ぼくにとっての初ティナは『プライヴェイト・ダンサー』、わりとジャジー
ぼくにとっての初ティナ・ターナーだった1984年の復帰作『プライヴェイト・ダンサー』を Spotify で探すと、30周年記念リリースとかいうのが見つかる。こんなのがあったのか。ついさっきまでまったく知らずに人生をやってきて、CD リイシューもペラペラの一枚もの(リリース年記載なし、たぶんアメリカ盤)をずっと前に買ったままだった。初めてのティナだったんだから、そりゃあ即買いで、そのまま来たさぁ〜。2015年にリマスターで内容拡充されてされていたなんて、つゆ知らず。
しかしそんな音質を向上させ内容も拡充して出しなおすほどの意味が、ティナの『プライヴェイト・ダンサー』にあるのでしょうか?、みなさんに。ぼくにはあるよ、そりゃあ初めての…、あ、もうやめときますが、とにかく思い出深いアルバムではあるんだよ。そして個人的には音楽的にそこそこ充実もしていると感じている。
どうしてこれが初ティナだったのかははっきり憶えている。テレビで PV が流れまくっていたからだ。MTV 全盛期だったもんねえ。ティナだけじゃない、米英のメイジャー・シンガーたちはみんな PV つくって MTV で放送してもらっていた。いまならさしずめ YouTube などで流すようなもんかな。ティナのこのアルバムからの曲は、ラジオでも当時実に頻繁に聴いたしね。
それで、ティナ・ターナーという、なんだか名前だけは聞きかじっていた(有名らしい)女性歌手の声を生まれてはじめてテレビで聴いたんだ。たしか姿も見せていた、PV で。YouTube で確認できると思うけれど、それをする気はない。30周年記念リリースとかの追加分も今日は無視して、1984年に買った(アメリカ盤じゃなく)インターナショナル盤レコード収録曲を聴きなおして、いま感じることをメモしておこう。
第一印象は二点。けっこうジャジーじゃないかということと、ファットなシンセサイザー・サウンドが、いかにも1980年代的(で古くさい?)だということ。ほぼ同時期のマイルズ・デイヴィスと重なっていたが、それは当時自覚なしだった。けれど、ティナのこれに好意的だったのは、この二点が大きな理由だったんだろうと、いまふりかえるとそうに違いない。
シンセサイザーのこういった使いかたは、ティナやマイルズだけでなく、1980年代の音楽家の多くが同様にやっていたんだから、どうこう言うようなことじゃない。でもいま聴いてみると、マイルズよりもティナのこのアルバムでのほうが、いい感じに抑制が聴いて、ちょうどいいポップさだ。ジャジーさも出せている。プロダクション・スタッフの違いか、主役の違いか、そこはわからない。あっ、シンディ・ローパー登場も同時期だったねえ。
ジャジーな感じがするなあというのは、1984年当時ぼくは気づいていなかったはず。いま2018年に聴くと、たとえば大ヒットした名曲(と、いまでも確信する)2曲目「愛なんてなんなのよ」(What's Love Got To Do With It)もそうだし、それ以上に5曲目「プライヴェイト・ダンサー」が完璧なスムース・ジャズだ。フュージョンと呼んでもいいんじゃないかな。伴奏メンツを確認するのは面倒だからしない。
9曲目のビートルズ・カヴァー「ヘルプ」も、当時は、こりゃまたずいぶん悲痛な絶叫調になっちゃってるなあ、まあこの曲の歌詞からすればわかりやすい解釈だけど、うんたしかになにか助けてくれ〜っ!って強く求めているんだよね、って、それしか感じていなかったが、いま聴くと、これ、ジャズ・ヴァージョンなビートルズじゃん。それもリズム&ブルーズ・クイーンがやるジャジー・ビートルズ。間奏のサックス・ソロはメル・コリンズかなあ?その部分は完璧なジャズだ。
ところでティナのこの『プライヴェイト・ダンサー』収録の全10曲は、書き下ろしの新曲とカヴァー・ソングとが半々になっているんだけど、オリジナルのなかでの最優秀が2「愛なんてなんなのよ」、5「プライベイト・ダンサー」だとすれば、カヴァーのなかでなら4「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」(アン・ピープルズ)と6「レッツ・ステイ・トゥゲザー」(アル・グリーン)という二曲のハイ・ソウルが要注目かな。
失恋後のつらい心境を綴った「アイ・キャント・スタンド・ザ・レイン」は、生演奏だったのをシンセサイザーやコンピューター・プログラミングに置き換えただけでアン・ピープルズ・オリジナルにほぼ忠実だけど、楽しいラヴ・ソング「レッツ・ステイ・トゥゲザー」のほうは、アル・グリーンのとかなり違っている。まず、ティナのヴァージョンは、最初にサビを置いて、全体の導入部、いわばヴァースみたいなものとしているよね。
しかしそれが功を奏しているかどうかは微妙だ。その部分はテンポ・ルパートだからだ。A メロ部になってはじめてあのリズムが効きはじめる。しかしそうなってからでも、アル・グルーンの「レッツ・ステイ・トゥゲザー」にあった、あのふわっと軽くやわらかくやさしいノリとタッチは、ティナのヴァージョンでは若干損なわれているかも。
主役歌手のヴォーカル・スタイルも、アル・グリーンのソフト・ヴォイスに比しティナは重たくずっしり来るパンチの効いた声と歌いかた。だから「レッツ・ステイ・トゥゲザー」という曲の持ち味を弱めちゃっている…、とは思っていないが、解釈と、その結果のできあがりのフィーリングは、だいぶ違っているよね。これはこれでティナなりの立派な表現だ。
それに、なんたってティナのアルバム『プライヴェイト・ダンサー』は、「愛なんてなんなのよ」という名曲に出会えたという喜び以上に、アン・ピープルズとアル・グリーンをぼくに紹介してくれたのだ。この事実は、その後のぼくの音楽人生の歩みを考えたら、本当にありがたかった。ティナ、この恩義は一生忘れません。
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