マイルズ「ソー・ワット」の来し方行く末、アーメン
今日のこの文章は、Twitter での音楽友人 Good Times Roll さん(@goodtimes_cow)のこのツイートにインスパイアされて、書いた内容です。
1) Ray Charles / Hallelujah I Love Her So (1956 single)
2) Art Blakey & the Jazz Messengers / Moanin' (1958 album "Art Blakey & the Jazz Messengers" aka "Moanin'")
3) Miles Davis / So What (1959 album "Kind Of Blue")
4) James Brown / Cold Sweat (1967 single)
5) Miles Davis / Frelon Brun (1968 album "Filles De Kilimanjaro")
これら五曲の関係というか流れを考えてみたい。ほぼ説明不要かとも思うんだけど、ご存知のみなさんは、どうぞ笑って無視してください。簡単に言って、アメリカ大衆音楽における、黒人ゴスペル、由来のリズム&ブルーズや(ファンキー・)ジャズ、からいわゆるファンク・ミュージックが産まれ、その後それがジャズ界にフィード・バックされて、その後のことは今日のプレイリストに入れていないが、ジャズも含め、一般にひろく拡散浸透することとなった。
そんな連綿とする流れ、系譜を、今日のプレイリストで示したつもり。(2)アート・ブレイキーの「モーニン」(ボビー・ティモンズ作)から(3)マイルズ・デイヴィス「ソー・ワット」へのパクリは、ぼく自身も以前一度詳述したし、ジェイムズ・ブラウンの「コールド・スウェット」からマイルズの「フルロン・ブラン」への動きがあることも、説明済みだ。
「モーニン」→「ソー・ワット」のことは言っているひとが複数いるので、共通認識になりつつあるのかもしれない。マイルズ1968年のアルバム『キリマンジャロの娘』オープナーの「フルロン・ブラン」がかなり重要だというのは、日本語ではたぶん言っているひとがいないかもなので(英語でもボブ・ベルデンさんだけ?)、いま一度繰り返しておかなくちゃね。妄想じゃないはずだ。
「フルロン・ブラン」(茶褐色のスズメバチ)とは、これまた当時のマイルズの恋人ですぐのちに妻となるベティ・メイブリーへの言及。マイルズはこれを録音した1968年9月24日にもう一曲「マドモワゼル・メイブリー」も吹き込んでいる。「フルロン・ブラン」は、基本、F のブーガルー・ブルーズで、特にトニー・ウィリアムズのドラミングに JB「コールド・スウェット」で叩くクライド・スタブルフィールドの強い影響が聴ける。
がしかしそれだけではない。曲全体の創り、構造、そして演奏時のバンド全員のノリが、 あの JB ファンク・アンセムにインスパイアされたものとなっているよね。JB がファンクを編み出したとは言えないかもしれないが、1967年のシングル盤両面「コールド・スウェット」が、ひとつの時代のブレイクスルーだったのは間違いないんじゃないだろうか。
マイルズやジャズ界にとって重要なこと、それは、彼らがここまではっきりといわゆるファンク・ミュージックからもらったものを隠さなかったのは1968年の「フルロン・ブラン」が初で、その後はマイルズだって、このやりかたでどんどん進むようになり、1970年代のあのファンク大爆進につながったのだということ。「フルロン・ブラン」こそ、マイルズやジャズ・ミュージック史においては、大きな意味を持つ最重要なワン・トラックなのだ。そしてそれは、 JB「コールド・スウェット」を下敷きにしていた。
ところがそんな JB の「コールド・スウェット」が、今度はマイルズの1959年「ソー・ワット」から直接のインスピレイションを得てできあがった曲だったんだよね。これは JB とともに共作者として登録されているアルフレッド・エリスもインタヴューで明言している。それを読み両曲を連続再生してみれば、あぁ間違いないなとわかる。特にエリスも言うホーン・リフのパターンが、とてもよく似ている。
似ているというか、これは同系のものだ。なんの系統かというと、アメリカ黒人キリスト教会における「エイメン」(アーメン)詠唱ということになる。上でリンクを貼った記事でぼくも以前指摘した、マイルズ「ソー・ワット」がアート・ブレイキー「モーニン」から盗んだものこそ、教会アーメンの詠唱をホーン・リフ化して反復するというものだった。
マイルズの「ソー・ワット」を、レイ・チャールズとかアート・ブレイキーとかジェイムズ・ブラウンみたいな、いわば真っ黒けにエグいファンキー・ミュージックの系譜に位置付けて、そのルーツはゴスペルというか教会アーメンであるなんて、どなたの文章も読んだことがないけれども、間違いなくそのフィーリングはある。みなさんも感じとることができるはずだ。
そんな「モーニン」への影響源として、レイ・チャールズ1956年のシングル曲で57年のアルバムにも収録された「ハレルヤ・アイ・ラヴ・ハー・ソー」があるというオスカー・ピータースンの発言(が、デイヴッド・リッツ著のアリーサ・フランクリン伝で読めるというのは、和訳書 p. 81 のことですかね?)は、かなり納得しやすいはず。ボビー・ティモンズの書いた「モーニン」はゴスペル・ジャズなんだし、アート・ブレイキーのドラミングも似ていれば、ホーン・セクションもリズムもあわせてストップ・タイムを繰り返しながら、教会アーメンを反復しているところも同じだ。
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