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2018/11/12

ロイ・ブラウンの影響力とは

 

 

(Spotify に今日話題にするアルバムはまだありませんが、まあ似たようなものでしょう)

 

 

ロイ・ブラウン。今2018年にリリースされたばかりの Jasmine 盤新アンソロジー『グッド・ロッキン・トゥナイト:オール・ヒズ・グレイテスト・ヒッツ+セレクティッド・シングルズ 〜 As & Bs 1947-1958』こそ、このリズム&ブルーズ歌手のいちばんいいアンソロジーとなった。中身は選集というより完全集に近いものですらあるしね。

 

 

このジャスミン盤コレクション CD『グッド・ロッキン・トゥナイト』には、デラックス録音34曲(1947〜52)、キング録音12曲(1953〜55)、インペリアル録音13曲(1956〜58)をこの順で収録。ロイ・ブラウンの歌で代表作と言えるものはすべてあるとして間違いない。それがレコード発売順に並んでいるので、この歌手の持ち味や変遷もよくわかる。

 

 

ロイ・ブラウンは一般的にリズム&ブルーズ歌手とされているけれど、実態はどっちかというとジャズ・シンガーだよね。それくらいこの二者には差がないわけだけど、どうしても納得いかないというかたがたは、あいだにジャンプ・ミュージックを置いて考えてみてほしい。ロイはちょうどそれら三つの真ん中くらいの場所で曲を書き歌った。それがロックンロール・スタンダードともなったんだから、毎度毎度の繰り返しで恐縮ですが、ジャズとロックは「おんなじ」音楽です。

 

 

ただ、そこいらへんはなかなか実際の歌やサウンドで実証しにくいというか、実感できるんだけどそのためにはたくさんの黒人ジャズ〜ジャンプ〜リズム&ブルーズ〜ロック・ミュージックを聴いていなくちゃならず、だからやはりふだんはなかなか理解してしていただきにくい面がある。そんなときにこの音楽家をぜひ!と推薦したいのが、やはりほかならぬロイ・ブラウンなのだ。

 

 

ロイ自身はビング・クロスビーからの影響が最も大きいと語っていて、ジャスミン盤附属ブックレットの解説者さんは、どこがだよ?!ぜんぜん違うぞ!と言わんばかりの口調でこれを否定し、実際のロイの歌を聴けばわかるはずだとお書きだけど、ジャスミン盤『グッド・ロッキン・トゥナイト』をていねいに聴けば、ぼくなんかにはロイのいうビング・クロスビーからの影響とはわかりやすい発言だと思ってしまう。

 

 

つまり、ロイはジャンプ・シャウターと呼ぶにはかなりやわらかくやさしい歌手に聴こえる。ぼくのこの発言も否定されそうだけど、ほかのジャンプ〜リズム&ブルーズ歌手と比較してみてほしい。たとえばロイと同時代に活躍し、ロイの書いた「グッド・ロッキン・トゥナイト」をヒットさせたワイノニー・ハリス、またジャスミン盤の解説者さんがレイ・チャールズの名前をあげてロイはその先取りだったというそのレイとか、彼ら二名とロイのヴォーカルを聴き比べてみてほしい。

 

 

同じ「グッド・ロッキン・トゥナイト」一曲だけとってみても、先にヒットしたワイノニー・ヴァージョンに比べ、ロイのはまだかなりジャジーじゃないか。ワイノニーのは曲題どおり今晩やったるぜ!みたいな意気込みに満ちているが、ロイのはリビング・ルームでおとなしく座っているかのようなフィーリングですらあるもんね。後年のエルヴィス・プレスリーのものは、どっちかというとロイのヴァージョンに近い。たぶん、エルヴィスはロイのレコードを参照して下敷きにしたんだね。

 

 

このへん、1950年代半ばの白人歌手は、いかにワイルドで猥褻だといっても、やはりまだまだ穏当な表現を心がけたということかも。いまの基準や、あるいは当時の黒人音楽の表現枠からしたら物足りないとすら感じるようなものをエルヴィスは守り、あるいは当時のエルヴィスはまだその程度のやさしいはみ出しかただった。

 

 

だから、まあビング・クロスビー的とまでは言えないかもしれないがそんなようなジャジーなポップネスも持ったロイ・ブラウンこそお手本になりやすかったんだと思うなあ、白人歌手にはね。ジャスミン盤『グッド・ロッキン・トゥナイト』で聴けるロイは、かなりな部分、ジャズ・シンガーだってこと。百歩譲ってジャズ・シンガー的。あるいは(ジャズの一部としての)ジャンプ歌手っぽい。でもって、シャウターとは言いがたい。

 

 

それでも、黒人ジャズやブルーズから1950〜60年代のリズム&ブルーズ/ソウル・ミュージックが誕生する際に重要な役割を果たしたゴスペル・ミュージック要素をロイは持っていたと、ここだけは確実に言える。この点ではジャスミン盤解説者さんと同意見で、レイ・チャールズが一番手だったとするところに割り込んでロイの名前をぼくもあげておきたい。野卑さというか迫力、パワーではロイはやや劣るものの、先駆者には違いない。

 

 

そんな幅広さ(ある意味、アンビヴァレンス)を持っていたからこそロイは、後年の、たとえばクライド・マクファター、リトル・リチャード、ボビー・ブランド、リトル・ミルトン、B.B. キング、ジャッキー・ウィルスン、そしてエルヴィス・プレスリーやロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)にまで影響をおよぼすことになったんだとぼくは思っている。決してパンチの効いたシャウターだったからではなくてね。ロイ以上の強すぎる影響力を誇る1940年代のルイ・ジョーダン同様に。

 

 

ジャスミン盤『グッド・ロッキン・トゥナイト』を聴けば、デラックス原盤、キング原盤と、ブギ・ウギ・ベースのジャンプ・ナンバーか、またはスローならディープでちょっとメロウなバラードになるか、の二本立てでやっていたとわかるロイ・ブラウンだけど、インペリアル原盤ではラテン調リズム&ブルーズみたいなもの、はっきり言えばニュー・オーリンズ音楽にあるリズム・シンコペイションを表現しているものがあるのも楽しい事実だ。ファッツ・ドミノ・スタイルの、ダダダ・ダダダの三連反復ピアノだってある。そりゃあインペリアルだもんなあ。ロイのそれらもすべてニュー・オーリンズで録音され、プロデューサーはデイヴ・バーソロミューだったようだ。

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