴァーへの強い影響は、むかしから知られている。

ゲイリー・バートンが参加していることで、そんなお馴染みの常識にも違った表情がにじんで、また一層美しくなっているんじゃないか、しかもそれが一回性のライヴ演奏という高い緊張感のもと繰り広げられたことで、輝度を増しているんじゃないか、と聴こえる。そう、このチューリッヒ・ライヴはくつろげる音楽じゃない。リスナーも気を抜けない、緊密でテンションの高い音楽だ。

それでも2曲目「バド・パウエル」、4曲目「トゥウィーク」なんかはまだリラクシングな部類に入るんだろう。前者ジャズ・ピアノ・ジャイアントへのオマージュのほうでは、ゲイリーのソロの途中でチックが左手でラニング・ベースを弾くのも楽しい。ところでラテン(傾向のある)・ジャズ・ピアニストの多くがバドのことを言うよね。「ウン・ポコ・ロコ」があるおかげかなあ?

レコードでの二枚目 A 面がソロ・パフォーマンス二曲で占められていたが、B 面に来るとやはりデュオ演奏での緊密美が表現される。レパートリーはいずれもよく知られたもの。個人的にこのチューリッヒ・ライヴは、「セニョール・マウス」と「クリスタル・サイレンス」があるためか一枚目ばかり繰り返し聴いていた記憶があるんだけど…、と思っても二枚目だってわりかし憶えているから、やっぱちゃんと聴いていたんだなあ。特にソロ演奏二曲の A 面をさ〜。

だからさぁ、ECM さん、その二曲もマジですごくいいんだし、どうか単独盤でもフル・コンサートを二枚組 CD で再発してくんないかなぁ〜。高度な緊張感がこんなにもすばらしく美結晶化した音楽って、なっかなかないと思うんですよぉ。完全盤で復刻する意味と価値のあるコンサートだ。ぜひお願いします!

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