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2018/12/30

人生ってすばらしい、モナルコの王道サンバ 〜 ブラジル三題(2)

モナルコの2018年新作『De Todos Os Tempos』のことも bunboni さんはお書きですが、これにかんしては有名古参サンビスタだし、王道のエスコーラ系伝統サンバだし、内容もすばらしいしで、それなりに情報はあったから、ぼくも知ることができました。ですが、bunboni さん、それから Astral さんに感謝します。サンバ好きは全員反応できるアルバムですね。
"Obrigado" ということばは、小学生の終わりか中学生のはじめごろ、山本リンダがどれかの曲で歌い終えて袖へ向いて体をかしげる瞬間に小さな声でオブリガードとサラッとひとこと言うので知った。テレビの歌番組でね。しかしあのころ、ブラジルのことばも音楽もなにひとつわかっていなかったのに、あのひとことが印象的で、音楽もサンバっぽいダンス歌謡だとか、ありがとうという意味だとか、どうして知っていたんだろう?不思議だが、事実だ。

サンバを歌ってオブリガード、これはモナルコの2018年新作『De Todos Os Tempos』の一つのキーだと思うんだよね。そう気づいたら(関係ないけど)山本リンダの思い出にたどりついちゃった。ごめんなさい。やっぱりあのへんが(ジャズキチになる前の)ぼくのきっかけだったんだね。ストレート・ジャズを知って夢中になって、地下に伏流水となってもぐったままだったんだと思う。でも消えてはいなかった。最近ようやく頭を上げてきた。

なんにせよ現役活動中の古参サンビスタのなかで最大の注目株かもしれないモナルコの2018年作『De Todos Os Tempos』はすばらしすぎる。しかもどこにも衒いや気取りや気負いのない素直でナチュラルなストレート・サンバだ。80歳超えた老人がそれをそのままやって、いまの時代にここまで心に響く音楽に仕上げることができるなんて、すごいことじゃないか。モナルコの力というだけでなく、サンバなど古くから連綿と受け継がれてきている音楽が決して古びないというそんな伝統のパワーこそ、真に大切なものじゃないかな。

だから、サンバ好きやブラジル音楽に興味がある人間にとって、2018年最大の重要作がこのモナルコの『De Todos Os Tempos』かもしれないんだよね。歌っている曲はすべてモナルコの自作か共作。伴奏編成は、おなじみの面々にまじり新顔もいるようだ。新顔のなかで、個人的に大好きなひとだからか、バンドリンのルイス・バルセロスが気になった。

ルイス・バルセロスは全曲に参加しているわけではない。数曲だけなんだけど、ルイスが弾いているものは、一聴、あっ、彼だ、とわかるサウンドを出しているのはさすがだね。バンドリンの鉄弦の硬い響きがキラキラ輝いて、7弦や6弦のギターや、カヴァキーニョ、打楽器、バック・コーラス隊などの伴奏陣のなかでもひときわ目立つ。それがモナルコのこの渋く枯れた声を盛り立てているよなあ。

アルバム『De Todos Os Tempos』は、全16曲、だいたいどの曲も似たようなグルーヴを持っていて、それは20世紀はじめごろからのエスコーラ・サンバからなにも変わっていない、変えていない、つまり(どんな客をもうならせる)老舗の味っていうやつだけど、ぼく的にはなかでもゲスト・シンガーが参加した二曲がことさら響く。

すなわち、アルシオーネ参加の5曲目「Uma Canção Pra São Luis」と、ゼカ・パゴジーニョ参加の12曲目「Seu Bernardo Sapateiro」。アルバム中どの曲もそうだけど、やはりここでもアレンジャーの存在を実感するし、実際、ブックレットに一曲づつ明記されている。このふたつの曲調は反対で、前者は哀愁の短調、後者は陽気な長調。これらの二傾向が併行し、ないまぜになって、アルバム『De Todos Os Tempos』全体が構成されているんだけど、あたかも人生とはそんなもんだと教えられているかのようだ。

それにしても、5「Uma Canção Pra São Luis」なんか、本当にすばらしく泣けるサウダージを持っているじゃないか。クラリネットを中心とするリフが繰り返し入るけれど、そのアレンジされたフレーズも最高に沁みる。コーラス隊も、そして主役のモナルコとアルシオーネの声も絶品。バンドの演奏も落ち着いていて、いいね。

モナルコのこの2018年新作『De Todos Os Tempos』には、サンバの、ブラジル音楽の、いや、音楽の、つまり人生の、すべてがある。楽しいこともつらいことも、幸せなことも不幸なことも、酸いも甘いも、すべてを味わってきて乗り越えて、いま、静かな場所にいるモナルコが説く「人生ってすばらしいもんなんだよ、感謝しよう」っていう、そんなこと 〜 つまり <音楽 = 人生> のあらゆることがここにあるね。

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