月光で輝く水玉ドレスのメグ・ライアン
「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」。ジミー・ヴァン・ヒューゼンとジョニー・バークが書いたこのポップ・スタンダードのヴァージョンで、ウェス・モンゴメリーのもの以上に美しいものはきっとこの世に存在しない。ウェスのそれは1960年のリヴァーサイド盤『ジ・インクレディブル・ジャズ・ギター』3曲目。あぁ〜、なんて美しいんだ。この世のものとは思えないほどじゃないか。こういうとき、音楽とは天上にある永遠のものなんじゃないかと思える。
「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」はもちろん歌詞のある曲だから、フランク・シナトラやエラ・フィッツジェラルドなど、歌手もたくさん歌っている。近年ならステイシー・ケントのもよかったなあ。でも、歌入りも楽器演奏のものもすべてひっくるめて、このポップ・スタンダードを最もよく、最も美しく、最も歌本来の持ち味を(歌詞の意味含め)活かしてやっているのが、ウェス・モンゴメリー・ヴァージョンに違いない。そう確信している。
この「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」という曲の歌詞は、ネットで検索すればすぐに出るし、和訳が載っているサイトもあるので、ご存知ないかたもご覧いただきたい。そうすれば、歌に出てくる水玉ドレスを着て月光に輝く女性主人公がメグ・ライアン・タイプだとご理解いただけるはず。まあたんにぼくがメグのファンなだけかもしれませんがね〜。
甘くとろけるようなロマンティック・ムード横溢のこの「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」をやるにあたり、『信じられないジャズ・ギター』のウェスは、一曲まるごとぜんぶオクターヴ奏法で通している。オクターヴ弾きでない瞬間はなし。このアルバムはウェスの作品のなかでもとりわけオクターヴ奏法がたくさん聴けるという特色があるのだが、一曲すべてオクターヴ奏法しかやっていない演奏って、このギタリストの音楽生涯でほかにあるのかなあ?
そんなオクターヴ奏法が、この「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」では、ひときわ繊細美を放つ効果を持っているよね。元来この演奏法は1オクターヴ離れた二音をユニゾン合奏することで、音に丸みとふくらみ、ひろがりを持たせるのが目的なんじゃないかと思うんだけど、この曲でのウェスは、夜のパーティで出会ったメグ・ライアンのチャーミングさと甘い空気感をきれいに表現しているのに用いている。
この曲のもとから美しい旋律の動きをちっとも殺さず最大限に表現できるよう、カルテットの全員も細心の注意を払っているなというのが、聴けばよくわかるよね。イントロのトミー・フラナガンからして、あまりに没頭しすぎかも?と思っちゃうほどスウィートでロマンティックにシングル・トーンを綴る。エコーが効いていて、雰囲気満点だ。
そこにウェスが入ってきた瞬間にぼくは溶けてしまうんだ。メグ・ライアンの可愛さに、じゃあない。ウェスの、カルテットの、演奏の熟達した甘み表現法に、とろけてしまうってことなんだ。つまり、このウェスの「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」を聴くぼくは、女性に一目惚れした男性の恋心に共感しているかのようでいてさにあらず。その実、音楽のチャームのとりこになっている。
音楽でも文学でも絵画でも映画でも、フィクション作品への共感、のめりこみは、いつでも常に、こういったメタ特性というか、表現じたいやスタイルに惚れるという部分があって、表現対象や表現内容への愛や共感だけじゃないばあいもあるかも。すくなくともぼくはそうだ。恋愛ソングを聴いて、実体験か仮想の人間恋愛に思いを馳せているかというと、それだけじゃない。音楽愛を感じ、悦に入っているというのが本当のところなのだ。
ウェスの「ポルカ・ドッツ・アンド・ムーンビームズ」は、そんなメタ音楽(自己)恋愛を最高度にまでたかめてくれる至高の美しさを放つサウンドを持っているんじゃないだろうか。きれいだ。きれいの一言に尽きる。ここにあるのは、ぼくのばあい、女性愛だとしてもその女性とはミューズ、すなわち、女性へと姿を変え水玉ドレスをまとい月光に輝く《音楽》への愛ということなんだ。
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