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2018/11/06

あらさがしをするな 〜 キース・ジャレット篇(1)

 

 

ゲイリー・ピーコックもジャック・ディジョネットも名手なのにどうしてこんな…、あ、いや、やめときます。キース・ジャレットのスタンダーズ・トリオ。なかなかいいものだってあるよね。個人的には1983年の(えっ、そんな遅かったっけ?)ファースト・アルバム『スタンダーズ、Vol. 1』がいちばん好き。これはマジでいい一枚だと思う。

 

 

もちろん当時はアナログ・レコードで聴いていたが、主に A 面を、というかたぶん A 面しか聴いていなかった。というのはそのころ、キース・ジャレットの表現するゴスペルちっくにアーシーな感覚がよくわかっておらず、じゃなくて1983年だとまだ黒人ゴスペルの世界をほぼ知らなかった。だから、B 面1曲目の「ザ・マスカレード・イズ・オーヴァー」はともかく、いまではこの『スタンダーズ、Vol. 1』で最も魅力的だと確信する「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」にピンと来ていなかった。

 

 

A 面はストレートにやるメインストリーム・ジャズのピアノ・トリオ演奏だもんね。あのころはまだこういうほうがよかったんだよね。しかしごくごくあたりまえの演奏というだけにはとどまっていない。かなり激しく三者がからみあっているが、キー・パースンは間違いなくジャック・ディジョネットだ。いやあ、すごいよね。ある意味、このアルバムの主役だ。

 

 

A 面の三曲ともそうなんだけど、特にむかしからいまでもこれが A 面では白眉と信じる2曲目の「オール・ザ・シングズ・ユー・アー」。左右両手同時で複雑に使いながらジャレットが弾きはじめ、しばらくのあいだはピアノとベースのデュオ演奏に近いというフィーリングで進む。そのあいだ、ディジョネットはブラシでプレイ。この時間は、イントロ部以外、どうってことないと思う。ピアノ・フレイジングはきれいでいいけれども。

 

 

ちょっとジャレットがうるさくうなりすぎだと思いながら聴いていって、問題は、じゃなくてすごいことになっているなと思うのは、三分過ぎあたりでディジョネットがスティックに持ち替えてからだ。そこからのビートの激しさは特筆すべき。手数だってかなり多く複雑。これ、手足四本での一発録りとは思えない怪物ドラミングじゃないだろうか。ゲイリー・ピーコックのソロに交代するまでそれが続くが、そこまでが至福の時間。あおられてジャレットもハードに弾きまくっているのがイイ。ふだんの、甘い感傷に流れがちな過度の情緒性がなく、鋭く厳しく硬いピアノ演奏だ。

 

 

ベース・ソロも終わってエンディングへ向けて進むパートも好きだ。最終テーマ演奏の前のワン・コーラスでジャレットは、ブロック・コード弾きでテーマの香りのするヴァリエイションを弾く。そこが大好き。気高く爽やかなフィーリングすら漂っているしね。最高じゃないか。こういった演奏も、表面的にはあくまでストレート・ジャズだけど、芯の部分にゴスペル感覚があるってことだろう。

 

 

A 面のほかの二曲「ミーニング・オヴ・ザ・ブルーズ」「イット・ネヴァー・エンタード・マイ・マインド」は、当時現役活動中だったかつてのボス、マイルズ・デイヴィスへのトリビュートだったのかもしれない。後者は説明不要。前者はギル・エヴァンズとのコラボでやった1957年のコロンビア盤『マイルズ・アヘッド』にあり。ジャレットの演奏だって二つともリリカルでいいね。まるでまたもう一回共演したいのですという、ひょっとしてラヴ・コールだった??

 

 

あるいはビリー・ホリデイがテーマのようになっていたと見ることも可能だ。B 面の「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」はもちろんビリーの自作曲だが、「ミーニング・オヴ・ザ・ブルーズ」は1958年のコロンビア盤『レイディ・イン・サテン』に、あるわけではないのだが、聴いているとまるで教え諭されているような気分になる3曲目の「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」に「ブルーズの意味を知るようになるまでは、恋とはなにかをわかったとはいえませんよ」と出てくるじゃないか。

 

 

まあこれは穿ちすぎかもしれないので、正真正銘ビリー・ホリデイの「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」。いやあ、沁みる、沁みすぎる、このゴスペル化されている一曲がさぁ〜。どうしてこんなにいいんだろう?三人ともアクースティック楽器を使っているが、これはロック・フィールのある8ビート演奏で、さながらゴスペル・ジャズ・ロック。かっこいいなあ〜。

 

 

ジャレットの弾くイントロ部からすでにただならぬ気配の漂うこの「ガッド・ブレス・ザ・チャイルド」。ディジョネットが叩きはじめた瞬間に別な高次元に達してしまう。常にピアノ・フレーズと対位的に弾くピーコックがからみ、ボトムスにロックな8ビートを置きながら、ピアニストが感傷的でありかつ崇高なフレーズを連発する様子に、聴き手のこちらまで感極まってしまう。

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