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2018/10/27

故郷へ 〜 ラシッド・タハ

今2018年晩夏、ラシッド・タハの訃報に接し、真っ先に聴いたのが1998年の『ディワン』だった。アラブ・ロッカーみたいなラシッドが、アルジェリア〜マグレブの音楽伝統に回帰した…、はちょっと違うと思うんだけど、でも歌っているレパートリーは、一部の自作を除き、そんなようなものばかりだ。さながら故国出身の先輩音楽家たちへ敬意を表してのオマージュ集といったところか。

『ディワン』の全11曲中、ダフマーン・エル・ハラシの曲がいちばん多く、三つもある。モハメド・エル・アンカみたいな大物や、そのほかほとんどがシャアビの名曲ぞろいで、どっちかというとシャアビやライの歌手ではなくロック・シンガーだと思えているラシッド・タハ(+スティーヴ・ヒレッジ)がどう料理しているのかが、最大の聴きどころになるだろう。

基本、シャアビの音楽伝統にのっとりながらやっているが、『ディワン』で最も伝統から遠いなと感じるのが、ラシッド・タハのヴォーカルだ。ご存知のとおり、アラブ歌謡ふうな朗々たる発声とコブシまわしをやらないひとで、どっちかというとボブ・ディランみたいにボン、ボンと吐き出しながら連射して投げつけるような、ある意味、ていねいではない投げやりな歌いかただよね、ラシッドは。

『ディワン』にあるカヴァー・ソングの大半のオリジナルや有名カヴァーは、やはりだいたいがアラブ伝統に即したような重厚で華麗な歌いかたをしていることが多いと思うから、このアルバムでのラシッド・タハ・ヴァージョンは、やはりかなりの異彩を放つ。いわばシャアビ伝統ソングのロック化に成功しているとでもいうか。

こんなところが、あたかもアルジェリアの古典へ回帰したみたいな作品に見せかけながら、ラシッド・タハなりの現代的姿勢を、いつも変わらず同時代にアピールしようとする音楽アティテュードを、スティーヴ・ヒレッジとのタッグで実現してくれているところが、実に頼もしいと思う。頼もしかった、と過去形で言わないといけないのがさびしくてしかたがないけれど。

それでも、シャアビ伝統そのまんまに近いかなと思えるようなものだってある。三曲あるエル・ハラシ・ナンバーなどはそうかな。特にアルバム・オープナーの超名曲「Ya Rayah」は、古典マナーそのままというに近い。ドラム・セット(打ち込み?)が使われているのだけがロックっぽいかなと感じる程度で、それ以外はほぼエル・ハラシ・ヴァージョンをなぞっている。

こういうところは、ラシード・タハ+スティーヴ・ヒレッジなりの敬意の表しかたなんだろうね。声の出しかたと歌いかたが、やはり上で書いたようなロック・シンガー・スタイルなもんで、だからそのへんはシャアビやアラブ古典純粋主義者のみなさんはお気に召さないところかも。でもラシッドなりにエグザイルの(気持ちの)帰郷を表現できていると思うんだけどね。

『ディワン』のなかには、けっこう現代的というかクラブ・ミュージックっぽい感じに仕上がっているものだってある。エレキ・ギターやシンセサイザー、コンピューターだって大胆に使われている。2曲目「Ida」や、古典的にはじまる3「Habina」だってそうだし、さながらクラブ・ボサ・ノーヴァとでもいうような6「El H'mame」、催眠的幻惑ビートの7「Enti Rahti」、完璧なクラブノリの9「Bani Al Insane」(ちょっと ONB っぽい)、などなど。

しかしアルバムでの白眉は、4曲目「Bent Sahra」じゃないかと思う。このワン・トラックはすごいぞ。ベドウィンのアハメッド・ケリフィのこの曲を、伝統的にやるかとちょっと見せかけて、すぐにデジタルなクラブ・ビートが入り眩暈を起こしそうに回転し、そこに女声コーラスのマントラみたいなのが入るんだ。女声マントラはずっと聴こえ続け、その背後でスティーヴ・ヒレッジの創るアンビエンスが漂っているが、強いビートは効いたまま。ラシッドはやはり乱暴に投げつけるように声を吐く。

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