ビートルズのつくりかた 〜 BBC ライヴ
1994年に CD 二枚組でリリースされたビートルズの『ライヴ・アット・ザ BBC』。2013年に Vol. 2 がやはり二枚組で発売されているが、今日は1994年盤だけを話題にする。ぼくにとってのこのアルバムのおもしろみは、既発曲のラジオ・ライヴではなくて、四人の雑談、司会者との会話(どっちもジョークがちりばめられていて楽しい)などが聴けるのと、それ以上に、ビートルズ・ヴァージョンは初お目見えだった米リズム&ブルーズ/ロックンロール・ソングがどんどん聴けるところ。附属解説を読むと、レコード・デビュー前にバンドのレギュラー・レパートリーだったものも多いらしい。コンテンポラリー・ヒットもある。
まず先に、一曲だけ収録されているレノン - マッカートニーのオリジナル楽曲だけど未発表だったものでここではじめて世に出たものがあるのでそれから。ディスク1の7曲目「アイル・ビー・オン・マイ・ウェイ」。1963年4月4日録音、同年6月24日放送。ビリー・J・クレイマー&ザ・ダコタズに提供されたもの。これのビートルズ・ヴァージョンは、まあでもどうってことないかなと思う。
ビートルズによるものは初リリースだったカヴァー・ソングをぜんぶ抜き出して、録音、放送年月日と合わせ、アルバムでの登場順に、以下、一覧にしておく。
I Got A Woman (Ray Charles) rec. 1963.7.16, trans. 1963.8.13
Too Much Monkey Business (Chuck Berry) rec. 1963.9.3, trans. 1963.9.10
Keep Your Hands Off My Baby (Goffin-King) rec. 1963.1.22, trans 1963.1.26
Young Blood (Leiber-Stoller-Pomus) rec. 1963.6.1, trans. 1963.6.11
A Shot Of Rhythm And Blues (Terry Thompson) rec. 1963.8.1, trans. 1963.8.27
Sure To Fall (In Love With You) (Perkins-Claunch-Cantell) rec. 1963.6.1, trans. 1963.6.18
Some Other Guy (Leiber-Stoller-Barrett) rec. 1963.7.2, trans. 1963.7.16
That's All Right, Mama (Arthur Crudup)
Carol (Chuck Berry)
Soldier Of Love (Cason-Moon)
Clarabella (Frank Pingatore)
I'm Gonna Sit Right Down And Cry (Over You) (Thomas-Biggs) rec. 1963.7.16, trans. 1963.8.6
Crying, Waiting, Hoping (Buddy Holly)
To Know Her Is To Love Her (Phil Spector)
The Honeymoon Song (Theodorakis-Sansom)
Johnny B. Goode (Chuck Berry) rec. 1964.1.7, trans. 1964.2.15
Memphis, Tennessee (Chuck Berry) rec. 1963.7.10, trans. 1963.7.30
Lucille (Collins-Penniman) rec. 1963.9.7, trans. 1963.10.5
Sweet Little Sixteen (Chuck Berry) rec. 1963.7.10, trans. 1963.7.23
Lonesome Tears In My Eyes (J and D Burnette-Burison-Mortimer)
Nothin' Shakin' (Fontaine-Calacrai-Lampert-Gluck)
The Hippy Hippy Shake (Chan Romeo) rec. 1963.7.10, trans. 1963.7.30
Glad All Over (Bernnett-Tepper-Schroeder) rec. 1963.7.16, trans. 1963.8.20
I Just Don't Understand (Wilkin-Westberry) rec. 1963.7.16, trans. 1963.8.20
So How Come (No One Loves Me) (Felice and Boudleaux Bryant) rec. 1963.7.10, trans. 1963.7.23
I Forgot To Remember To Forget (Kesler-Feathers) rec. 1964.5.1, trans. 1964.5.18
I Got To Find My Baby (Chuck Berry) rec. 1963.6.1, trans. 1963.6.11
Ooh! My Soul (Richard Penniman) rec. 1963.8.1, trans. 1963.8.27
Don't Ever Change (Goffin-King)
Honey Don't (Carl Perkins) rec. 1963.8.1, trans. 1963.9.3
ビートルズのばあい、黒人リズム&ブルーズをそのまま下敷きにしてあることも多いけれど、白人ロッカーによるカヴァーがあるものはそれを参照しているのが、当然のような気もするけれどおもしろい事実だ。たとえば「アイ・ガット・ア・ウーマン」。レイ・チャールズのオリジナルではなく、間違いなくエルヴィス・プレスリー・ヴァージョンに沿って展開している。
この世代の UK ロッカーたちには、そういうケースがかなりあったんじゃないかと、そのほかのバンドや歌手、ミュージシャンたちの例を見てもよくわかる。ローリング・ストーンズみたいに黒人ブルーズやリズム&ブルーズ楽曲をそのまま真似て、というのは、どっちかというと少数派だったかも。
アーサー・クルダップの「ザッツ・オール・ライト、ママ」についてもまったく同じことが言える。そのほか多くがそうなので、みなさんご検証いただきたい。レコード・デビュー前から1964年ごろまでのビートルズが、どこからどう学んで、なにをとりあげどうやって、それをお手本に自分たちのオリジナル曲もどうやって創っていくようになったか、よくわかる。初期の自作曲も『ライヴ・アット・ザ・BBC』に多いので、比べたら楽しい。
こないだデビュー・アルバム『プリーズ・プリーズ・ミー』に聴けるラテン・シンコペイションのことを書いた。BBC ライヴにおける初お披露目だったものでも、同様のリズム・スタイルが聴けるばあいがわりとある。ジャズやブルーズやロックなどをそのまま聴くだけでは気が済まず、特にカリブ中南米要素を探しもとめる癖のあるぼくは(まるでフレモー&アソシエみたい)、ビートルズの BBC ライヴでもそのあたりにニンマリする。
随所にそういったものがあるけれど、なかもで顕著だなと思うのが、リトル・エヴァの歌った「キープ・ユア・ハンズ・オフ・ベイビー」、アーサー・アレクサンダー(ジョンのお気に入りだったようだ)の「ソルジャー・オヴ・ラヴ」、ジョディマーズ「クララベラ」、エルヴィスの「アイム・ゴナ・シット・ライト・ダウン・アンド・クライ」、バディ・ホリーの「クライイング、ウェイティング、ホーピング」。
それから、マリーノ・マリーミの「ザ・ハニムーン・ソング」、チャック・ベリーの「メンフィス、テネシー」、リトル・リチャードの「ルーシール」、ジョニー・バーネットの「ロンサム・ティアーズ・イン・ユア・アイズ」(最高だ!)、チャン・ロメーロの「ザ・ヒピー・ヒピー・シェイク」、リトル・リチャードの「ウー、マイ・ソウル」とか、そのくらいかな。
もちろんビートルズならでは、という独自解釈を施した結果なのではなく、カヴァーした先のヴァージョンが元からそうなっているだけではあるけれど、そんなところも、しばらくが経過してオリジナル楽曲にしみこんでいくことになっているので、いわば彼ら四人が教科書を見ながら学習している記録として、のちの全盛期へつながるものを聴きとれば、楽しさ倍増。
カントリー・テイストな曲だってあるし、さらにまた、ジョンのややザラついた濁り成分を持つ声質に比し、ポールの、ロック・シャウターとして迫力があって、かつ、なめらかなバラディアーとしてもうまいという部分の好対照も、どんどん続けて飛び出してくる『ライヴ・アット・ザ・BBC』の聴きどころかも。
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