ラーガ・ロックな『リヴォルヴァー』
ビートルズの『リヴォルヴァー』(1966)。4曲目にジョージの「ラヴ・ユー・トゥー」が収録されているが、これがっていうだけでなくほかにも随所に、それもジョージじゃないメンバーだって、インド音楽要素を表現しているよね。さらにこのアルバムはエレキ・ギター、それもファズのかかったそれをフィーチャーしたようなギター・ロックなのがぼく好み。
「ラヴ・ユー・トゥー」のことはおいておいて、まずアルバム・オープナーの「タックスマン」。ジョージの曲だけど、それじたいがインド音階を使っているようには聴こえない。ふつうのギター・ロック・ピースだよね。ところがポールの弾くソロ部は完璧なインドふう。これ以前も、これ以後2018年までも、ポールがここまではっきりとインドっぽいことをやったものってあるかなあ?
しかもかなりカッコイイよね、そのポールのギター・ソロ。あ、それを踏まえ、ヴォーカルへのオブリガートでも入る右チャンネルのポールのギターとあわせて聴くと、ヴォーカルの主旋律もなんだかインドふうに聴こえてくるから不思議だ、ってことはないのか、そういう曲なのか。歌詞は当時の政治風刺でちょっと硬派かもしれないが、そんなことはどうだっていい。インドふうの、なんちゅ〜かラーガ・ロック?は、もっと数年あとになってから流行りはじめるものだけど、ビートルズが先取りしていたかも。
アルバム・オープナーがこんな感じなのに呼応するかのように、クローザー「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」もなかなかのラーガ・ロックだ。1966年だからサイケデリックと呼ぶべきものだけど、ラーガ・ロックはサイケの延長線上のものっていうか、一亜種じゃないか。いやあ、それにしてもこの「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」はすごい、すごすぎる。1966年でこんな音楽、なかったよなあ。たぶん、ジョンのヴォーカルとリンゴのドラムスは生演唱かと思うんだけど、それも加工してあるし、それら以外は録音済みテープのループとコラージュで構成されているんじゃないかと思う。
さらに「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」では、そんな音楽構築の手法にだけ注目が集まっているのかもしれないが、あんがいここがいちばんの肝だと思うのがリンゴのドラミングだ。テープ・ループで構成…、と書いたけれど、リンゴは(たぶん)生演奏で同様のビート感を表現できているんだもんなあ。反復するヒプノティックなビートを、主にスネア・ワークで叩きだしている。これはかなりすごいことじゃないのかなあ。1966年にこんなヒップ・ホップ・ビートを生で叩けるドラマーって、ほかにいたんだっけ?ぼくは知らない。
直截的にインド音楽ふうなジョージの「ラヴ・ユー・トゥー」よりも、これらアルバム・オープナーとクローザーの、粉砕されて消化されインドふうな音楽要素がギター・メインなラーガ・ロック(という言いかただと抵抗されそうだけど)となって溶け込んでいる、しかも2010年代的現代性までをも感じさせるようなものに仕上がっているという、それら二曲「タックスマン」「トゥモロウ・ネヴァー・ノウズ」に降参するしかない。
『リヴォルヴァー』にある、ほかの同時代的、あるいはちょっぴり先取りしたようなサイケデリック・ロックな曲は、ふつうにサイケなだけのような気がするので、あらためて特記する必要はない。また、個人的な好みだけだと、ポールによる二曲のリリカル・ソング(一個はロマンティックなラヴ・バラード、一個はハート・ブレイキング)「ヒア、ゼア・アンド・エヴィリウェア」「フォー・ノー・ワン」もかなり好き。どっちも最高に美しい。
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