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2018/11/23

サム・アミドンのおすすめマイルズ 〜『ディーコイ』

 

 

サム・アミドンの10月26日のこのツイートに勇気を得て、ちょっと書いてみよう、マイルズ・デイヴィスの『ディーコイ』(1984)について。ぼく自身もなかなかおもしろいなと前から思ってはいるものの、特に書けることがないかもと引っ込み思案だった。サム、ありがとう。でもちょっと褒めすぎじゃないかなとは思うんだけどね。「ヘンな感じ」のほうはわかりやすい。

 

 

 

サム・アミドンの言うウィアードとは、たぶんアルバム2曲目「ロボット 415」と4曲目「フリーキー・ディーキー」(ここまでが A 面)のことなんじゃないかなという気がする。このフィーリング、サムがそう表現するのはとてもよくわかるものだよね。でもぼくはそんなにこの二曲がおもしろいようには感じない。不気味でゾッとする感じがあって、たしかにこういうのは公開されているマイルズの全録音でほかにないんだけど。

 

 

え〜っとね、そいでとにかくね、間違いない記憶だけど、マイルズの1981年復帰作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』からワーナー移籍第一作の1986年『ツツ』までは、ホント必死で聴いた。繰り返し繰り返しなんどもなんどもなんども、聴いたんだ。本当に。『ツツ』まではアナログ・レコードで買って、擦り切れるまで聴いたさ、そりゃあ。

 

 

そんな記憶のなかで、やはり『ディーコイ』でオオッ!となったのもたしかだ。なにがかというと、このアルバムはマイルズ久々の鍵盤楽器本格重用体制復活だったのだ。個人的リアルタイム聴取では初の事態。だからつまり、ぼくが接していたマイルズはギター・バンドのひとで、鍵盤はみずからが弾くオルガンとかエレピとかシンセサイザーだけっていう、そんな音楽家としての姿が刻み込まれていた。

 

 

しかしこれは、以前も詳述したがどっちかというとギターよりもピアノなどの鍵盤を重視する傾向のあるマイルズにとっては異様な時期だったんだよね。スタジオ録音作でいうと1972年の『オン・ザ・コーナー』を最後にマイルズはギター・バンド時代に突入し、そのまま1983年の『スター・ピープル』までそれが続いた。あいだ六年間近くのブランクもあった。

 

 

ところが1884年の新作『ディーコイ』では大々的に鍵盤シンセサイザーの分厚いサウンドが支配している。弾いているのがロバート・アーヴィング III。このひとは、実は1981年復帰作『ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン』の二曲「シャウト」「ザ・マン・ウィズ・ザ・ホーン」で演奏していたシカゴ人脈のひとり。マイルズもこのころから目を付けていたようだけど、まだまだツアーもこなすバンド・レギュラーということにはならなかった。

 

 

このへんはちょっと事情もあったみたいだけど、『ディーコイ』の音楽内容に関係ないと思うから省略。気になるかたはネットで調べてみてください。とにかく、鍵盤楽器でガチガチの分厚い和音を鳴らし、その上にみずからのトランペットや、サックスやギターを乗せていくという、マイルズ本来の志向・嗜好の本格復活が『ディーコイ』だった。

 

 

ロバート・アーヴィング III は、お聴きのとおりサウンド・メイクにとても重要な役割をはたしている、どころかこれはもはやほぼバンド・サウンドを支配しているとしても過言ではないほどシンセサイザーが鳴りわたっているじゃないか。それだけではなくボビーはアルバム中、最も多くの曲でコンポーザーとしてクレジットもされている。

 

 

アルバム『ディーコイ』では B 面(5曲目以後)はあまりおもしろく聴こえない。それでもリリース時は全サウンドを脳内再生できるほど聴いたんだけど、いまやどうも、う〜ん、ちょっとこれはなあ…。6曲目の定型ストレート・ブルーズ「ザッツ・ライト」はそれでもまだ聴けるものかも。B 面のそれ以外の二曲は1983年のライヴ・マテリアルから抜粋編集し、新しい曲名を冠しただけの既存曲にすぎない。

 

 

そのまあまあ聴けるかと思う「ザッツ・ライト」にだけ、アレンジャーとしてギル・エヴァンズの名がクレジットされているのは、マイルズのアルバムではなかなか珍しいことだ。ノー・クレジットでギルは随所に参加しているからだ。具体的にペンをふるわなくても、レコーディング・スタジオに同席していたというセッションなら、枚挙にいとまがない。ってことは助言くらいしたんじゃないかな。

 

 

実際、アルバム『ディーコイ』を聴くと、1〜4曲目の A 面収録分にだって、間違いなくギルは手を貸しているとわかる。それもあきらかにアレンジ譜面を書いているよね。たぶんだけど四曲とも。あっ、そういえばサム・アミドン推奨の二曲(で合っているかどうか知らないよ)「ロボット 415」「フリーキー・ディーキー」は、マイルズにしては珍しい曲想だけどギルが…、と考えればわかりやすいね。う〜ん。そうだったのかなあ…。

 

 

ともかく『ディーコイ』はアルバム全体にわたり、譜面を書くアレンジャーがいないと実現不可能な音楽のように思える。ふりかえれば、前作『スター・ピープル』はテオ・マセロが手がけた最終作となり、別れたマイルズは次作以後セルフ・プロデュースすることとなったので、サウンド・アドヴァイザー役みたいな人物が必要だと考えたかも。それをギルに頼んだのかも。まったく根拠レスな憶測ですが。

 

 

『ディーコイ』A 面では、四曲の流れもいい。1「ディーコイ」、3「コード M.D.」がフックの効いたノリのいいファンク・チューンで、しかもバンドの正式メンバーとして迎えたいということで(でもそうならなかった)ブランフォード・マルサリスがソプラノ・サックスを吹いている(B 面の「ザッツ・ライト」もそう)。とにかくグルーヴィな二曲で、本当にカッコイイよなあ。トランペット、サックス、ギター(ジョン・スコフィールド)と、三名のソロとも内容がいいが、それ以上にリズムがすばらしい。

 

 

そんなファンク・チューンふたつと交互に流れてくる奇怪なウィアード・チューン二曲「ロボット 415」「フリーキー・ディーキー」。しかし、前者にはちょっとカリブ音楽っぽいニュアンスも感じとれるし(ミノ・シネルのおかげ?)、後者も一時期のウェザー・リポートみたいに聴こえたりするのはシンセサイザー・サウンドのためか、あるいはやはりどっちにも参加したミノの貢献か。

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