ミンガスの教会ふうブルーズ・ストーリーテリング 〜『オー・ヤー』もデューク的
チャールズ・ミンガスのアトランティック盤『オー・ヤー』(1961年録音62年発売)。ふだん聴いているのは1999年リイシューのライノ盤だから、三曲のボーナス・トラック入り。それらも含め、アルバム全体が、これ、好きだぁ〜。ホントいいよね。ブルージーで、ゴスペルふうでもあり、ノヴェルティ・ソングっぽいものがあったり、さらにデューク・エリントン的なクラシカルな作風もある。
しかもそれらぜんぶが、いかにもこれぞアトランティック・ジャズだというお手本のような黒っぽく野太い音楽に融和・昇華している。根本的にはブルーズ・ストーリーテリングをジャズ・アンサンブルの手法で実行したというアルバムが、ミンガスの『オー・ヤー』だと思う。そのまんまなブルーズだってアルバムにいくつもあるし、そうじゃないものも、そのサウンドの湿り気、濁り気は、本質的にブルーズ・ミュージックの持つものだ。
そんな黒人教会ふうブルーズ・エッセンス(おかしな言いかた?)が、デューク・エリントン的なホーン・アンサンブルとなって具現化しているので、ひるがえってデュークの音楽の本質になにがあるのかまで見えてくるという、そんなアルバムなんだよね。いやあ、すごいなあ、ミンガス。本当にすごいのは、そんなアンサンブル・マナーの直接の師匠格、デュークってことか。
ところで『オー・ヤー』にはダグ・ワトキンスが参加していて、ミンガスはベースをいっさい弾かない。担当楽器はピアノとヴォーカル。ふだんからかなりよく歌い、というかしゃべったり叫んだりしていて、さらにピアノの腕も知られているけれど、アルバムまるまる一枚でそれらに専念したというのは『オー・ヤー』が初のはず。
しかもそのミンガスの弾くブルーズ・ピアノがかなりいいよね。曲自体もそうだけど、ピアノ・ソロもしばしばハチロク(6/8拍子)で弾き、シングル・トーンでもブロック・コードでもアーシーで、言いすぎかもしれないがちょっぴりホレス・パーランっぽくも聴こえる。『オー・ヤー』では、弾きながらなにか歌って(しゃべって)いることも多い。
ミンガス以外で目立つのは、やはり左チャンネルの(サックスなど各種の)ローランド・カークだ。ホーン奏者は、テナー・サックスのブッカー・アーヴィンが右チャンネル。さらに、ミンガス・バンドの常連であるジミー・ネッパー(トロンボーン)、ダニー・リッチモンド(ドラムス)もいる。みんないい演奏をしているが、カークが本当に見事だ。彼のドロドロに黒っぽいのが、『オー・ヤー』で聴けるソロのなかではミンガスの音楽性を端的に表現している。
事実上、カークしかソロをとっていないと言ってもさしつかえないほど『オー・ヤー』で吹いているのはカークだ。ある意味主役、と言いたいところだけど、それは違う。ジャズ・ミュージックはアド・リブ・ソロで成り立つ音楽だ、という通りいっぺんのジャズ概念をくつがえしているのが、ミンガスであり、師匠のデューク。
言い換えれば、(デュークもそうだけど)ミンガス・ミュージックのなかでは、すべてが「あらかじめ組み上げられたスポンティニアスさ」のなかに存在している。だから、ソロで組み立てた音楽と言ってもいいのだが、正反対にソロなしの音楽だと言っても同時に正解なのだ。『オー・ヤー』でのカークは自由に演奏しているけれど、同時にミンガスという大きな手のひらのなかで踊っているだけでもある。デュークと楽団員の関係がそうだった。
そんなことを、1961年の一日のセッション記録である全10曲のアトランティック盤『オー・ヤー』でも、またもやあらためて再確認した。
2曲目「デヴル・ウーマン」、4曲目「イクルージアスティックス」、5曲目「神よ、原子爆弾を落とさないで」などの、こういった、なんというか、よどんだ水のようなスロー・ブルーズが、ぼくには本当に最高に心地いい。ボーナス・トラックなら、ラストの「インヴィジブル・レイディ」が最高にすばらしい。これはストレートなデューク・オマージュなんだよね。ジミー・ネッパーの吹くラインと、背後のリズム&サウンドのアンサンブル・アレンジが、本当に美しい。
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