かわいいかわいいフィリス・ディロン
このアルバムは bunboni さんに教えていただきました。ありがとうございます。
初レコードが1966年のシングル「ドント・ステイ・アウェイ」であるフィリス・ディロン。レコードはぜんぶデューク・リードのトレジャー・アイル・レーベルから発売されている歌手みたい。生涯唯一のオリジナル・アルバムである『ワン・ライフ・トゥ・リヴ』が1972年のリリース。今2018年に大幅に拡充されてドクター・バードから出しなおされたものが今日の話題。といってもぼくはそのエクスパンディド・エディションが初体験で、こ〜れが!かわいいんだよ〜。
『ワン・ライフ・トゥ・リヴ:エクスパンディッド・エディション』のオリジナル・レコード分は12曲目までで、それ以後15曲16トラックのボーナス・トラックは、基本、それ以前のシングル・ナンバーから持ってきているようだ。上記「ドント・ステイ・アウェイ」も17曲目にある。カヴァー・ソングの多いフィリスには珍しいオリジナル・ナンバーで、これもチャーミングな名曲だ。
ボーナス分では、22曲目「チューリップス(アンド・ヘザー)」もいいよね。爽やか系なキュートさで。しかしなんといってもボレーロ好きのぼくにとって最大の興味は15曲目の「ペルフィディア」。メキシコの作曲家アルベルト・ドミンゲスが書いた名曲、名ボレーロだもんね。「ペルフィディア」については、こじんまりとしたものを書いてみようと思っているので、たぶん明日、だから今日は簡単にまとめると、フィリスのヴァージョンはやっぱりロック・ステディになって、なんだか明るく楽しそうにさようならを言っている。
甘いボレーロだとはいえ、「ペルフィディア」は恋人に裏切られ別れを告げるという内容の歌。それがこんなにカラリとした…、あ、いや、フィリスの歌にもちょっとの官能性は残っているかも。彼女はスペイン語ではなく英訳詞で歌っている。リズムのこんな感じとあいまって、つらい恋をひきずらない適度なドライさ、ちょうどいい程度の(重い?軽い?)情緒を表現できていて、なかなかおもしろいんじゃないだろうか。
まあでもアルバム13曲目以後のボーナス・パートでは、やっぱりオリジナル・ソングである17曲目「ドント・ステイ・アウェイ」に注目が集まるところだよね。レゲエほどの重たいシリアスさを持たず、スカよりはダンス要素を落ち着かせ、聴くための音楽となっているその1966年の「ドント・ステイ・アウェイ」には、北米合衆国のリズム&ブルーズが持っていたものもしっかり感じられる。
さらに、「ペルフィディア」でも「ドント・ステイ・アウェイ」でも、アルバムのぜんぶの曲がそうなんだが、フィリスの声がキュートでかわいいんだ。まるでティーン・アイドル歌手みたいな声と歌いかたで、そのチャーミングな声のトーンに、たぶんアイドル・シンガー好きのかたがただったらすんなり受け入れていただけそうな、そんな歌謡フィーリングがあるよ。逆も言える。ガツンと来るハードなものがお好きな向きにだったら、フィリスは推薦できないかも。
アルバム1〜12曲目のオリジナル・レコード『ワン・ライフ・トゥ・リヴ』パートでは、カヴァー・ソングの秀逸な歌いこなしが聴きどころ。有名どころだと、スティーヴン・スティルスの2「ラヴ・ザ・ワン・ヨー・ウィズ」、ビートルズの4「サムシング」、カーペンターズが歌ったバート・バカラックの8「クロース・トゥ・ユー」などがあげられる。フィリスのだってどれも見事なできばえだ。
なかでもバカラック・ナンバーではロック・ステディふうな料理を施さず、そのままカーペンターズ・ヴァージョンに沿ってのアレンジと歌いかたでフィリスはやっている。この曲だけでなく、今日話題にしている CD アルバムではほかにもある。あのジャマイカン・リズムじゃないものが。それでフィリスはフィリスらしさをちょうどよくキュートに出せているし、とってもかわいらしいし、これはロック・ステディがそういう音楽だったのか、フィリス・ディロンが(活動期間は短かったとはいえ)それだけ立派な歌手だったのか。
とりあげられている曲も、1972年のレコード・アルバムである『愛に生きる』というそのテーマに沿ったものが選ばれていて、スティーヴン・スティルスのもジョージ・ハリスンのものそうだし、それら以外もぜんぶそう。ぜんぶの曲を濃すぎない適切なソウルフルさを込めながらていねいに歌い、そこに幼さすら感じるキュートな(アイドルっぽい)かわいらしさの衣をまとわせて、聴き手を微笑ませることのできる、そんな歌手だったんじゃないかな、フィリス・ディロンって。いやあ、ホ〜ント、いいです可愛いです。
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