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2018/10/15

あらさがしをするな 〜 エリック・クラプトン篇(其の二)

 

 

1990年代のエリック・クラプトンについてこんな記事題ばかりつけていると、アンタ本当はあらしか見つけていないんでしょ?!とか思われるかもしれないが、本意ではない。失恋歌ばかりの1994年のブルーズ・カヴァー・アルバム『フロム・ザ・クレイドル』にもいい部分があるから、そんなところを見て書いておきたい。こんなやつ、こんなもの、としか自のことでも他のことでも思わないようになったらオシマイだ。

 

 

具体的な内容に入る前に、『フロム・ザ・クレイドル』最大の功績かもしれないと思うことを。それはこのアルバム、この音楽家と限った話じゃなくて、この世代の英国(ブルーズ・)ロッカーのかなり多くに言えることだけど、きっかけにして、ブルーズなどアメリカ黒人音楽の世界へ分け入る道案内になってくれたかもしれないということだ。

 

 

『フロム・ザ・クレイドル』では、それまでクラプトンがあまりやらなかった、というか正式アルバムには収録しなかったブルーズ・ソングをとりあげているから(15「ドリフティン(・ブルーズ)」が『E.C. ワズ・ヒア』にあったのが唯一の例外か)、ますますオリジナル・ヴァージョンのブルーズを聴いてみようと、ロック・ファン、クラプトン・ファンに思わせてくれたかも。

 

 

こういったことは、原作者をほぼ100%近くクレジットしなかったジミー・ペイジ&ロバート・プラント(レッド・ツッェペリン)を除き、英国ロッカーたちに感謝しないといけないとぼくだったら思う。ブルーズ・ロック勢を手引きにしてアメリカ黒人ブルーズに入り、実際、プロのブルーズ演奏家にまでなったひとだっている。亡くなったハーピストの妹尾隆一郎さんだってそうだった。

 

 

クラプトンの『フロム・ザ・クレイドル』。よくないなあと感じている部分からまず先に書いておくと、ガナり節ヴォーカルだ。特にひどいのが1曲目「ブルーズ・ビフォー・サンライズ」(リロイ・カー)と10曲目「イット・ハーツ・ミー・トゥー」(タンパ・レッド)の、二曲のエルモア・ジェイムズをカヴァーしたもの。リキみすぎだろう。なんでこんなにガナりたてるのか?もっとナチュラルにすっと歌えばいいじゃないか。まあしかしそういうのも「表現しなくっちゃ!」という強い気持ちの素直な表れだと、好意的に解釈したい。

 

 

そしてこの二曲も、エルモアをそのままコピーしただけとはいえ、ギターでのスライド・プレイはかなりいいよね。ギター演奏はアルバム『フロム・ザ・クレイドル』全般にわたって上出来だと思う。ほぼエレキに専念しているから、アクースティック・ギターを弾くのは三曲だけ。7「ハウ・ロング・ブルーズ」(リロイ・カー)、11「マザーレス・チャイルド」(バーベキュー・ボブ)、15「ドリフティン」(ジョニー・ムーア)。これら三曲がまたいいよね。

 

 

ある意味、エレキでぐいぐい弾くものよりも、リラックスしたフィーリングのあるそれら三曲のほうがいいかも。エレキだと、ヴォーカルほどでないにしてもやっぱりギター演奏にリキみが聴けるばあいもある。アクギだとそれがスッと抜けているからね。特に7「ハウ・ロング・ブルーズ」がかなりおもしろいよ。なぜならここでのクラプトンはジャグ・バンド・ミュージックに解釈しているからだ。

 

 

リロイ・カーの「ハウ・ロング・ブルーズ」が、どれほど多くカヴァーされてどれほど多様なヴァリエイションとなって姿かたちを変えているかは、ぼくが説明する必要などない。だからクラプトンがこんなフィーリングで料理したって驚くことはない。リロイの原曲はピアノとギターでやる洗練された北部のシティ・ブルーズだった。クラプトン・ヴァージョンの肝はハーモニカをくわえたこと。それでグッと身近で下世話な米南部ふうのテイストが出ている。前作『アンプラグド』でも、ジャグ・バンド・スタイルでやる「サン・フランシスコ・ベイ・ブルーズ」がよかったじゃないか。

 

 

そのハーピストはジェリー・ポートノイ。マディ・ウォーターズのバンドで吹いたひとだよね。ジェリーのハーモニカは、エレキ・ブルーズも含め、アルバム『フロム・ザ・クレイドル』全般にわたって最高なのだ。この作品でのソロでも歌をラップするオブリガートでも、いちばん聴けると思うのがジェリーのハーモニカじゃないかな。どの曲が、と指摘する必要はない。ぜんぶ、いい。

 

 

エレキ・ギターを弾きながら、基本、1950〜60年代のシカゴ・ブルーズを土台にしたようなことをやっているものだと、歌でガナらずギターでもスムースにやって弾きすぎない曲なら好きだ。たとえば2「サード・ディグリー」(エディ・ボイド)、同じくエディ・ボイドの5「ファイヴ・ロング・イヤーズ」(イントロ弾きはじめがカッコいい、ちょっと派手すぎかもだけど)、おなじみの3「リコンシダー・ベイビー」(ロウエル・フルスン)、オリジナルどおりブギ・ウギでやる6「アイム・トア・ダウン」(フレディ・キング)など、好き。ほかにもいいのがある。

 

 

そしてなんたって、当時からいまでも、クラプトンの『フロム・ザ・クレイドル』でいちばんいいと感じているのが、上で書いたジャグ・バンドふうに楽しい「ハウ・ロング・ブルーズ」を除けば、13曲目「サムデイ・アフター・ア・ワイル」なんだよね。これはオリジナルであるフレディ・キングの1962年フェデラル録音とはすこし違っている。

 

 

フレディ・キングがナチュラルに弾き歌うのに比べたら、クラプトンはやっぱり格好つけすぎみたいな部分があるけれども、でもそんなところも含めて、この、ずっと12小節音楽をやってきた音楽家の一途な思いが伝わってくるようなこの「サムデイ・アフター・ア・ワイル」のことがぼくは心から好きだ。しかも、気持ちが入っているなとわかるにしてはガナっていないし、ギターもひたすらエモーショナルなだけ。歌もギターもすばらしいぞ、これ。ホーン・セクションのリフも効果的。バンド全員で颯爽と上昇するのが大好きだ。

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