1998年のグナーワ・ディフュジオン再来?〜 エル・デイ(スペインとアラブ、其の三)
これはよく知っている世界だ。エル・デイ(でいいのかな、カナ表記は、El Dey)というアルジェリアのバンドの2014年盤『エル・デイ』。これは新傾向とかいうようなものじゃないねえ。約20年ほど前によく親しんでいた音楽だ。はっきり言えばあのころのグナーワ・ディフュジオンの再来。再来というもおろか、そっくりそのままで、それに ONB っぽい感じをちょい足し。
しかし ONB(オルケルトル・ナシオナル・ドゥ・バルベス)にもグナーワ・ディフュジオンにもないものがエル・デイにはある。濃厚なフラメンコ風味だ。ナイロン弦のスパニッシュ・ギターの響きがアルバム『エル・デイ』全編を支配している。ギターにかんしてはほぼそれしか聴こえないというに近いサウンド構成。弾きかたもフラメンコ・スタイルのめくるめくような幻惑的なものだ。
変わっているのは、そんなフラメンコ調スパニッシュ・ギターでレゲエ・カッティングをやったり、シャアビふうの華麗な旋律を奏でていたりすることだ。シャアビ、カビール系音楽、ライ(ふうなコブシまわし)、ほんのかすかなグナーワ風味、レゲエ、ラガマフィン、サルサ、そしてフラメンコ 〜 だいたいこれくらいが、アルバム『エル・デイ』の構成要素かな。
メイン・ヴォーカリストの声質や歌いかたが、かなりアマジーグ・カテブに似ていて、もとからの資質がそうなのか、あえて意識して似せているのか、他人の空似か、それらのミックスか、わからないが、まるで20世紀末ごろのグナーワ・ディフュジオンが2014年にフラメンコをともなって帰ってきたような、そんなフィーリングだよなあ、エル・デイ。
ONB とかグナーワ・ディフュジオンとか、こういったマグレブ・ミクスチャー音楽はやや勢いに陰りが見えるというのが最近のぼくの見方だったんだけど、アルジェ直輸入のこういった『エル・デイ』みたいなのを聴くと、そんなこともないんだなあという気がしてきた。落ちているかのように見えるのは、パリはバルベス発の情報に頼っているからで、現地ではドメスティックに盛り上がっているのかもしれない。
ともかく『エル・デイ』は、20世紀末の、あの時代の、ONB やグナーワ・ディフュジオンなどに熱狂し身を焦がした憶えのある音楽ファンなら、聴いていて思わず笑みが浮かぶ、ばあいによっては快哉を叫ぶかのような音楽アルバムに違いない。そういった向きにはオススメです。といっても、日本じゃたぶんエル・スールでしか買えないんでしょ〜?
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