ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ Vol. 2
括弧内は録音年。
1) I Feel Like Going Home (1948)
2) Mannish Boy (1955)
3) Sugar Sweet (1955)
4) Forty Days And Forty Nights (1956)
5) Trouble No More (1955)
6) Don't Go No Further (1956)
7) You're Gonna Miss Me (1948)
8) Rollin' and Tumblin' Part 1 (1950)
9) Rollin' and Tumblin' Part 2
10) Appealing Blues (a.k.a. Hello Little Girl) (1950)
11) She's Alright (1953)
12) Baby Please Don't Go (1953)
13) Blow Wind Blow (1953)
14) She's Nineteen Years Old (1958)
15) I Feel So Good (1960)
16) Got My Mojo Working, Part 2 (1969)
17) Can't Get No Grindin' (What's The Matter With The Meal) (1972)
1996年の MCA 盤 CD『ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ Vol. 2』。もちろんそんなアルバムは本国のチェス盤にはない。神をもおそれぬこのアルバム題、小出斉さん編纂の日本独自盤で、言うまでもなく問答無用の史上最強必殺名盤『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』(Chess LP 1427、1958年) のその名前にあやかるというだいそれた真似をした一枚。褒め言葉のつもり。中身が充実しているし、貴重な一枚で、これでしか事実上聴きにくいというものがあったりする。『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』と『同 Vol. 2』と二枚さえあれば、それだけでマディの1950年代の重要録音はすべてわかる。
さらに『Vol. 2』は、1950年代が終わって以後1970年代までのマディのセレクション的意味合いもちょっぴりある。1940年代末〜50年代のチェス(系)・レーベルのシングル曲から『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』には収録されなかった重要曲を選び、二枚あわせればマディが最も重要な意味を発していた1950年代のヒットはぜんぶ聴ける上、その後の1970年代まで聴けるんだから、文句なしだ。
シカゴに出てきてチェス(系)・レーベルからレコードを出しはじめたころのマディは、シンプルな編成で、南部感覚横溢のド郷愁路線、つまりはデルタ・スタイル・ブルーズをエレキ・ギターでやっていたようなものだと思うんだけど、その後電化バンド編成でぐいぐいノルものをやるようになってからは、そんなノスタルジーを捨て、オレはこんなに(セクシャルな意味で)スゴイ男なんだぜ!と、まるでイツモツを見せびらかすようなマチスモ・ブルーズ・マンへと変貌した。
このへんのことはチェス盤『ザ・ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』でもわかるけれど、小出さんの『Vol. 2』ならもっとクッキリわかるのだ。しかも小出さんの編纂ぶりというか曲の並べかたが、間違いなく意図してわざとやっていると思うんだけど、弾き語りに近い郷愁電化デルタ・ブルーズみたいなのと、オトコ自慢のモダンなバンド編成のシカゴ・ブルーズが唐突に混ざって出てくるので、かなりおもしろい。
しかし唐突といってもデタラメに並べてあるのではない。チェス・レーベルにおけるマディのブルーズがどんなものだったのか、パッと一瞬でわかりやすいようにしっかり考えられた曲順に思える。いまさらですが、さすがはわれらがブルーズ師匠、小出斉さん!といっても、エレキでやる弾き語りに近い郷愁デルタ・ブルーズみたいなのは、1曲目「アイ・フィール・ライク・ゴーイン・ホーム」、7「ユア・ゴナ・ミス・ミー」の二曲だけなんだけど。
その7曲目「ユア・ゴナ・ミス・ミー」に続き、8、9とパート1&2が連続収録(これはレアな事例で、だからこの一枚は貴重)されているチェス録音の「ローリン・アンド・タンブリン」があるのはすばらしい。この曲はデルタ(というかミシシッピ)・ブルーズ・スタンダードなんだけど、ご存知のとおり、事実上マディ主導で録音したパークウェイ盤のシングル盤がヒットしていた。
チェスと契約のあるマディの名前を前に出すわけにはいかなかったこのパークウェイ盤がウケたので、それより先に同じものを録音してあったチェスもあわててレコードを発売。しかし当時のマディがナイト・クラブなどに出演していたレギュラー・バンドによるブルーズは、パークウェイ録音のほうが再現している。チェス録音のほうはビッグ・クロウフォードのコントラバス伴奏のみ。
それでもしかし、同じくデルタ時代のレパートリーを焼き直したものだとはいえ、「アイ・フィール・ライク・ゴーイン・ホーム」「ユア・ゴナ・ミス・ミー」なんかと比較すれば、ノリがグンと違ってきているのがわかるよね。たったのスラップ・ベース一本が伴奏で、パークウェイ・レーベル・ヴァージョンにおよばないとはいえ、それでもバンド編成のシカゴ・ブルーズへ向かう道程が見えている。
そんなチェス録音の「ローリン・アンド・タンブリン」の2パートを、アルバム『ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ Vol. 2』のおヘソみたいな位置に置き、その前に1曲目、7曲目とデルタ・スタイルの電化弾き語りブルーズ・ノスタルジーを入れ、そして続く10曲目「アピーリング・ブルーズ」が完全脱皮直前のマディの、初期シカゴ・ブルーズみたいであるという、それら以外は完璧にモダンなノリを持つ完熟期マディの重要シカゴ・ブルーズで攻め、最後に1960年代末から70年代の録音を持ってきているという 〜〜 こんな小出さんの編纂意図や、こう聴いてほしいという気持ちみたいなものがハッキリ伝わってくるようだ。
いやあ、それにしても『ザ・ベスト・オブ・マディ・ウォーターズ Vol. 2』の、たとえば3曲目「シュガー・スウィート」なんかは、まさにお手本、モダンなシカゴ・ブルーズの、いや、すべてのバンド・ブルーズの、最良の教科書のようで、マディのヴォーカルの勢いと迫力、バンドの推進力と強いビート感などなど、すばらしいとしか言いようがない。
またその3曲目の前の2「マニッシュ・ボーイ」から〜6「ドント・ゴー・ノー・ファーザー」の五曲連続の流れは、なんど聴いてもいつ聴いても、ため息がでる完璧さ。どこをどう取っても文句なしに傑作だと言える。こういうのが1950年代のシカゴ・ブルーズのまさに代表作だと、『ベスト・オヴ・マディ・ウォーターズ』のなかの数曲とあわせ胸を張って、ブルーズ・ファンだけでなく音楽好きのみなさんに推薦したい。
3「シュガー・スウィート」、5「トラブル・ノー・モア」、16「ガット・マイ・モージョー・ワーキング、パート2」あたりのノリのいいグルーヴィなやつなら、特別マディ・ファンだとかブルーズ好きだとかアメリカ黒人音楽愛好家とかじゃない、一般の音楽リスナーにだってアピールできそうな気がするんだけど。
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