コルトレイン唯一のブルー・ノート作品
ジョン・コルトレインがリーダーのブルー・ノート作品は『ブルー・トレイン』(1957)だけ。プレスティジのだって、契約期間中にリアルタイム・リリースされたものは、実は三枚しかなかった。かの有名な『ラッシュ・ライフ』だって発売は1961年だったんだよ。あれっ?なんか、マイルズ・デイヴィス関係の事情とちょっと似ているなあ。
ともかく今日はプレスティジ録音作の話はしない。トレイン唯一のブルー・ノート作品『ブルー・トレイン』のことだけ。オリジナル・レコード分は5曲目までだ。1曲目のアルバム・タイトル・チューンと3曲目「ロコモーション」が(ほぼ)定型ブルーズで、それ以外も、スタンダード・バラードの4曲目「オイラは不器用」(I'm Old Fashioned)を除き、すべてトレイン・オリジナル。
などと言ってはみたものの、このサックス奏者もかつてのボス・トランペッター同様、ユニークで印象に残るオリジナル・チューンを書く能力はなかったと思う。簡単なリフとかブルーズとかそのヴァリエイションとかモードを並べただけとか、そんなのばっかりだよね。『ブルー・トレイン』でもそれがよくわかる。デューク・エリントンとかセロニアス・モンクとかホレス・シルヴァーなどを基準にしているぼくがいかんのだけども。
マイルズのばあいは、そんな能力の欠如を、トランペット・ソロ内容ではなく整合性の取れたグループ一体のトータル表現と、巧妙なアレンジ(しばしばアレンジャーを起用)と、躍動的なリズム・セクションのフル活用とで十二分に補っていた。トレインはといえば、死の一歩手前みたいなギリギリのアド・リブ勝負で補ったような、そんなジャズ・マンだったのかもなあ。そんな気がする。
だから1960年代のトレインがああいった方向へ進むのは、音楽家としての資質上、必然だったと言える。ふりかえれば、50年代録音は、内容がグンと向上する58年より前のものだとやはりイマイチに聴こえたりもし、だからリーダー作品でもテナー・サックスだけ聴いていると物足りない…、と思いませんか、みなさん?ぼくはそうなんだけど。
『ブルー・トレイン』のばあい、トランペッター(リー・モーガン)とトロンボーン(カーティス・フラー)が参加した三管編成で、テーマ演奏部その他で分厚い響きになるのはぼく好みだ。しかし、モダン・ジャズばかり聴いているみなさんのあいだでは、三管編成とかって、たとえばアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズなんかでも、ウケが悪いそうだ、と、むかしうかがった。
どうしてだろう?ってことはないなあ、ハード・バップ・コンボはたいていクインテット以下の人数だし、なんたってぼくの好みじゃないピアノ・トリオが大人気だったりする世界で、戦前ジャズ(とそのスタイル)においてはあくまで<本番>はビッグ・バンドだっていう、そんな世界とは180度違っているよねえ。アート・アンサンブル・オヴ・シカゴみたいな存在や、類するバンドやアルバムもあったりはしますが。
三管編成って、だからいちばん中途半端で分が悪いのかも。くどいようですが、ぼくは好きです、三管ホーン・アンサンブル。『ブルー・トレイン』で一番好きなのがそんな3ホーンズの重なり合いだから。さて、書いたように曲そのものにおもしろみが薄いもんだからアド・リブ・ソロ内容を、あるいはリズム・セクションの演奏を、聴くということになるけれど、いちばんいいなと感じるのが、個人的にはピアノのケニー・ドルーだ。管楽器ならカーティス・フラーがいい。
トレインもマイルズのファースト・クインテット時代よりはぜんぜんいいけれど、まだセロニアス・モンク・コンボでファイヴ・スポットに定期出演していた最中の修行中の身で、1958年にマイルズ・バンドに復帰以後の活躍を知っているからこの程度ではう〜ん…、まあ悪くはないんですけど。
リー・モーガンも1957年時点ではまだまだだったと判断せざるをえないトランペット吹奏内容だと思う。そこいくとカーティス・フラーはもうすでに立派だ。さらに、好みの問題でしかないが、ぼくはこのトローンボニストのちょっとくぐもって野暮ったいような音色とフレイジングがど真ん中ストレートの好物なんだよね。ただそれだけのことかもしれないが。
どの曲のソロもいいんだが、特にスタンダード・バラード「わし、不器用ですけん」でのソロが絶品だ。テーマとソロ部をあわせ、テナー・サックス、トロンボーン、ピアノ、トランペットの順で登場するけれど、カーティス・フラーの吹くパートだけ鈍く黒光りし、このスタンダード・バラードの持つ(歌詞を含む)曲想にピッタリ似合っているじゃないか。
それから「ぼかあ不器用なもんで」でもそうだけど、ケニー・ドルーのソロにはブルージーな部分が聴き受けられるのも好き。ふつうのバラードでもそうなんだから、曲「ブルー・トレイン」「ロコモーション」の二曲のブルーズ・ソングならなおさらだ。それらふたつでのいちばんの聴きもの、というか個人的好物がケニー・ドルーのブルージー・ピアノだ。
しかし、曲「ブルー・トレイン」では、曲とアレンジ構成もすこし興味深い。メイジャー・ブルーズなんだけどそうだとはっきりしてくるのは一番手トレインのソロに入っての1st コーラスでのことであって、テーマ演奏部はちょっぴりマイナー・キーをまとっているかのごとく惑わせる偽の衣装を着ている。これ、ホント、どういう和音構成になっているんだろう、このテーマ演奏部は?各人のソロ・パートではリズムの変化があるのも楽しいね。
もう一個のブルーズ形式楽曲「ロコモーション」。これはワン・コーラスが長い(数えていないが、とにかく最定型の12小節よりずっと多い)ので、コード・ワークがブルーズ・チェンジだと気づかれにくいかも。やはりカーティス・フラーとケニー・ドルーがいいね。このピアニストの弾きかたはなんでもないもののようだけど、このフィーリングをそうやすやすと出せるもんじゃないよね。
2曲目「モーメンツ・ノーティス」とラスト5曲目「レイジー・バード」は、ハード・バップ愛好家にはいいものだろうと思う。
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