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2018/10/21

ジャイヴもファンクもラテン系?〜 スリム・ゲイラード

 

 

 

 

スリム・ゲイラードのこの二枚組 CD がリリースされたことは、bunboni さんの以下のブログ記事で知りました。読んだ次の瞬間、速攻購入。翌日に届き、なんども繰り返し聴き、本当にすごく楽しんでいます。感謝いたします。

 

 

 

スリム・ゲイラードみたいな音楽芸人の本質にはそぐわないかもしれないが、ノーマン・グランツのもとでレコーディングしたものが集大成されて復刻されたのを聴きながら、ちょっとシリアスなことが頭に浮かんだので、自分なりに考えたことを書いてみようっと。それがぼくらしいでしょ。音楽の感想なんて、なにが「正しい」とかってないんだからさ。

 

 

それは、ジャズのなかにあるジャイヴやファンキーや、(ジャズの)一形態としてのジャンプ・ミュージックや、その孫のような存在にあたるファンク・ミュージックやなんか、ぜんぶひっくるめてラテン系、中南米由来なんじゃないかってことだ。これが言いすぎなら、北米合衆国のそんな音楽のすべてには、ラテン要素が必ずある。最低これならオッケーなはず。

 

 

もう結論をまとめてしまったが、スリム・ゲイラードの『グルーヴ・ジュース:ザ・ノーマン・グランツ・レコーディングズ+モア』には、ラテン・ミュージック(っぽいもの)が実にたくさんあるよ。しかもそれがジャイヴな味と合体したり、愉快でファンキーなラインを描いたりするもんね。しかもリズムがタイトに跳ねてファンクっぽいノリになっていたりもする。いやあ、それにしても、この(CD なら)二枚組、あまりにも楽しすぎる。

 

 

『グルーヴ・ジュース:ザ・ノーマン・グランツ・レコーディングズ+モア』収録の全53トラック。1946〜53年のレコードで、整理すると以下のようになる。

 

 

1曲目:JATP

 

 

2〜17曲目:MGM シングル

 

 

8〜44曲目:マーキュリー、クレフ、ノーグラン・リリース

 

 

45〜53曲目:別テイク

 

 

1946〜53年というと、北米合衆国における黒人大衆音楽のなかにある中南米、というかカリブ音楽要素が、その前後より一層クッキリと表面化していた時期だ。端的に言えば、キューバ発祥のマンボ・クレイズの真っ只中だったよね。だから、この時期のスリム・ゲイラードのなかにラテン・ミュージック要素が濃くてあたりまえかもしれない。

 

 

『グルーヴ・ジュース:ザ・ノーマン・グランツ・レコーディングズ+モア』から、そんなフィーリングの曲でパッと気がついたものを抜き出しておいた。

 

 

3 Arabian Boogie

 

7 Money, Money, Money

 

8 Puerto-Vootie

 

14 Organ-Oreenee

 

16 When Banana Skins Are Falling (I'll Come Sliding Back To You)

 

17 Bongo Cito

 

18 Soony Roony (Song Of Yxabat)

 

21 Babalu (Orooney)

 

26 Yo Yo Yo

 

29 The Hip Cowboy

 

34 St. Louis Blues

 

38 Make It Do

 

39 This Is My Love

 

42 Mishugana Mambo

 

 

この一覧は、ちょっと聴けばだれでもわかる鮮明なものだけということであって、部分的に、または薄味で、ラテンが溶け込んでいるものを『グルーヴ・ジュース:ザ・ノーマン・グランツ・レコーディングズ+モア』から拾っていくともっとある。上掲曲なら、ラテン「的」アメリカン・ソングというより、ラテン・ミュージックそのものとすら言えるかも。

 

 

なかにはさほど濃厚ではないものだってある。たとえば「セント・ルイス・ブルーズ」。ここでのスリム・ゲイラードの解釈は、バリトン(?)・サックスとリズム・セクションが合奏しながら反復するリフ・パターンにラテン的ニュアンスを出すといったもの。でも間違いなくジャンプ・ブルーズにはなっている。W. C. ハンディのこのクラシックがね。

 

 

もっとおもしろい、というかある意味この録音集で最も楽しいと思わせてくれるのが「ザ・ヒップ・カウボーイ」。曲題で察せられるとおりカントリー&ウェスタン調で、スリム・ゲイラードはヴォーカルでヨーデルまで披露するけれど、中間部のトロンボーン・ソロを経て主役が「カウボーイ・マンボ!」と言った次の瞬間から出るトランペット・ソロのパートがキューバン・ミュージックなんだよね。トランペッターもソンふうな吹きかたをしている。その後、ジャンプ・ミュージックになって、最後はノヴェルティに帰着する。

 

 

カリプソなジャンプ/リズム&ブルーズっていう、いかにもルイ・ジョーダン的と言えるものからはじまって、マンボなどキューバ音楽テイストを吸収し、プエルト・リコなども俯瞰しながら、アメリカ黒人大衆音楽のなかでも<はみ出し者>であるスリム・ゲイラードの音楽にあるジャイヴに跳ねるリズムを付与し、軽妙なポリティカル・インコレクトネスをポンと愉快に表出しポイズンまでも混ぜていくのが、このアルバムの楽しさだなあ。

 

 

その上で、なお、リズムをシャープかつタイトなものにしたりして、その跳ねる反復パターンが、のちの1960年代半ば以後のファンク・ミュージックまでも予言しているし、そんなリズムのルーツをたどると、結局それはマンボなどキューバン/ラテンなノリに行き着くんだということまで、この録音集『グルーヴ・ジュース:ザ・ノーマン・グランツ・レコーディングズ+モア』でのスリム・ゲイラードは示してくれている。

 

 

いやあ、こんなにも楽しく愉快で、なおかつ示唆深い録音集があっただろうか。ただたんに聴いて笑って楽しい時間を過ごしていればいいナンセンス・ミュージックではあるんだけど、スリム・ゲイラードのジャズ芸能のなかに、こんなにも奥深いものが潜んでいるなんて、ぼくはちょっとビックリです。降参しました。

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