マイルズB面名盤のA面三つ
以前、マイルズ・デイヴィスのプレスティジ時代にある B 面名盤三枚のことを書いた。これら三つ、ある意味、B 面のほうがおもしろく出来もいいという見方ができる面があると思うんだ。
それでも、リリース順に『コレクターズ・アイテムズ』(1956.12)、『ウォーキン』(1957.6)、『バグズ・グルーヴ』(1957.12)のそれぞれ A 面のなかにだってなかなかいいものがあるので、というかふつう A 面が話題になるものだからその話を今日はしたい。まず、なかなかいいどころか大傑作に違いないのが『ウォーキン』A 面の二曲。どっちも12小節定型ブルーズだ。
これら二曲「ウォーキン」「ブルー・ン・ブギ」(後者はディジー・ガレスピー作)については、以前一度詳しく書いた。ここにぼくの意見は載せておいた。これ以上の感想はいまのところない。一点だけ、ホレス・シルヴァーの重要性を、この記事の時点でもまだ見くびっていたと気づきはじめている。各ホーン奏者のソロ背後で弾くピアノ・フレーズのリズムの跳ねかたを聴いてほしい。
三枚の A 面は、録音順だと『コレクターズ・アイテムズ』のものが1953年1月30日といちばん早く、二番目が『ウォーキン』A 面の1954年4月29日録音、三番目が『バグズ・グルーヴ』A 面の1954年12月24日。前者ふたつのセッション・デイトにはそれら収録曲しか録音されていないが、最後者の日付には「ベムシャ・スウィング」「スウィング・スプリング」「ザ・マン・アイ・ラヴ」も収録されていると、ご存知のとおり。
最も話題性が高いのが「バグズ・グルーヴ」の2テイクなのでその話からしよう。説明不要、ミルト・ジャクスン作の超有名スタンダード・ジャズ・ブルーズだけど、このマイルズ・ヴァージョンって、あぁ、正直に言ってしまいますけれど、楽しいのだろうか?ブルーズがあんなにうまいミルトが参加している自身のオリジナル・ブルーズなのに、ぼくにはイマイチ。おもしろくないような…。
そう感じる理由も自分なりにはハッキリしている。セロニアス・モンクがピアノを弾いているからだ。嫌いじゃないんだけど、ぼくがブルーズに求めるものをモンクは表現しない。一言にすれば湿り気。言い換えればブルージーさ。むろん、乾いて硬質なジャズ・ブルーズを好ましく思うときだって、そういう演奏だって、あるんだよ。チック・コリアの「マトリクス」とかさ。
しかし時代と、その日のモンク以外の演奏メンツの資質を考えあわせると、どうもこのピアノ・スタイルだけが浮いているような気がして、しかもマイルズの背後では指示により一音も出さないし、う〜ん…。だからミルト・ジャクスンのソロのあいだはまだそんなに悪くないように聴こえなくもないが、ピアノ・ソロ部は…、う〜ん、まぁちょっとその〜〜。「バグズ・グルーヴ」という曲だって、ほかの演奏機会、たとえばミルトみずから参加の MJQ(モダン・ジャズ・カルテット)ヴァージョンなどでもいい内容に聴こえるので、曲のせいじゃないんだなあ。
ただ、たぶんセロニアス・モンクのおかげでこんなフィーリングになっていると思うここのこのブルーズ演奏「バグズ・グルーヴ」だけど、録音した1954年よりもっと先、ちょうど1960年前後あたりになってからは、たとえばエリック・ドルフィーらが似たような演奏をやりはじめたように思う。はたまた、2010年代的なジャズ・ブルーズ演奏に聴こえなくもない。そう考えると、空恐ろしくなるモンクの先見性なのだけど。
同じヴァイブラフォン奏者が同じような時期に同じトランペッターのレコーディング・セッションに参加してのブルーズ演奏というと、いつもいつもこれの話ばかりで恐縮ですけれど「ドクター・ジャックル」(『マイルズ・デイヴィス・アンド・ミルト・ジャクスン』、1955年8月5日録音)。これは文句なしにサイコーだよ。これをお聴きいただければ、「バグズ・グルーヴ」についてのここまでの発言は理解していただけるかも。
そんなわけでアルバム『バグズ・グルーヴ』にかんしては B 面しか聴かないのだ。残るは『コレクターズ・アイテムズ』A 面。はっきり言ってこれも B 面しか聴くことはないんだけどね、ふだんは。A 面は B 面となんの関係もない。ただ一点、どっちにもソニー・ロリンズが参加しているということを除いては。
『コレクターズ・アイテムズ』A 面最大の話題は、かつてのボス、チャーリー・パーカーの、それもテナー・サックスでの参加だね。だからソニー・ロリンズとのツイン・テナーで三管編成のコンボ。バードが参加しているせいか、あるいは録音時期のせいか、まだビ・バップの香りが残っているのを感じ、ハード・バップとの端境期みたいな演奏に仕上がっているよね。
でもかつてのパーカー・コンボ時代との最大の違いは、トランペッターの大成長だ。も〜うまったく違う。4トラックともオープン・ホーンで吹いているが、音色に艶が出はじめているし、歯切れも粒立ちもよく、フレイジングも立派だ。しかもマイルズ独自の味である水平的メロディ重視の展開(=アンチ・ビ・バップ的)も成熟に近づきつつある、ように聴こえる。
そういうのが約一年後の『ウォーキン』A 面録音セッションで(ほぼ)完成を見たと考えていいんじゃないかな。かつての(というか、マイルズのなかでは終生そうだった)師匠チャーリー・パーカーの、へなへなに衰えていた時期とはいえ参加を得て、ぼくの成長を聴いてくださいというような気持ちがあったような、そんな演奏だよね。音だけ聴いてそういった気持ちだったと判断できるように思う。
2テナー体制の二名。1953年のパーカーとロリンズはかなり似ているので、音だけ聴いて判別するのはやや困難。だけどやはり聴き分けポイントがある。「ザ・サーペンツ・トゥース」2テイクでは、連続して出てくるテナー・サックス・ソロの先発がロリンズ。「コンパルジョン」ではパーカーが先発。「ラウンド・ミッドナイト」では、ラスト合奏部分を除き、パーカーだけ。
さてさてところで、チャーリー・パーカーがアルトじゃなくテナー・サックスを吹いた正式録音機会は生涯で二回しかない。そのうち一回がこれ。もう一回は自分のバンドでの1947年8月14日のサヴォイ録音で、4曲12テイク残っている。そのサヴォイ・セッションも、レコードの名義はマイルズ・デイヴィス・オール・スターズだった。
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