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2018/11/30

マイルズのファンク・ギタリストたち(1)〜 レジー・ルーカス篇

 

 

マイルズ・デイヴィスが自分のバンドの一員として(一定期間以上)雇ったギタリストは、以下で全員のはず。一、二回のセッションだけのゲスト参加とか短期間非常勤は省略した。

 

 

ジョン・マクラフリン(非常勤、1969〜72)

 

レジー・ルーカス(1972〜75)

 

ピート・コージー(1973〜75)

 

ドミニク・ゴーモン(1974〜75)

 

マイク・スターン(1981〜83)

 

ジョン・スコフィールド(1983〜85)

 

ロベン・フォード(1986)

 

フォーリー(リード・ベース名義、1987〜1991)

 

 

このうち、ファンク・ギタリストと呼べるのは、私見ではレジー・ルーカス、ピート・コージー、フォーリーの三名かなあ。ドミニク・ゴーモンも入れるべきか。ジョン・マクラフリンはジャズ/ロック系だし、マイク・スターンは(マイルズ・バンドでは)ハード・ロック・スタイル。スコフィールドもジャジーだしね。ロベン・フォードは白人ブルーズ・ギタリストかな。

 

 

それで1981年復帰後のベスト・ギタリスト(と呼んでおく)だったフォーリーのことはまた稿を改めるとして、今日は1973〜75年に大活躍したレジー・ルーカスとピート・コージーのコンビについて、いや、ほぼレジーのことについて、ファンク・ギタリストという側面に絞って、ちょちょっとメモしておきたい。そんでもって、結局のところ、鍵盤楽器重用主義だったマイルズのギター・ミュージック時代では、この二名同時在籍の1973〜75年こそがいちばんよかった。

 

 

このレジー・ルーカス、ピート・コージーの役割分担は明確だ。レジー・ルーカスは、言ってみればバンドを「支配」している。これで終わりにしてもいいがそうもいかないので付言すると、サウンド、リズム両面をかたちづくる役目を、主にコード・ワークのカッティングで果たしていて、このことは1975年来日時のインタヴューでマイルズも明言している。レジーこそが肝だと。

 

 

ピート・コージーは主にソロイストで、たぶんだけどぼくの聴くところ、たとえば『アガルタ』『パンゲア』の全ソロイストでいちばん美味しい内容を聴かせているのがピートだ。間違いないと個人的には思う。御大のソロより聴けるよね。そんなピートは、いわばファンカデリックにおけるエディ・ヘイゼルとかマイクル・ハンプトンのような存在だとみなしていいだろう。

 

 

実際、ピート・コージーのソロを聴いている時間はとても楽しく幸せな気分だけど、しかしバンド・サウンドの根幹を形成しているわけじゃない。それはレジー・ルーカス+マイクル・ヘンダスン+アル・フォスターのトリオがやっていることなのだ。そしてほかのバンドだとふつうはベーシストがハーモニー的にもリズム面でもバンドの推進力となっていることが多いけれど、この時期のマイルズ・バンドではレジーが中心人物なのだ。

 

 

喩えて言えば、ジェイムズ・ブラウンのバンドのジミー・ノーランみたいなことをやったのが、1973〜75年のマイルズ・バンドにおけるレジー・ルーカスじゃないだろうか。そのカッティングのノリ一発で、そのサウンドで、コードのカラーで、バンドを引っ張っている。空間を切り刻み、スペースを生んでいる。その能力は異常ともいえるほど、高い。

 

 

ヘンな言いかたかもしれないが、包丁使いのうまい料理人がキャベツかなにかをシャカシャカと歯切れよくリズミカルに刻んでいるかのように、レジー・ルーカスはギターで空間を刻む。その刻みに合わせたり外したりしてマイクル・ヘンダスンがベース・リフを入れ、アル・フォスターが叩く。レジーを中心にバンドが回っているんだよね。ソロイスト三名も、レジーが刻んでつくる空間に飛び込んでいるじゃないか。

 

 

さらに、大きくスペースが空いているときのレジー・ルーカスは、ゆったりと刻みを入れ、暗闇に光を差し込むかのごとく、しかもその光の色も工夫して多彩で、空間を埋める役目をすることもある。和音的にもハッ!とさせる驚きがある。そんなときのレジーは、いま進んでいる和音の根音から外れ、意外なコードをカッティングすることで、聴き手をもハッとさせるが、バンド・メンをも刺激している。しかしこのへんもボスは織り込み済みのやりかただ。

 

 

レジー・ルーカスが刻まないあいだは、バンドは止まってゆっくり休んでいる時間なんだよね。カッティングをはじめるとバンドが進みだし、リズムを形成し、音楽がかたちづくられる推進力となっているし、サウンドのカラーリングもしている。また折々に思わぬコードを入れてハーモナイズし、オーケストレイションまでもやっている。

 

 

だから言ってみれば、1973〜75年のマイルズ・バンドでのインスタント・プロデューサーみたいな、あるいはサウンド・コーディネイターみたいな、そんな役回りを、期してか期せずかレジー・ルーカスは見事に実行している。ボスのマイルズは、もちろんそうなるべくレジーを教育し、成熟してのちは安心してその上に乗っかっていたんだよね。

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